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〈荒井首相秘書官差別発言で波紋〉LGBTQの保育士が語る保育現場の多様性「先生は男の子? 女の子?」と聞かれたときに返す言葉とは…

集英社オンライン / 2023年2月11日 13時1分

岸田文雄首相が2月4日、LGBTQなど性的少数者や同性婚のあり方をめぐっての「差別発言」をした荒井勝喜首相秘書官(55)を即時更迭した。だが、子どもたちの保育の現場ではLGBTQに関する差別発言は悪意なく用いられることもある。元保育園園長で教員の経験のあるライターの大川えみる氏が、トランスジェンダー当事者の保育士を取材した。

保護者からの差別に直面する保育士

荒井勝喜首相秘書官がLGBTQなどの性的少数者や同性婚について、「見るのも嫌だ。隣に住んでいたらやっぱり嫌だ」と語ったことが問題視され、2月4日に更迭された。
こうしたLGBTQへの偏見は今なお一部に根強く残っている。

だが実際にLGBTQ当事者は、社会に広く存在しており、あなたの隣に住んでいる可能性だって決して少なくない。当事者たちは偏見や好奇の目にさらされる不安を感じて、オープンにすることをためらいながらも、ごく普通の社会生活を営んでいる。



0歳児から小学校に入るまでの子どもが日中を過ごす保育園。もし、子どもと触れあう保育士がLGBTQの当事者だったとしたら?

政治家や官僚の不適切発言には眉をひそめても、わが子が通う園の先生がLGBTQだった場合はどうだろうか。近年、子どもに対する性被害の事件が頻繁に報道されることもあり、「あの先生は大丈夫か?」「子どもが性被害にあってないか気がかりだ」という声は筆者の元にも聞こえてくる。

写真はイメージ

だがそれは、セクシュアリティの問題ではなく、モラルや法律を守る意識の問題である。筆者が保育現場で働いていた際、年配の女性保育士が、男児のおむつ替えの際にわざと性器に触る場面を目にしたことがある。職員会議で園長から、一般論として「こういうことはしてはいけない」と注意してもらってその行動は収まった。わずか一例だが、LGBTQだから、あるいは男性だから、「こういうこと」が起こるわけではないのだ。

保育士でLGBTQ当事者であることをオープンにして働いている人は少ない。そうすることにメリットがないからだ。レズビアン、ゲイ、バイセクシュアルの人は外見からそうと気づかれることはまずない。生まれ持った身体の性別と、自身が感じる心の性別が食い違うトランスジェンダーの場合は、外見的特徴から気づかれる場合もあるが、気づかれない場合もある。

トランスジェンダーの保育士、Aさんの場合、職場では何人かの保育士にカミングアウトしているという。

AさんがスタッフをしているイベントではLGBTQへの理解促進を広く発信している

園児から「先生は男の子? 女の子?」と聞かれたとき、Aさんは「自分で考えてみて」と返す。園児は「先生は背が高いから…」とか「髪型が…」など外見を手がかりに色々と考える。いくら思いめぐらしても正解はわからない。

でもそうやって考える中にも、子どもたちの成長がある。正解を言わなければならない、などということはない。

「スカート男」と揶揄され
「一回死んで女になりたい」と話した園児

保育現場で問題になるのは「0歳から6歳までの園児に何を伝えるのか」だ。保育士にジェンダーやLGBTQに関する話をすると「保育園児はあまり男女を意識していない、まだ早い」「困っている子が出てきたら支援をしたらいい」といった反応がみられることが一般的だ。

乳幼児期は様々なものごとを理解していく時期であり、まずは男女の違いを認識・理解していくタイミングだ。ジェンダーやLGBTQに関する話は、いわば「応用問題」のようなもので、多くの子どもにとって「難しいのではないか」と保育の現場ではいわれている。

だが実際には、保育園児の中にもLGBTQ当事者の子どもは存在する。

2021年に大津市の保育園で、生まれ持った性別の違和感に悩む園児がいじめを受け、適応障害になったケースがある。本人が好きな服を着て登園すると「スカート男」とからかわれ、身体的暴力も受けたが、保護者からの再三の相談にもかかわらず園側から十分な対応をされず、園児は「一回死んで女になりたい」と話すほど追いつめられたのだ。

写真はイメージ

岡山大学の中塚幹也教授が2010年までにおこなった性同一性障害の当事者への調査では、自分の性別に違和感を持ち始めた時期については、「小学校就学前」との回答が56.6%であった。

たとえ性別違和があったとしても、親を含め、周りの人には絶対に言えないと考える子どもは少なくない。親が「自分の子どもには性別違和や同性愛の傾向はないはずだ」と考えていれば、子どもはそれを敏感に感じ取ってしまうからだ。

Aさん自身も、幼稚園児のとき「なんで自分はスカートを穿かされるんだろう?」「なんで赤やピンクを選ばせられるんだろう?」と違和感があった。意味がわからず、不安だったそうだ。「こうでないとおかしい」と決めつけず、子どもたちそれぞれの「好き」という気持ちが尊重されていて欲しいとAさんは言う。

ピンクやオレンジが好きな男の子、ブルーが好きな女の子もいる。「これがあなたの好きなことなんだね、素敵だね」と伝えたい。保育現場には、子どもの「好き」を否定しない大人が必要だ。

写真はイメージ

大津市の園児がいじめられているような場面に遭遇したとき、保育士はどうすればいいのか。他の園児を笑ったり、否定したり、からかうような子がいたら、エスカレートする前に声をかけることが必要だとAさんは指摘する。しかし笑った子の気持ちも否定したくはない。

「自分が何かをしたときに笑われたり、からかわれたりしたらどう思うかな?」としっかり向き合って一緒に考える。その場で時間が取れなかったとしても、「あとでお話をしようね」と伝えることが大切だ。タイミングを逃して別の機会に言うような対応をすると、子どもを混乱させることになる。「この間は言わなかったのに、なんで今言うんだろう?」と。

LGBTQやジェンダーの問題だけに
あてはまることではない子どもの発言

じつはAさんの対応は、LGBTQやジェンダーの問題にだけあてはまることではない。例えば、障害のある子どもや外国にルーツをもつ子どもも、まわりの子どもから「なんでそうしてるの?」「変な子」と言われることがある。その時に大人がするべき対応は、ほとんど同じなのだ。

ただ、今までは保育現場でLGBTQやジェンダーの課題について、正確な知識を得る機会が充分になかった。研修やLGBTQコミュニティに接する機会をぜひ持ってほしいとAさんはいう。「オンラインでの交流の場を設けているグループもあるので気軽に参加してほしい」と。

Aさんの同僚の保育士は、Aさんのカミングアウトのあと、「男の子」「女の子」という呼びかけを少し変えるようになった。

これまでは折り紙など「女の子のもの」と思われがちなものについては、保育士の呼びかけが「女の子の中でできる子はいる?」だったのが、「これをできる人はいるかな?」と性別を特定せずに子どもに声かけするようになった。

同僚保育士が子どもに呼びかけをしたとき、男の子が手をあげようとして、すぐに下ろしてしまった姿をみて、保育士自身が言い方を変えたそうだ。Aさんの存在が変化をもたらしていると思う。

保育の中でLGBQTやジェンダーの問題を扱うことは、「マイノリティへの特別扱い」をするのではなく、「どんな子どもも生きやすい世の中」にしていく取り組みにつながる。

LGBTQだけでなく、障害をもつ保育士や外国ルーツの保育士が、それぞれの特性を理解されながら活躍できるようになるとき、子どもたちの多様性は、きっと今以上に認められることになるだろう。

取材・文/大川えみる
集英社オンライン編集部ニュース班

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