「大貫本店」は、初代・千坂長治氏から、二代目・千坂吉郎氏、三代目・千坂哲郎氏、四代目・千坂創氏と親子四代に渡って受け継がれ、100年以上の歴史を繋いでいる。ここでいったん、時代は初代・長治さんが日本初の中華そば専門店として知られる浅草「来々軒」と出会った頃に遡ろう。
当時23歳だった長治さんは「来々軒」で食べた中華そばの味に感激し、神戸外国人居留地初の中華料理店「杏香楼」で中国人シェフの周氏から広東料理の足踏み製麺の技術を学び、中華そばのお店を開く準備を始める。
《創業111年のラーメン店》尼崎に現存する日本最古と呼ばれるラーメン店の四代目店主が味よりも大切にしているこだわり「やはり最も冥利に尽きるのは…」
集英社オンライン / 2023年2月15日 11時1分
阪神電鉄・阪神尼崎駅から徒歩4分。尼崎中央商店街の中に大正元年(1912年)創業の一軒の老舗ラーメン店がある。「大貫(だいかん)本店」だ。今年で111年目を迎えた「超」の付く老舗は、関西では現存する最古のラーメン店としても知られる。
居留地で日本人初の中華そば店を開業
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今も看板には「創業 大正元年」「神戸元居留地」の文字が残る
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メニューでも「自家製 足踏みたまご麺」と謳われている
当時は居留地での商売が許可されていたのは外国人だけで、開業にあたってクレームが絶えなかったが、警察署長の説得に何とか成功し、当時の居留地で日本人初の中華そば店の開業を果たす。店名は「初心を『大』きく『貫』く」をモットーに「大貫(だいかん)」と名付けた。1912年のことだった。
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戦前から尼崎へは沖縄などからの出かせぎ労働者が多かった
戦後、現在の尼崎へ移転するも、四代に渡ってその味は受け継がれている。
四代目の創さんは語る。
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四代目店主の創さん
「長い歴史を継ぐ中で、私の経験においてはやはり阪神大震災の時に一番大変な思いをしました。幸い、曾祖父から80年ほど継ぎ足してきた素ダレを失うことなく乗り切れたので胸を撫でおろしましたが、兵庫はとんでもない被害があり、知人もたくさん亡くなりましたので、素直に喜べる状況ではなく、再開に向けて進まなければならないことが本当に辛かったですね」(創さん)
創業111年目、四代目店主が最も幸せに思う瞬間
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店内ポスターの一文も妙に説得力が増す
神戸、尼崎と兵庫で100年以上の歴史を見てきた「大貫」だが、その中で「大貫」には家族で何代にも渡って来ている常連客もたくさんいる。
「私で現在四代目(49歳)になりますが、常連様の中には家族で四代・五代とご来店頂いている方が何組もおられます。子供の時におじいちゃんおばあちゃんに連れられていたお子様が成人して彼氏を連れて来るようになり、やがて『結婚しました』と赤ちゃんを連れて来てくれる…そんな常連様を見たときが、やはり最も冥利に尽きます」(創さん)
中華そばのスープは動物ベースの白湯系で、タレは100年以上追い足ししている熟成醤油ダレ。この熟成感が独特な酸味を生み、まろやかさの中にスッキリ感が加わる。
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100年追い足しの熟成醤油ダレ
創業以来、毎日毎日追い足し継ぎ足されたタレは家宝といっても過言ではない。初代の長治さんは「タレはお客様に作って頂いているようなもの。追い足し継ぎ足し出来るのは毎日毎日沢山のお客様が召し上がって下さるからこそ、また今日も継ぎ足せるのだ」とお客さんへの感謝を欠かさなかったという。
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麺は黄色いたまご麺
麺は自家製の足踏みたまご麺。足踏み製法による自家製麺は、一般的な製法に踏み込み作業を加えた昔ながらの製法だ。大正時代には主流だったとされる足踏み製法だが、現在では機械化が進み、また作業の大変さから続けている店は少ない。
「食文化は地域によって好みが大きく異なると思いますので、味に対する『絶対にこうだ』というこだわりは正直ございません。
クラシカルな製法の自家製麺や毎日継ぎ足す素ダレ、絶対に安全な食材を使用するなど、味よりもむしろ食に対する姿勢にこだわりを持っています。店名の由来の通り、『初心を大きく貫く』ことを大事にしています」(創さん)
これからの「大貫」の目標は…!?
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中華そば
「大貫」の中華そばは、いわゆるノスタルジックな醤油ラーメンとは違い、独創性がある。東京で広がっていったあっさり系の醤油ラーメンとは全く違う白湯系の一杯なのである。これが本当に面白い。
今食べても唯一無二の味わいで、まさにここでしか食べられない一品だ。
最後にこれからの「大貫」の目標を聞いてみた。
「“温故知新”です。古きものの設計図を今の私たちに出来ることに書き換える。私たちにしか出来ないエッセンスを盛り込み、新しい設計図に書き換えることです。
それは、新メニューを作り出すことではありません。古い伝統を打ち破るのはなかなか難しいので永遠の目標かもしれません。ちなみに三代目の父もまだまだ現役ですので。昭和の師匠は大変です(笑)」(創さん)
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「やきめし」や「蒸し鶏」も逸品
伝統が途絶えず、いまだ続いているからこそできることがある。大正からの味が今でも食べられることに感謝しつつ、これからの「大貫」にも注目したい。
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大貫 本店
兵庫県尼崎市神田中通3丁目29
06-6411-9583
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取材・文・撮影/井手隊長
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