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「国会での“ワニ動画視聴”がキッカケだった」ラッパーと芸人が選挙で候補者に直撃したドキュメント映画『劇場版 センキョナンデス』とは

集英社オンライン / 2023年2月14日 9時1分

時事芸人のプチ鹿島とラッパーのダースレイダーがタッグを組んで世相や政治を斬る人気YouTube番組「ヒルカラナンデス(仮)」。そのチームが2021年の衆院選、2022年の参院選を追いかけたドキュメント映画「劇場版 センキョナンデス」を完成させた。「エモの結晶」だという「選挙」に密着して見えたものとは。

国会での「ワニ動画」から始まった
選挙の追っかけ映像化計画

――芸人とラッパーという本業を持つお二人が、選挙を追いかけた映画「劇場版 センキョナンデス」を制作された経緯は?

ダースレイダー(以下D) キッカケとしては2020年の「検察庁法改正案」ですね。あの法案は国会も世論も巻き込んで、かなりシビアな議論が沸き起こりましたが、その真っ只中に……。



プチ鹿島(以下P) 香川出身の平井卓也さんが、国会の審議中にタブレットでワニの動画を見てたという。たしかに本読んでたり、通販サイト見てた人もいましたけど、「え! ワニの映像!?」っていう(笑)。

D それが衝撃的すぎて、僕ら二人がやってる時事YouTube番組「ヒルカラナンデス」でもそれを取り上げて、かなり“イジってた”んですよね(笑)。

P しかも、その後に平井さんは、菅政権(当時)の肝いり政策であるデジタル改革担当大臣に就任したんですよ。

D 「さすがタブレットが使えるだけあるな~!」と(笑)。同じ時期に「劇場版 センキョナンデス」のプロデューサーでもある大島新さんが、政治家の小川淳也さんを追いかけたドキュメント『なぜ君は総理大臣になれないのか』を制作されて、そこで小川さんと同じ選挙区の平井さんは、香川で6割のシェアを誇る四国新聞のオーナー一族出身で、地元財界にも太いパイプを持ってるという、かなりすごいキャラだということを知って。

©︎「劇場版 センキョナンデス」製作委員会

――その直前には東京オリンピック/パラリンピックのアプリ開発に関して、「NECを徹底的に干す」「脅しておいて」と平井氏が発言したという報道もありました。

D だから、僕らとしては強大な権力者なんだろうなと。

P それで「そんな人の出る選挙戦は、密航(注:プロレスファンが地方に観戦遠征にいくこと)するしかない!」と興奮して、選挙の終盤にダースさんと一緒に香川入りした模様を撮影し始めたのが、この映画のキッカケですね。だから完全に平井さんありきですよ。僕はラコステのTシャツも新調してますから(笑)。

D 現地でもなかなか会えなかったのも、かなりラスボス感がありましたね。

P 対立候補の小川さんにはすぐ会えたのに(笑)。だから映像でもわかりますけど、遠くから平井陣営の街宣で「デジタル」って言葉が聞こえた瞬間の二人の興奮!

©︎「劇場版 センキョナンデス」製作委員会

D ライブで「あ、聴きたかった曲のサビが!」っていう感じで(笑)。

P もう興奮が抑えられなくて、小走りになってますからね(笑)。本当に夏祭りの盆踊りで、太鼓の音が聞こえて浮足立っちゃう子供と一緒。

――実際に平井氏がどんな選挙戦をしたのか、そしてそれを取り巻くメディアの状況もコミカルに撮ってはいますが、実は非常にホラーな側面もあり、その立体構造も興味深く感じました。

P そういう部分は「ヒルカラナンデス」でも話していたので、視聴者はそこに興味を持ってくれていた人もいると思うし、それに対する答え合わせという部分でも、この映像や取材結果はまとめないといけいないという、ある種の使命感もありましたね。

撮影中に発生した戦後最大級のテロリズム

©︎「劇場版 センキョナンデス」製作委員会

――この映画に通底するテーマとして、「選挙と民主主義」があると思います。しかし選挙の密着中に「安倍元首相銃撃事件」が発生し、街宣も含めた選挙での「対話」に危機が訪れ、映画の空気も一気に変わります。

P あの(演説中に狙撃されたという)一報を聞いた瞬間に、「これからの選挙制度はどうなるんだ」というモードになりましたね。実際に街宣の中止を表明した陣営もあったし、「選挙の危機」「民主主義の危機」を、実感として受け止めざるを得なかった。

D どんな偉い人でも、オープンな場に出てきて、演説したり質問に答えるのが、日本の選挙なんですよね。でも、それが今後は警備や安全の名のもとになくなっていく可能性がある。そして、そういう事態になったときに、それが何に繋がるのかという危惧を強く感じたし、その「空気」を映像に収められたと思います。

P これもぜひ思い起こして頂きたいんですが、安倍さんが銃撃された直後に、もうSNSでは「犯人は普段から『アベガー』と言ってるやつに感化されたんだ」という反応が出てきて。

――そういった声を代表するようなツイートは、劇中でも名指しで取り上げられていますね。

D 実際、あの時点では動機が不明だったから、「アベガーのせいだ」みたいな意見を発信する人に対して、その動機によってはある種の正当性を与えてしまう可能性もあった。

P ただ、もし容疑者が安倍さんの政治スタンスに反対する側だったとしても、これまでに色んな場所で発信されてきた安倍さんに対する批判的な言説は、すべて「悪口」だったのか、ということなんですよね。

――批評や批判と、悪口は全く違うものですからね。

P 僕らは批判とか論評は絶対に必要だと思っているけど、そういう言説まですべて「悪口」という形で切り取られるとなると、こんなに怖いことはないと思うし、そういう言論状況が訪れてしまう可能性が強くなることに、ゾッとしました。

D それが政治状況にはどんな影響を与えるんだろうと。「これから政治のことを語ると、もっと怒られるようになるのか」みたいな危機感は強くなったし、これ幸いとばかりに批評する側の声を潰しにかかる勢力、政治のことは話すなという同調圧力は強くなるだろうなというのは、すぐに感じたことで。

P その状況では民主主義は絶対うまくいかんだろう、と。映画も批評よりもファンブックが好まれるように、批評や論評を避ける空気というのは、政治だけじゃなくて、本当に多くのジャンルで行われがちになっていると思う。でも、批評論評するっていう行為は、単純にすごく面白いと思うし、僕らは大事なことだと思っているんですよね。それは民主主義にとっても。

選挙を通してわかる候補者の「向き合い方」

――いまのお話は2022年7月の参院選にて、大阪選挙区にお二人が密着された際の出来事ですが、大阪に密着した理由は?

P 大阪選挙区で「立憲民主党候補を支援する特命担当」だった菅直人さんが、日本維新の会に対して物申すツイートやメッセージを発信されたことに興味を持ったんですよね。

D 要は、大阪で絶大な人気を誇る維新に噛みついた菅さんが、一体どんな演説をするのか、どんな反応があるのかが知りたいと。

P それで純粋な興味で密着したら……。

D 最初は菅さんも色々話してくれたのに、その後に立民内の情勢が変わったせいなのか、他の事情なのかは察するしかないですが、後半は演説が終わったら「ドナドナ」みたいに、菅さんがスタッフに車に連行されるようになっちゃって(笑)。

©︎「劇場版 センキョナンデス」製作委員会

P 菅さんは話したそうなのに、演説が終わるとスタッフが僕らをブロックするように、菅さんを引き剥がして。それで、ここ最近の立憲と維新の共闘路線維持の布石は、ここにもう打たれてたんだなと改めて思ったり。それも含めてドキュメントですね。

――その映像も含め、「直接候補者に話しにいく」というのが、お二人の行動原理であり、この映画の肝だと感じました。

P 基本的にはどの候補者にも同じような質問しかしてないんですよ。「手応えはどうですか?」みたいな。そこで解答を誤魔化すのか、面倒くさそうに応対するのか、ちゃんと答えてくれるのか……「どういう反応か」で、そこから見えるものがありますよね。

D 政党の意識もそこには見えますよね。候補者に話を訊いた直後に、選挙スタッフが「許可とってるんですか!」みたいに言ってくる政党もあったり。公共の場で、国政に向かうための選挙演説してるのに、それを撮影したら「許可をとってください!」と言われたのは衝撃でしたね。しかも、実際にスタッフが許可取りの連絡をしたら……。

P まったく何の音沙汰もない(笑)。それから、僕からの質問には答えるのに、ダースさんの質問には答えない候補者とか。そういう部分からも「向き合い方」がわかります。

D あと、鹿島さんは候補者へのインタビュー中に「ハイ、ハイ」って相槌を打つんですけど、あれは、鹿島さんが噛みつくタイミングを伺ってると思ってるんですよ。

P ハイ、ハイ……ガブッ!って(笑)。四国新聞への質問も含めて、そこで引き出した言葉が映画の伏線になってたりするんだなと、自分でも思いましたね。

©︎「劇場版 センキョナンデス」製作委員会

D その意味でも、直接話すことで知ることができたり、「人と人」だからわかること、人となりが伺い知れるという、貴重な機会だと思うんですよね、選挙は。

P 僕もダースさんもやっぱり「人」に興味があるんですよね。「こいつは右」「あいつは左」「〇〇党だから」みたいな感じで片付けようとする人がいるけど、「そのひと個人はどうなのか」を絶対見たほうがいいと思うんですよね。選挙戦ではそれが可能だからこそ、なおさらで。そこらへんも映画で感じてほしいです。


取材・文/高木“JET”晋一郎 撮影/下城英吾

『劇場版 センキョナンデス』

©︎「劇場版 センキョナンデス」製作委員会

2023年2月18日(土)より
渋谷シネクイント、ポレポレ東中野 ほか 全国順次ロードショー
現在 全国30館に拡大中!


「選挙は最高のお祭りだ!」のはずが・・・
野次馬のつもりだったラッパーと芸人が、安倍元首相銃撃事件の日の選挙戦を記録。
監督・出演:ダースレイダー(ラッパー) × プチ鹿島(時事芸人)
大島新(『なぜ君は総理大臣になれないのか』監督)プロデュース最新作!

https://www.senkyonandesu.com

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