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不運続きの車中泊旅。鳴門の渦潮、直島、圓教寺…訪れた人気観光スポットがことごとくガラ空きだった理由

集英社オンライン / 2023年2月12日 12時1分

祖国・日本を再発見するべく、行き当たりばったりで進む男一匹真冬の車中泊旅。西へ西へと向かう今回の旅はおそろしいほどついてないというか、ついているというか……。

行き当たりばったり旅で四国に上陸。
まずは渦潮見物だ!

確たる目的地を定めず、ただ西へと進路をとって、行き当たりばったりで進む僕の“男一匹真冬の車中泊旅・ゴーウェスト編”。

出発から4日目(2023/1/16)の朝は、淡路島を抜けて大鳴門橋を渡っていた。
橋の上はとんでもない強風が吹きすさび、僕の非力な車中泊専用カー、スズキのエブリイちゃんを翻弄する。
狭い海峡を吹き抜ける風とは、こんなにも強いものなのか。
ハンドルを取られまくり、なかなかの恐怖体験だった。


淡路島側から渡ってきた大鳴門橋

四国の玄関口である、徳島県の鳴門市に来たのは初めてだ。
鳴門といえば、やっぱり渦潮は見ておかねばならぬ。

渦潮見物の拠点となる鳴門公園には午前10時過ぎに到着したが、渦潮は潮の満ち引き具合によって現れるため、今日は満潮時刻である12:50の前後1時間がピークだという潮見表が掲げられていた。

あちこちに渦潮の“見頃時間”が掲げられていた

そこで、鳴門公園の展望台や大鳴門橋架橋記念館などを見学して時間をつぶしたのち、大鳴門橋下部に設けられた“渦の道”に向かった。
“渦の道”とは、渦潮を最適ポイントの真上から見られる観光用遊歩道だ。

ここから眺める渦潮は、大迫力のスペクタクル!!

渦潮発生ポイントの真上を歩ける“渦の道”

……の、はずだったのだが。

なぜかまったく起こらない渦潮。
展望室のガイドさんの説明に愕然

ワクワクしながら海を見つめていたのに、待てど暮らせど渦らしきものは発生しない。
海面は確かに複雑な潮の動きをしていて、そちこちで泡立ったり、小波が折り重なったりしているのだけど、一向に渦巻く気配がないのだ。

渦潮は起こりそうで起こらない

これはどういうことかと首を傾げていたら、展望室に常駐しているらしいガイドのおばちゃんが、観光客たちに向かって大きな声で解説をはじめた。
「ごめんなさいねえ。今日の渦潮はイッチバン小さい渦潮。『小潮(こしお)』なので、月でイッチバン渦を巻きにくい日なんですよお」

げ。そういうこと?

ガイドさんとしての立場上なのか、「渦潮」と言い張っているけど、どこにも渦なんて巻いてないし。

ガラス張りの床で、渦潮を真上から観察できる(こともある)展望室

太陽と月と地球の位置関係によって地球の海の水に偏りが生じるため、ひと月の間でもっとも潮の干満差が大きくなる日が「大潮」。
逆にもっとも潮の干満差が小さくなる日が「小潮」である。

よりによって今日はその「小潮」。渦潮が発生しにくい条件の日なのだ。
実は“渦の道”への入場券を買う前に、僕はネット情報でその件を把握していた。
だけど、少しくらいは渦を巻くのではなかろうかと鷹をくくっていたのである。

だって、あの超有名な鳴門の渦潮だもの。
今日しか来られない遠方からの客だっているんだから、そのくらいのサービスはするでしょうよ、と。

しかし自然は甘くなかった。
そんな一見さんの勝手な期待に応える筋合いはないとばかりにマイペースを崩さず、今日は巻きませんよと頑なだ。

まあ……、仕方ありませんな。
またいつか来よう……。

と独りごちて、僕はうなだれつつ鳴門をあとにした。

現代アートの拠点、直島に行こう!

ここで少し日付は飛んで、車中泊旅6日目(2023/1/18)の話になる。
瀬戸大橋を渡って本州側へ戻っていた僕はその日、現代アートの拠点として有名な、瀬戸内海に浮かぶ小島、直島へ行こうと考えていた。

直島は、行政的には四国の香川県に属する島だが、岡山県の宇野港からカーフェリーで渡るのが一番近い。
行き当たりばったり旅なので直島行きは、前夜、車の中で地図を見ていてふと思いついた。

念のためネットを使って調べてみると、島内に点在するアートのうち、屋外展示物は自由に見学ができるものの、ベネッセハウスミュージアムや安藤忠雄設計の地中美術館、それに「家プロジェクト」(現代アートによってリノベーション古い民家や寺社)の屋内見学などは、事前に時間指定予約が必要ということだった。

しかしサイトを見てみると、どこもまったく予約ができない。
翌日も翌々日も予約不可で、可能なのは3日後の土曜日以降ということがわかった。

急ぐ旅ではないが、このために3日後まで足止めされるわけにはいかない。
屋外展示物は見られるようだし、それに予約がいっぱいでもキャンセルなどにより若干の当日券が出ることもあるという情報があったので、とにかく島へ渡ってみることにした。

直島行きカーフェリーへの乗船を待つ愛車

軽自動車+ドライバー1人のフェリー料金は、片道1960円だった。出港から20分ほどで、直島の宮浦港に着いた。

岡山県・宇野港⇄直島・宮浦港を結ぶカーフェリー「おりんぴあ どりーむ せと」

直島の屋外展示物では特に、草間彌生による水玉模様のカボチャのオブジェが有名だ。
カボチャは2種類あり、2006年に制作された大きな『赤かぼちゃ』の方は、宮浦港の敷地内にあるということだった。

有名な草間彌生作『赤かぼちゃ』は、
無粋な作業用コーンに囲まれていた

フェリーから降りてすぐ港の駐車場に車を停め、さっそく『赤かぼちゃ』のある方に向かってみたのだが、近づくにつれ「あれれ〜?」という気持ちになった。
内部に入ることもできるはずの高さ4m・幅7mの巨大カボチャの周りにはコーンが並べられ、立ち入り禁止になっていたのだ。
作業服姿の何人かがカボチャを囲み、ペンキで外側の色を塗り直している。
どうやらお化粧直しの作業日だったようだ。

お色直し中の『赤かぼちゃ』

まあ、仕方がないでしょう。
そういうこともあるでしょう。

気を取り直して、車で島の反対側の本村地区へ移動。
家プロジェクトの『護王神社』や『南寺』を、外側から見学した。

家プロジェクト『護王神社』

家プロジェクト『南寺』

2015年竣工の直島ホールもアートな建築物

しかし、ここで僕はおかしいなと思いはじめていた。
あまりにも、人の気配が薄いのだ。
僕のように島内の地図を片手に、屋外のアート巡りをしている人がチラホラいるにはいるが、いくらド平日とはいえあまりにも寂しい雰囲気だ。

古い建物が並ぶ住宅街の中を歩き、家プロジェクトの『角家』に来ると、門が少し開いていて、中に人がいるのが見えた。
屋内の床面に施された、電球を使ったアート作品らしきものも見える。

家プロジェクト『角家』

『角家』の中。勝手に入ってすみませんでした

きっとスタッフがいるだろうから、当日券のことを尋ねてみようと思って敷地内に入り、玄関をガラガラと開けてみると、中にいた若い3人の男女が驚いたように僕の方を振り返った。
少しひるみながら「あのう、今日って見学できますか?」と尋ねると、1人が「すみません、今日はメンテナンスで、ダメなんですよ」と答えた。

さらによくよく聞いてみると、実は今週の直島は一斉メンテナンス中で、チケットの必要な施設はどこも見ることはできないと言うではないか。

な、なるほど〜。
し、知らんかった〜。

全島メンテナンス中の直島だったが、
救いとなった『南瓜』と柴犬

島内にはまばらながら、外国人を含む観光客が歩いている。
彼らは、メンテナンス休業中だということを知ってて、敢えて来ているのだろうか?

僕は失意の中、草間彌生作の2つ目のカボチャ作品、『南瓜』に向かった。
1994年に制作された、直島のシンボル的作品である『南瓜』は、2021年8月の台風によって大きく破損してしまったが、復元制作されて2022年10月から同じ場所に展示されているという。

半ばやさぐれながら「黄カボチャもどうせ、分解清掃かなんかしてるんでしょ」と思いながら歩く僕の目に入ってきたのは、桟橋の突端で海をバックに佇む、綺麗な『南瓜』の姿だった。

綺麗な『南瓜』が見えて救われた

多くの観光客が、今日の直島でほぼ唯一であるこの“映えスポット”を逃すまいと写真を撮っていた。
僕も負けじと写真を撮りまくる。

フォトジェニックな『南瓜』

僕と同様、1人で見学に来ているらしい女性のスマホのシャッターを押してあげたついでに、「今日、こんなにメンテナンス中だって知ってました?」と聞くと「知りませんでしたよ〜。『赤かぼちゃ』の作業も、あれ、一日中やってるんですかね?」と残念がっている。

やっぱりそうか。
今日、直島をウロウロしている人たちは、この僕と同様、下調べの不十分な行き当たりばったりタイプの旅行者なのだな。

「簡単には終わりそうにない雰囲気でしたね。僕は、作業員も含めて現代アートと思い込むことにしましたよ」と言うと、「なるほど。それ、いいですね〜」と笑ってくれた。

とにかく、タイミング最悪の直島訪問だったので、とっとと切り上げて岡山県に戻ろうと考えて帰ってきた宮浦港で、最後にすごくカワイイ子と出会えた。

柴の子犬だ。
ウヒョオと思って触っていると、近くにいた港の作業員らしいおじさんが、「連れて行かんといてよ。うちの犬やから」と言ってきた。
「3ヶ月くらいですか?」と聞くと、「まぁそんなもん」とぶっきらぼうに答えた。
この適当な感じがいい。
柴犬とおっさんというのは、よく似合うものだ。

やさぐれ気味だった心を癒してくれた柴の子

かくして、あっという間に本州へ逆戻り。
結局、直島には3時間しか滞在しなかった。
アートと生活が混然一体となった島全体の雰囲気を味わえたのは良かったが、どう考えても不完全燃焼だ。
ここも、またいつか再訪するしかない。

鳴門の渦潮といい直島といい、どうも今回の旅はタイミングを外しがちだ。
「よく調べてから行けばいいのに」と言われれば反論の余地もないのだが、それにしてもツキがない。

そして、翌日に訪れた兵庫県姫路市で、またしても僕は打ちのめされることになる。

姫路の地元民からのおすすめに従い、
向かった先はハリウッド映画のロケ地

7日目(2023/1/19)の昼下がり、僕は兵庫県・姫路市の書写山を歩いていた。

書写山・書寫山(しょしゃざん)とは、兵庫県姫路市にある山。山上には西国三十三所の圓教寺がある。西播丘陵県立自然公園に含まれており、兵庫県の鳥獣保護区(特別保護地区)に指定されているほか、ひょうごの森百選、ふるさと兵庫50山に選定されている。書写山の一部には原生林が残る。

とはWikipediaの完全丸写しで、僕はこの日の朝まで、書写山のことなどまったく知らなかった。
姫路は城だけ見学して先へ進もうと思っていたので、その日の朝は、溜まっていた洗濯物を処理するため市内のショッピングセンターの駐車場の一角にあるコインランドリーで洗濯をしていた。

洗濯を終え駐車券の処理方法で迷った僕は、コインランドリーのメンテナンスに来ていた女性に聞いてみた。
すると、精算方法を教えてくれたうえで「旅行中ですか?」と逆に尋ねられた。
車中泊の旅をしていることを話すと、その人は「姫路はねえ、皆さんお城だけ見て通過しちゃうんですよ。他にもいろいろと、良いところがあるのに」と言う。

そこで、姫路で見逃せない場所はどこかと尋ねると、書写山にはぜひ行くようにとすすめられたのだ。
山の上にはロープウェイで簡単に行けて、そこから山道を歩いてお寺の建物めぐりができること。
古いお寺はとてもいい雰囲気で、『ラストサムライ』や『関ヶ原』など、映画のロケでもよく使用されているということを教えてくれた。

それで僕は姫路城を見た後、教えられたとおり書写山へと向かったのだ。

ロープウェイにて、山上までは簡単に到達できた。
そこからの山道はけっこうきつかったが、運転ばかりで運動不足気味の僕にはちょうどいい機会となった。

書写山ロープウェイ

山上に点在する圓教寺の伽藍群をすべて回った。

舞台造りの圓教寺・摩尼殿

素晴らしい寺院の見学を終え、
帰りのロープウェイで聞かされた事実

映画『ラストサムライ』の劇中で、トム・クルーズが渡辺謙と初めて対峙したという設定のお堂は、山の一番奥にある食堂(じきどう)だった。

圓教寺の本殿・大講堂(右)と、修行僧の寝食の建物・食堂(奥)

森厳なる山の奥に鎮座まします古寺、圓教寺は康保3年(966年)の創建。
「西の比叡山」と呼ばれるほど寺格が高く、中世には比叡山、大山とともに天台宗の三大道場と称された巨刹だ。(またWikipediaからのカンニング)
でも僕は今日の今日まで、姫路にこれほどすごいお寺があるなんて、まったく知らなかったのだ。

日本は広いぜ。
まだまだ知らないところがたくさんある。
俺なんて、東の街の一隅に住む、井の中の蛙にすぎぬよのお。

などと考えながら乗っていた、帰りのロープウェイ。
客は僕1人だけだったので、スタッフの方と気軽に話すことができた。
それによると、昨日の1月18日は書写山が一年でもっともにぎわう、最大のお祭り日だったのだという。

圓教寺の祭礼日は、曜日に関係なく1月18日と昔から決まっていて、“鬼追い”という1000年以上前から続く伝統行事が盛大に執り行われる。
だから昨日は見物客で、ロープウェイも山道も超満員。
その反動で、今日はこんなに空いているんですよ、という話だった。

えええ……。

だったら、昨日来れば良かった
またやってしまった。
どうも今回の旅は、何かに呪われているようだ。

しかし、残念そうにしている僕にロープウェイのスタッフさんはこう言った。
「でも昨日だったら大混雑で、こんなにゆっくりはできなかったですよ」

なるほど……。

そうかそうか。
ものは考えようだ。

鳴門の渦潮も直島も書写山も、有名な観光地だというのに、びっくりするほど人が少なく、マイペースで悠々と見学することができた。
それはことごとく、バッドタイミングの日だったからなのだ。

そもそもこの車中泊の旅は、観光地巡りをすることが目的ではない。
半世紀以上も暮らしているのに、実は知らないことだらけかもしれない我が祖国・日本を再発見するため、地べたを這うように走り回ってみようというのが目的なのだ。

それなら、ハレとケでいう「ケ」の姿、普段着の土地土地をゆっくり見られた方がいいではないか。
むしろ、自分はついていると言っても過言ではないのではなかろうか。

と、思いこむことでザワつく気持ちをなんとか抑えたのであった。

写真・文/佐藤誠二朗

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