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なぜ、日本より出生率がはるかに下回る韓国と同じ道をたどるのか。岸田総理の「異次元の少子化対策」を不安視する理由

集英社オンライン / 2023年2月19日 10時1分

岸田文雄首相が「異次元の少子化対策」を行うとの発表に声が集まっている。その中心となるのが子育て世帯へのバラマキ。当然ないよりマシだが、似たような子育て世帯へのバラマキを行って出生率が上がらない国がある。それが隣国、韓国だ。なぜ隣国の失敗と同じ道を選ぶのか。

子育て世帯へのバラマキで出生率は上がるのか?

岸田首相が今月、「異次元の少子化対策」を行うと発言し、大きな議論を呼んでいます。具体的な内容は今後検討され、6月頃に骨太方針2023にてその全貌が見えてくると思われます。

現時点でわかっているのは、異次元の少子化対策は以下の3つが中心となるのではということです。

① 児童手当などの経済支援
② 学童や病児保育を含めた幼児・保育支援の拡充


③ 育児休業強化などの働き方改革


上記3点からわかるとおり、基本的には子育て世帯支援となっています。筆者の意見としては子育て世帯支援は必要と考えていますが、それにより出生率が上がるのか、というと疑問があります。

そう考える理由は2点あり、まず1点目は出生率低下の原因は未婚・晩婚化が大きな理由と考えているから。2点目はお隣の韓国が所得制限なしの給付など子育て世帯支援を行いながらも出生率が上がっていないことから、効果があまり出ないのではないかと考えています。

事実、日本が目指すような子育て世帯支援をすでに行っている韓国の出生率低下は止まっていません。それどころか、2021年の韓国の出生率は0.81となっており、日本を遙かに下回る状況となっています。

2013年から0〜5歳までの保育料は所得に関係なく無償

では、韓国の少子化対策として行われている政策を見てみましょう。まず保育料ですが、2013年3月から所得に関係なく0〜5歳までの保育料は無償となっています。さらに保育園に預けない家庭に対しても補助金を支給しています。(※2022「一般社団法人 平和政策研究所」調べ)

この保育料無償化の意外な結果として、各家庭の教育費支出は倍増しました。理由は、浮いたお金は結局習い事などに回り、家庭の教育費は負担減どころか負担増となったのです。

これは少し考えればシンプルなことです。教育が生み出す人的資本の上乗せとは相対的なものです。周りより優れているから良い大学に入り、より多くの所得を得ることになります。子供は放っておいても育つのは事実ですが、放っておいても多くの所得を稼げるようになるわけではありません。

教育熱心な都市部の人は、自身の経験からそれを理解しているからこそ、子供に対する教育費をたくさん使うのです。つまり所得制限を撤廃し、どの家庭にも給付が行われたとしても多くの家庭がその浮いた資金を教育に使う限り、終わりがありません。

事実、東京の出生率は全国平均より低く、韓国もソウルの出生率は全国平均より低い状態となっています。都市部の場合、浮いたお金は2人目の子供のためではなく、1人目の子供の教育費になる可能性が高いと思われます。

子育て世帯へのバラマキは他にもある

韓国の少子化対策は保育料無償のみではなく、他にも多く実施されています。8歳未満の子供がいる場合に支給される児童手当10万ウォン(日本円で約1万円)に加えて、さらに0〜1歳の期間には乳児手当(2023年から親給与という名称に変更)が支給されます。

導入初年の2022年は月30万ウォンからスタートし、2023年度は月70万ウォン、2024年度は計画通りいけば、月100万ウォンの支給となります。満1歳児は半額支給される予定となっており、親給与は現金支給となっています。

さらに出産時に200万ウォンを支給する制度も2022年に導入され、さらに医療費などに使用できるデビッドカード「国民幸福カード」の限度額も100万ウォンに引き上げ、合計すると300万ウォンの給付となります。

これらの給付額を見れば十分に感じそうなものですが、何度も言うとおり教育費とは相対的に増えていくものです。国が給付をしても使える人は周りより良い教育を与えようとします。

教育から得られるリターンとは不確実ですので、子供の幸せを望む親としてはできる限りの教育を与えてあげたいと思うものでしょう。英語を話せないより話せる方がいいと思うのであれば、お金があれば習わせたいと思うのは普通のことです。

絶対的な満足のいく教育水準など存在しません。大切なことは周りより良い教育を与えることです。だからこそ、どれだけ所得の高い人であっても教育費で大変と言うのです。

子供を望めない所得層を置き去りにする政府

さらに深掘りすると、子育て世帯支援は誰をターゲットにしているのか、という点です。かつて、階級闘争といえば「労働者と資本」でしたが、現在は「都市部エリート層と低所得労働者」の構造もできつつあります。

都市部のハイスペック夫婦は子育て支援の所得制限をなくすことを望んでいますが、一方で子供を産めること自体、贅沢と感じる人たちもいます。格差が広がると対極にいる人が増えるため、見ている世界が異なっていきます。そして、国はどちらをサポートしたいと思っているのかということです。

本当は子供を産みたいと望んでいたが、所得の問題で子供や結婚を諦めた人を想像してみてください。その人からすれば、子供を産める環境にいる人を優遇し、その財源として自分の税金や保険料の一部を利用されるかもしれないということです。これは納得できることなのでしょうか?

住宅ローン控除も同様で、家を買える人間を優遇し、家を買えない人間には何も優遇する制度がないということを気持ちよく思わない人が少なくないということです。

日本は韓国同様、婚外子が少ない社会です。つまり、未婚率を上げない限り出生率は上がらないという指摘は多くの識者がしています。
とはいえ、結婚するかどうかは個人の自由であるという意見がありますので、それよりは万人受けする子育て世帯支援を選ぶ政府の気持ちもわからなくはありません。

異次元の少子化対策をするのはいいですが、韓国のようにならないことを願うばかりです。

取材・文/井上ヨウスケ

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