2017年には3600億円だったスタートアップへの投資額が、2021年には2.3倍の8200億円となり、市場が拡大。さらに、2022年11月には「スタートアップ育成5か年計画」が策定されるといった追い風もあり、若者の起業やスタートアップへの転職は珍しくなくなっている。サラリーマンとして長年キャリアを築いてきた40~50代にも、早期退職制度などを活用したうえで、セカンドキャリアとして「起業」を選択する流れも広がりつつある。
岸田政権は「スタートアップ」投資額10倍計画策定も…公認会計士が教える「脱サラ起業」の落とし穴と、その回避法
集英社オンライン / 2023年2月15日 7時1分
「新しい資本主義」をかかげる岸田政権は昨年、「スタートアップ育成5か年計画」を策定し、スタートアップへの投資額を2027年度には現在の10倍以上の10兆円規模にする目標を発表した。これにより起業やスタートアップ企業への転職の追い風が吹くなか、思わぬ落とし穴も…。公認会計士が「こんなはずじゃなかった…」を回避する方法を解説する。
思った以上に出ていくお金
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40~50代にとっても、本来の退職金に4000万円ほど上乗せして早期退職をうながす大企業が出てくるなど、セカンドキャリアに挑戦しようとする人にとって、環境が整いつつある。
だが、起業した人々の中には「こんなはずじゃなかった……」と後悔し、会社員に戻る人が一定数いるのも事実だ。
そこで、起業に関するよくある「落とし穴」と、それを回避するための方法を、自身も起業し、自治体の創業支援施設でアドバイザーも務める公認会計士、加藤雄次郎氏が以下に解説する。
※※※
起業した場合、店舗・オフィスの賃料はもちろんですが、交通費や印刷代、健康診断の費用など、これまで会社の経費や福利厚生として何気なく利用していたモノ、サービスに関するコストも自己負担となります。そのため、当初想定していた以上にコストが積み重なり、会社員時代に比べ「収入のわりに手元に残る額が少ない」といった事態に陥りがちです。
会社員時代の待遇や起業内容等、個々人の状況にもよるので、一概には言えませんが、会社負担費用の中で、起業後は自己負担となるものとしては主に次の表のようなものがあります。
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(筆者作成)
資金計画を作成する際には、こうした思わぬコストの落とし穴にはまらないように、会社員時代との違いを意識しながら、少し積みすぎなくらいでコストを見積もることが大切です。
また、社会的信頼の高い大手企業から飛び出したことで、思わぬ形で生活設計が狂ってしまうケースもあります。
大手企業からスタートアップに飛び込んだ30代女性は「賃貸住宅の契約名義を、もとの会社から転職先の会社にしようとしたら、審査に落ちた」と語っていました。口座開設やローンの契約など、「審査」が必要となる場面では、収入以外にも、勤務先や職業が大きな判定要素となります。
社会的信頼の低下に伴う不利益が生じる可能性があることを念頭に置いた上で、様々な選択肢をとれるようにしておくことが大切です。
「家の賃貸の審査に落ちた場合は、引っ越せるように、あらかじめ転居先の目星をつけておこう」「審査に落ちるかもしれないので、早めに法人の登記簿謄本や印鑑証明書などの書類を準備しよう」などと、柔軟かつ迅速に対応することを心がけましょう。
自分のやりたいことができると思ったら…
起業した30代男性が「事業を展開するにはこんなにやらないといけないことがあるとは……。会社員時代は、請求であれば経理、契約であれば法務といったように、それぞれ担当部門があり、丸投げできたので楽だった」とこぼしていたのを覚えています。
個人事業を立ち上げた場合や、創業から間もないスタートアップでは、商品開発、営業、マーケティングはもちろんのこと、請求、契約、支払いなど数多くの業務を1人~少人数で対応する必要があるのです。
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配属に従って仕事をする会社員に比べ、起業家やスタートアップ社員は、自らのやりたいことを軸に仕事ができると思われがちです。もちろん、そうしたやりがいを感じやすい一方で、これまで会社内の他の部門が対応してくれたことまで、自分で対応する必要が生じます。
こういった業務にあてる時間は、販路拡大のための営業や、顧客のためのサービス提供ができず、もどかしさを感じることもあるかもしれません。
ただ、今は、経理や契約といった業務を効率化できるサービスが月額数千円で利用できます。起業して1年ほどの私も、そうしたサービスのおかげで、請求や契約、経理といった業務の時間を、日々の仕事の1、2割ほどに抑えられています。
そうしたサービスを利用する上での注意点としては、身の丈にあったサービスを利用し、どのサービスを利用しているかの管理を怠らないことです。
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様々なサービスがある中で、サービス内にも多くのプランがあり、普段使わない機能も備えた高額なプランをついつい契約してしまったり、契約したものの思ったより利用しないまま、解約手続を忘れて月額費用を払い続けていることはよくあります。
そのため、事業内容やお財布と相談しながら、サービスをうまく活用し、効率的に事業を展開しましょう。
インボイス制度も二転三転…ペナルティで思わぬ出費も
昨今話題のインボイス制度は、これまで「免税事業者」として消費税の納税義務がなかった方でも、10月からの制度開始に向けてインボイス登録を行い、「課税事業者」となった場合、消費税の納税義務が生じます。これは収入の減少に繋がりうるため、自営業・フリーランスの方々を中心に大きな影響を及ぼします。
現在「免税事業者」である自営業やフリーランスの方々は、登録を行うかどうかについて正確な情報を集め、慎重に検討する必要がありますが、ここ最近でも負担軽減策の導入や登録期限の延長など、制度変更が頻繁に起きており、最新情報のキャッチは容易ではありません。
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インボイス制度に限らず、起業した場合は制度改正についてこれまで以上にタイムリーかつ正確なアップデートが求められます。新たな制度についてきちんと理解しないと、損をしたり、無自覚のうちに法律に違反したりする可能性もあるため、十分な注意が必要です。
特に毎年秋には、自民党の税制調査会が、翌年度の税制について議論します。秋から年末にかけては、連日、税金に関する制度の変更や新設が報道されますので、自分の事業や生活に影響するものがないか、確認しましょう。
たとえば、昨年末に決まった与党税制改正大綱には、インボイス制度の負担軽減策の導入のほか、燃費の性能によって自動車重量税が安くなる「エコカー減税」の期限を3年間延長することや、防衛費を増額するために法人税が増税されることなどが盛り込まれました。
事業拡大に努めるあまり、制度への対応は後回しになりがちですが、期限を過ぎると本来受けられたはずの優遇措置が受けられず損をしてしまうケースや、納付遅れにより延滞税を支払わなければならないケースもあるため、早めに対処しましょう。
このように、起業やスタートアップへの転職には、たくさんの「落とし穴」が潜んでいます。
とはいえ、国や自治体で、補助金や創業支援施設の新設といった、起業家・スタートアップ支援がこれまでになく充実している今は、起業するにはいいタイミングです。
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先輩起業家の話を聞けるイベントや、弁護士や公認会計士といった専門家の無料相談の機会も増えているため、それらをうまく活用し、しっかりと計画を立て、着実に実行しましょう。
起業のメリットだけでなく注意点もよく理解したうえで起業すれば、自分次第で事業を大きくする可能性は、これまで以上に広がっています。
文/加藤雄次郎
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