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女優と一級建築士という異次元の二刀流を達成。合格率9.9%の超難関を突破し、「一級建築士試験」に合格した田中道子が明かす苦闘の1年3ヵ月

集英社オンライン / 2023年2月23日 14時1分

ドーム球場、コンサート会場、高層マンション…すべての建物を自由に設計できる国家資格、一級建築士。超難関と言われる資格試験に見事一発合格した、女優・田中道子。その素顔とは。

ただの夢物語だった一級建築士への道

――建築に興味を持ったきっかけから教えていただけますか。

いわゆる建築業に興味を持ち、一級建築士を目指したのは、大学に入学してからです。最初は、ゲーム…ファイナルファンタジー(FF)が大好きで、ゲームのマップを作る仕事がしたくて、地元・静岡の文化芸術大学空間造形学部に進学したんですけど、入学してみるとまさかのリアルな建築系のコースで(苦笑)。入学当初はやっていけるのかなと、不安だらけの毎日でした。



――建築の面白さに気づいたのは?

大学の教授が同じ建築でも都市全体のデザイン専攻の方で。仮想と現実の違いはあるんですけど、やればやるほど面白さがどんどん深まっていき、大学の後半くらいには“将来は一級建築士の資格を取り建築士になろう”と決め、大学を卒業してすぐに二級建築士の資格を取りました。

――そこから芸能界へとまさかの方向転換でした。

そうなんですよ(笑)。二級建築士の資格を取ったすぐ後、今の事務所の社長(現会長)にスカウトしていただいて。一瞬だけ迷いましたが中学の頃に一度は憧れた世界だし、若いときにしか挑戦できないのはこっちだろうと思い、「よろしくお願いします」とお返事していました。

――一級建築士の夢はそこで一度諦めた?

一級建築士の試験を受けるためには2年間の実務経験が必須で、入社後すぐ社長に「2年休ませてください」ってお願いしたんですけど、「お前はここに何をしにきたんだ!」とめちゃめちゃ怒られて。当然ですよね(苦笑)。それでも“いつか一級建築士になりたい”と思っていたし口にもしていましたが、憧れというか遠い夢のようなものになっていました。

――今回その夢が復活したのは?

2つあって、ひとつは受験条件が緩和され、必須とされていた2年の実務経験が試験合格後でもOKになったことです。私にとってはこれが追い風になりました。

――もうひとつは?

コロナ禍で女優の仕事が激減したことです。最初はインテリアコーディネーターや宅地建築士の資格を取ろうかなと勉強し始めたんですが 何か違うぞと思って。そうだ、私は一級建築士になりたかったんだと一度は人生の選択肢から外れてしまった学生の頃の夢を思い出して。

学科試験合否の目安は、1年で1,000時間の勉強と言われているんですが、今だったら時間を確保できるし、どれくらいできるか、まずはやってみようと思ったのがスタートでした。

――勉強は順調に進んだ?

いやそれが…。緊急事態宣言が明けた後、有難いことにドラマや映画の仕事が以前と同じようにいただけるようになって。嬉しいんですけど、頭の中で組み立てていたスケジュール通りにいかないことがしばしば生じて(笑)。マネージャーさんに「このスケジュールだと、学校(総合資格学院)に行けない」とわがままを言ったりもしていましたね(苦笑)。

今回ダメだったらもう諦めようかな

――仕事と勉強、両立できた理由を教えてください。

一級建築士の試験を受験すると決めたとき、両親からは「きちんと本業をやった上でのプラスαだからね」と言われていましたし、本業を疎かにして試験だけに全力を注ぐというのは私自身のポリシーにも反するので、本業に全力でぶつかり空いた隙間の時間を使って、勉強も本気でやる――最初にそう決めたことが大きかったと思います。

――本気で仕事をして、なおかつ1年で1,000時間の勉強時間を確保するというのは、簡単なことじゃないですよね。

大好きなゲームを封印。お酒を飲んだのも1年で2回だけ。料理をするのが好きなのですが、その時間がもったいないので日高屋さんに通い、待っている間も勉強。試験問題のアプリがあって、ベッドに入ってからも格闘するんですが、気がついたら画面を開いたまま寝落ちしてしまって。

朝起きて「あぁ、この問題が解けないまま寝ちゃったんだ…」と落ち込む毎日でした(苦笑)。

――途中でもうやめようとは思わなかった?

不思議なんですけど、一度もやめようとは思わなかったですね。ただ今回落ちたらもう一級建築士は諦めてもいいかなとは思っていました。

――それは何故?

それくらいしんどかったので。これと同じことをもう一度やるのは、体力的にも精神的にもできないしやりたくない。目には見えていない部分で、絶対にストレスもかかっていたと思いますし自分を追い込んでやっていたので、今回落ちたらもう一度というのは無理だろうなとは思っていました。

――学科試験の発表は、初主演舞台『赤羽焼肉劇場』の前日、9月6日でした。

自己採点で大丈夫かなというのはあったんですが、共演者の方、スタッフのみなさんには、「もし落ちていたらその日は落ち込んでいると思いますが、本番は頑張りますから見逃してください」と了解をいただいていて(笑)。

「あなたは、令和4年一級建築士試験『学科の試験』において国土交通大臣より、合格と判定されたので、通知します」という書類を手にしたときはやった!と。でもそれは一瞬で本当に大変なのはそこからでした。

――学科試験の次は最後の難関、設計製図の試験です。

学科試験の発表前……8月から本格的に設計製図の勉強はじめ、二次の試験日は、10月9日。2ヵ月ちょっとしかないのに、私にとっては初見のことばかりで。先生から、「そんなことも知らないのか」とうんざりしたような顔で言われると、私も焦りからついカッとなって、「それを教わりにきているんじゃないですか」と言い返したりして(苦笑)。

何度も悔しくて泣いてました。

――この間、初主演舞台『赤羽焼肉劇場』の他にも、日本テレビ系連続ドラマ『霊媒探偵・城塚翡翠』の撮影があり、TBS系『プレバト』では水彩画を描き、趣味のひとつ競馬(中山馬主協会のHP)のコラム執筆……と仕事が山積みでした。

水彩画は5日間で計40時間をかけて描き、終わったと思ったら次はコラム。競馬は大好きで依頼をいただいたのはすごく嬉しんですが、なぜ今、と思ったりもしましたね(笑)。

――1日48時間あったとしても、まだ足りません(笑)。

そうなんですよ。でもどう頑張っても1日は24時間しかなくて。二次試験は一次合格後5年間で3回受験資格があるので、正直9月の半ばくらいまでは、今年はパスして来年にしようかなと弱気になる自分がいました。

――弱気になった田中さんに、もう一度火を付けたのは?

両親とマネージャーさんの、「勢いのある今年受けた方が絶対にいい」という、言葉です(笑)。その言葉に背中を押され、諦めずに頑張ることができました。

田中さんが実際に授業で描いた図面。左が初期、右が試験の2週間ほど前。先生からの赤字チェックが目に見えて減少しているのがわかる

一生忘れない…2F56157Y

――試験当日は、自信を持って臨めた?

もう完全に開き直っていました(笑)。映画もドラマもバラエティも、現場ではいつだって本番勝負! みたいな感じがあって。そこで鍛えられた成果だと思います。むしろ集中してできたことは大きなアドバンテージになりました。

――二次試験は一次とはまるで異なり、制限時間6時間半の間に1枚の図面を描き上げる…とお聞きしましたが。

そうです。図面を描くという作業はパズルに似ていて、最初の段階で犯した小さなミスが最後になって、決定的なミスにつながってしまいます。

加えて法令に関するミス…例えば、隣の建物から5メートル以内にある建物だとすれば、火災が起こった際延焼を防ぐために、防火ガラスにする必要があるので、図面に防火ガラスを示すマークを記さないといけないんですけど、ひとつでも書き忘れるとほぼ一発でアウトになってしまいます。

――全部正解で100点という、試験とは違うものなんですね。

後で出される回答例も模範解答例じゃなく標準解答例なので、満点という解答は存在しないと思うし、その逆に100点を超える解答が、たくさんとも言えるし…。手応えは感じてもこれで大丈夫!とはなかなか思えなくて。

――発表までは半信半疑だった?

他の誰よりも先生に叱られていたので、先生に叱られたところはだけは絶対に間違えないようにしようと思いながら、先生が横で見ているつもりで描いて。実際に復元した図面を先生に見せたとき、「うんできてる」と言っていただいたので表面上は期待していませんという顔で、でも心の中ではそれなりに期待して発表を待ちました(笑)。

――合格者の中に、“田中道子”という名前を見たときは?

名前じゃなくて番号…“2F56157Y”それが私の受験番号で、見つけた瞬間全身の力が一気に抜けて解放されたような気持ちになりました。“やったー!”じゃなくて、下から嬉しさの波が静かにひたひたと押し寄せてくるような、それまで味わったことのない不思議な感覚でした。

――今もその気持ちは続いていますか?

資格を得るためには、これから2年間の実務経験を積まなければいけないですし、今はやっとこれでスタートラインに立てたという気持ちです。

――芸能活動を2年間、休まないといけない?

いいえ。いつまでにという期限はなくトータルで2年なので、仕事の合間を縫ってゆっくりと時間をかけて免許登録を目指したいと思っています。

――最後に、一級建築士・田中道子が思い描く夢の建物を教えてください。

子どもが大好きなので、学校や幼稚園、保育園、図書館や体育館など、子どもが関係する施設に興味があります。遊び心もあって、比較的自由度も高い、そういう建物を建てられたら楽しいだろうなというのがひとつ。

もうひとつは、海に浮かぶ水族館のような、幻想的で神秘的な建物にも興味があります。
1年で一発勝負で合格できたのは、間違いなく追い風だと思うので、本業を大事にしながら、一歩ずつ夢に向かって前に進んでいきたいと思います。

撮影/柏木ゆり 取材・文/工藤晋

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