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宮沢氷魚にベッドシーンの“振り付け”をし、鈴木亮平にゲイの所作を指導…映画『エゴイスト』が日本映画で初めて導入した画期的な仕事とは

集英社オンライン / 2023年2月11日 15時1分

現在公開中の映画『エゴイスト』は、LGBTQ+インクルーシヴ・ディレクターとインティマシー・コレオグラファーという、ふたつの役職がクレジットされた初めての日本映画だ。それぞれの仕事は、映画製作においてどのような役割を果たしたのか。ミヤタ廉とSeigoに話を聞いた。(トップ画像/© 2023 高山真・小学館/「エゴイスト」製作委員会)

© 2023 高山真・小学館/「エゴイスト」製作委員会

──ミヤタ廉さんは性的マイノリティに関するセリフや所作、キャスティングなどを監修するLGBTQ+インクルーシヴ・ディレクターとして、Seigoさんはセックスシーンなどの「インティマシーシーン」における動きや所作を監修するインティマシー・コレオグラファーとして参加されました。『エゴイスト』に携わることになった経緯から教えてください。



ミヤタ廉 僕は鈴木亮平さんのヘアメイクをずっと担当していて、『花子とアン』(2014)の頃からのお付き合いなんです。『エゴイスト』に関しても、最初は作品全体のヘアメイクとして携わる予定でした。

──製作段階からLGBTQ+インクルーシヴ・ディレクターという役職があったわけではないんですね?

ミヤタ廉 そうですね。準備段階の台本を読ませていただいたときに、亮平さんから「違和感を抱く部分はありませんか?」など、ゲイの当事者としての意見を求められたんです。この段階では亮平さん演じる浩輔がゲイの友人と遊んだりするシーンが出てこなかったので、「原作でも描かれている友達との場面がもっとあるとリアリティが増すかもね」など、いくつか意見を伝えさせていただきました。

その後、監督や亮平さんたちが当事者に取材を重ねていく段階で、原作者の高山真さんを知るドラァグクイーンのドリアン・ロロブリジーダさん(浩輔の友人役として出演)を、知り合いを介してご紹介したりしました。

そういうことをしていくうちに、ヘアメイクを担当しながら続けることが難しいと思い、プロデューサーの明石さんに「ヘアメイクとしては登場人物のビジュアルデザインとして担当し、それとは別で監修というポジションで入っていいですか?」と提案したんです。

© 2023 高山真・小学館/「エゴイスト」製作委員会

──インティマシー・コレオグラファーのSeigoさんは?

Seigo 僕も実は同じ感じでして。劇中では、宮沢氷魚さんが演じる龍太が隠れた職業として「売り」をしている設定なのですが、僕自身がそういう仕事に触れていた経緯から、ミヤタさん経由で監督と一度お会いすることになったんです。

その後も取材として何度か、監督と龍太の細かい心情などをお話させていただくうちに、「想像だとわからないので、撮影現場に来て見てほしいです」と言われまして。最終的に、現場でお手伝いさせてもらうことになったんです。

龍太のお客さん役として登場する人も、何人か紹介させていただきました。3名登場するお客さんのうち、ふたりはオーディションで選ばれた僕の知り合い。そのうちひとりは、まったく演技経験のない方です。

ミヤタ廉 監督からSeigoをインティマシー・コレオグラファーとして迎え入れる話を聞いて、周りからも絶対的に信用されてる人ですし、何よりスタッフやキャストからしたら、とても頼もしい存在になる! と思いました。

ゲイが全員、オネエ言葉を使うわけじゃない

LGBTQ+インクルーシヴ・ディレクターのミヤタ廉さん。本作ではヘアメイクデザインの「宮田靖士」としてもクレジットされている

──鈴木亮平さんは浩輔を演じるにあたり、「世間の偏見やステレオタイプを助長してしまわないよう」にミヤタさんと相談しながら作り上げたと語っていました。当事者の方が監修される意味は“リアリティ”を追求することだと思っていましたが、一概にそういうことではないんですね?

ミヤタ廉 “リアル”とひとことで言っても、当たり前ですがゲイだって十人十色なんです。浩輔というキャラクターを見て、「あんなオネエ言葉を使う人ばかりじゃない」と思う人もいると思います。友人たちの前でオネエ言葉を使うのは、ゲイだからというよりもあくまで浩輔というキャラクターを構築した上でのことです。

ゲイであること、浩輔のセクシュアリティは絶対的に重要なアイデンティティですが、浩輔が積み重ねてきた経験を考えたとき、どういう目つきをするのか、どういう所作や言葉遣いをするのか、そういうことを細かく想像していけば、自然とリアリティは出てくると思いました。

──浩輔というキャラクターを作る上で手がかりとなったのは?

ミヤタ廉 原作の浩輔は、話し方など、もう少しドライな印象でした。でも亮平さんは、取材を重ねるうちにもう少し原作者の高山さんに寄せたいということを強くおっしゃっていて。場面に沿って、キャラクターの持つ温度も含めて相談しながら作っていった感じです。

© 2023 高山真・小学館/「エゴイスト」製作委員会

──浩輔がゲイの友人と居酒屋で盛り上がるシーンは、ユーモアと毒のあるキャラクターがよく表れています。

ミヤタ廉 あのシーンは亮平さんがキャラクターに馴染むよう監督からの配慮で、結構序盤に撮ったんです。周りの友人役はゲイの当事者ですし、ひとりだけ誰が見ても鈴木亮平だとわかる中で、ちゃんと仲間に見えなきゃいけない。

例えば僕の友達におしぼりを畳んでコースターの代わりにする子がいるんです。画角的にカメラには映らないけど、「几帳面な浩輔が酒場でやってしまう癖のひとつ」として亮平さんに提案したりしました。そういったパーソナルな部分は最終的にイコールで繋がると思いましたので。

ゲイの人が「あるある」と思っても、そうではない人が取り残されるのは違う。「あ、ゲイってやっぱりこういう感じだよね」と思われるのも、亮平さんが求めるものではなかった。キャラクターに愛を持たせないといけなかったし、「浩輔」として嘘がないようにひとつひとつ確認して作り上げました。亮平さんは、すべての部分をプロフェッショナルに突き詰められていましたね。

男性同士ならではのリアルなセックスシーン

© 2023 高山真・小学館/「エゴイスト」製作委員会

──Seigoさんは具体的にどのようなアドバイスをされたのでしょう?

Seigo まずは龍太が「売り」をするシーンです。普通のホテルの宿泊客は、自分の部屋を目指して歩いていくと思うんです。でも売りをしている人がホテルに行くときは、自分が泊まっているわけではないのでお部屋を探さなければいけません。探しながら歩いていき、お部屋に入る前には、周りに人がいないかをちょっと確認してノックをする。そういう細かな仕草をお伝えしました。

口臭ケアのためにガムを噛んでいたり、同業の人間が見たら「あ!」と思うような、細かい部分までアドバイスさせてもらいました。

──セックスシーンの動きも振り付けされたんですよね?

Seigo はい。これまで僕もいろんな同性愛をテーマにした作品を見てきましたけど、ちょっと当事者からすると嘘っぽく見えちゃう場面が多くて。しょうがないことかもしれないけれど、今回は監督からリアリティを持たせたいというリクエストをもらったので、どういう動きをしたらよりリアルに見えるかを話し合いました。

僕がお客さん役として紹介したふたりに協力してもらい、男同士でどういう行為が行われるのか、撮影前に5〜10分かけてリハーサルをして、カメラマンさんやスタッフさんを含めて動きを見てもらったりもしました。

例えば正常位の場合、腰の下に枕を入れてあげたりするんですね。

ミヤタ廉 つまり、女性との挿入する位置の違いですよね。「こういう位置になるから、こういう腰のふり方になるんです」というような、本当に“振り付け”をするんです。殺陣やダンスと同じように伝える。なので最初からその動きができなくてもいいんです。

特に氷魚くんはインティマシー・シーンが多かったので、Seigoが常に近くにいる形で、細かくコミュニケーションを取りながら進めていきました。

──劇中では、浩輔が龍太について「セックスが丁寧すぎる。もっとがっついてほしい」と友人にグチる場面も。その“丁寧さ”は、セックスワーカーとしての気の使い方ということでしょうか?

Seigo そうですね。ぱっと見ではわからないかもしれませんが、触り方や体勢や舐め方など、実際にはすごい違いがあるんです。その違いを浩輔に気づかせるために、シャワーを浴びた後にタオルでポンポンと拭いてあげたり、自然に頭を触ったり。「どうしてそこまでやるんだろう」という、“優しい”のちょっと先にあるものを散りばめていきました。

──その違いを的確に指示できるSeigoさんもすごいです。

Seigo 僕も実際、売りをやっていた側なので、自由恋愛をしたときにすごく気を使っちゃうんです。「今、喜んでくれているかな」みたいに。これは仕事として経験した人にしかわからないし、多分、一生抜けないと思います(笑)。同じような感覚が、龍太の中にも潜んでいて。

監督からは、「人に言えない仕事ではあるけれど、お金を得るために真摯に取り組んでいるスタイルで」とお願いされていたので、僕が実際に喜んでもらえた行為を、氷魚くんにも伝えていきました。

コーディネーターとコレオグラファーは違う

© 2023 高山真・小学館/「エゴイスト」製作委員会

──今回はSeigoさんによる振り付けが入りましたが、よく考えると、これまで映像で描かれてきたセックスシーンは、俳優に動きを委ねる部分も多かったということですよね。もちろん監督の演出があるとはいえ、俳優への負担は大きいだろうなと感じます。

ミヤタ廉 コレオグラファーでいえば、今回のように男性同士だけでなく、女性同士や男女のセックスシーンでも必要になっていくかもしれないですし、もっと広がっていけばいいなと思っています。

別の作品でインティマシー・コーディネーター(※)の方とお仕事をしたときに、亮平さんが聞いたらしいんです。「『エゴイスト』のような同性愛を扱う作品のときに、コーディネーターはどういうお仕事をするんですか」って。

やっぱり、コーディネーターとコレオグラファーは似ているようで絶対的に役割が違うので、「タッグを組むことが、これからは最強なのかもしれない」とおっしゃっていたそうです。

※セックスシーンやヌードシーンの撮影が安心・安全に行われるように、監督と俳優の間に入って意見を調整し、現場でサポートを行う職業

──完成した作品をご覧になった感想は?

ミヤタ廉 原作愛が強いので、編集の段階から「あのシーンを削る意味がわかりません!」なんて、生意気にも監督に意見を言ったりもしたんですが(笑)、完成したものを見たときにはとにかく胸がいっぱいで、言葉にできなかったですね。たとえ、なにも知らず見たとしてもきっと同じだった気がします。何度見ても、そのときに置かれている自身の状態で、浮かぶ景色は違うと思います。

Seigo 僕も原作は大好きで、本を読んで泣いたのは人生で初めてでした。ミヤタさんがおっしゃったように、何度も見ないと本当の意味で理解できないくらい深い作品。意外な意味が隠されているシーンも多いですしね。いつか解説本が出てほしいと思うくらい。

ミヤタ廉 ネタバレになるので詳しい前後の描写は避けますが、浩輔がある歌を口ずさむシーンがあるんです。何を歌っているか見ただけではわからないのですが、実は松田聖子さんの「風立ちぬ」なんですね。

元々は台本にないシーンなのですが、あのシーンが加わったことで、浩輔の抱く感情が絶妙に表現されたと思います。全体的に多くをセリフで説明する作品ではありませんが、細部にまで意味をきちんと持たせているシーンがたくさんあるので、ぜひ注目してみてください。



取材・文/松山梢

『エゴイスト』(2023) 上映時間:2時間 日本
出演:鈴木亮平 宮沢氷魚 阿川佐和子
原作:高山真「エゴイスト」(小学館刊)
監督・脚本:松永大司
脚本:狗飼恭子
音楽:世武裕子

ファッション誌の編集者として働く斉藤浩輔(鈴木亮平)は、友人が紹介してくれたパーソナルトレーナーの中村龍太(宮沢氷魚)と出会う。シングルマザーの母・妙子(阿川佐和子)が病気のため、龍太は高校を中退して仕事を掛け持ちしながら生計を立てていると語る。次第に惹かれ合い、恋に落ちたふたりは幸せな日々を送っていたが、ある日、浩輔は龍太から別れを告げられる。龍太には母にも言っていない秘密があった……。

© 2023 高山真・小学館/「エゴイスト」製作委員会

配給:東京テアトル
R15+

2023年2月10日より、全国ロードショー

公式サイト:www.egoist-movie.com
Twitter/Instagram:@egoist_movie

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