「ヒット作の共通点をよく聞かれるからちょいちょい考えるんですが、ないんです(林)」【仕事術からエンタメの未来まで 2】佐久間宣行テレビプロデューサー×林士平『少年ジャンプ+』編集者
集英社オンライン / 2023年2月26日 10時1分
『ゴッドタン』や『ウレロ☆シリーズ』、『あちこちオードリー』など人気バラエティ番組を多数手掛け、多彩な活躍を見せるテレビプロデューサー、佐久間宣行と、『SPY×FAMILY』に『チェンソーマン』、『ダンダダン』など数々のヒットマンガ作品を担当する辣腕編集者である林士平。UOMOにて実施されたふたりの初対談を全4回にわたり、ほぼノーカットで再公開する。(全4回の第2回 初出:2022年12月28日)
※マンガ原作を未読で、アニメ版のみ視聴している方には、キャラクターやストーリー上のネタバレを含みますので、ご注意ください。
売れる、売れないはわからない(林)
佐久間 マンガって、一話一話の面白さもありながら、数年かけてたどり着きたい場所みたいなのもありますよね?
林 ありますね。
佐久間 作家さんによって全然違うと思うんですけど、一緒に組み立てるのか、それとも作家さんがたどり着きたい場所までサポートしていくというイメージなんですか?
林 作品によりますね。遠くのゴールは決まっているけど、その途中のマイルストーンが何も決まってないことが多いので、そういう場合は「どうやってたどり着きます?」というのを定期的に議論して…という感じです。できる限り面白いルートをたどりたいので、定期的に長期の目線での話をするんですけど、長期の目標を決めたくないというか、言いたくないという人もいるんですよね。
佐久間 ちゃんと心の中では決まっていると。
林 そうです。ちゃんと純粋に読んでほしいからという人がいるので。そういうときはあえて聞かずに、目の前の一話に集中して打ち合わせをするということもありますし、本当にバラバラですね。
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(左)佐久間宣行(テレビプロデューサー)×(右)林士平(『少年ジャンプ+』編集者)
佐久間 マンガ編集の場合、作家さんと向き合って一話一話の面白さをつくっていくのと同時に、そのマンガを話題にしていく宣伝プロデューサーの側面もありますよね。
林 はい。僕としては両方ずっとやっている感じです。作家さんは逆に宣伝のことを考える余裕はまるでないんですよ。こちらから都度「こういうことをやりたいのでやりますよ」というのを提示します。作家さんの協力が必要な場合は「すみませんがちょっと一日いただきます」とお願いしますが、それ以外はだいたいこっちがプランを用意して、「ここまでやっていいですよね?」というのを確認して進める感じです。
佐久間 一緒に仕事する作家さんで、「この部分をもっている人とは何か一緒にでかいものをつくれるな」という共通したものっていうのはあるんですか?
林 それがないんですよね。ヒット作家で共通点とか、ヒットする作品の共通点とかよく聞かれるからちょいちょい考えるんですけど、ないんです。愚直にマジメに、ということですね。マンガの仕事がそもそもそういう構造になっているので、机に向かい続けている人しか生き残らない。描くのがしんどいという人はなかなか難しい。でも、そういう人でも売れている人がいるんですよね。こればっかりは本当にわからないです。
佐久間 売れる、売れないはわからないですよね。だから、僕は芸人のネタには口を出さないようにしているんですよ。責任を取れないから。芸人から「ここの部分どうですか?」と言われたときには正直に意見を言うし、自分の才能といわゆる現行バラエティの折り合いが付かない人にアドバイスみたいなことはするけど、ネタはその人本人の宝物だから口は出さないようにしている。それもあって、審査員の仕事は極力やらないようにしています。
林 そうなんですね。
面白いと感じる瞬間はバラバラ(林)
佐久間 「わっ、これはすごいくるかも!」と思う瞬間というのは、やっぱり作品ごとに違うんですか?
林 違うと思います。プロットでわかる面白さと、ネームじゃなきゃわからない面白さがやっぱりあって。例えば『よつばと!』みたいな漫画って、たぶんプロットの段階じゃ面白いかどうかわからない気がします。よつばちゃんのかわいさって動かさないとわからない。でも、『進撃の巨人』はたぶんプロットで読んでも面白いような気がするんですよね。だから企画とか作家の特性によって面白いと感じる瞬間はバラバラかなと。
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『よつばと!』1~15巻発売中
©︎KIYOHIKO AZUMA/YOTUBA SUTAZIO
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『進撃の巨人』全34巻
©︎諌山創/講談社
佐久間 『チェンソーマン』はどうだったんですか?
林 『チェンソーマン』はたぶんプロットで読んでも面白いし、演出が加わってさらに面白いという印象はありました。本当に作家さんによって進め方が違うので、関わり方も変わってくるんですよ。
藤本さんの場合は、打ち合わせで固めるところと、あえて自分からは何も言わないところがあって。ネームで読んだときに生で感じてほしいところは僕に言わないで、ネームにして見せてくる。でも、物語の構造で悩んだときはご相談いただくので、「僕としてはこういうことを期待します」とか「こういうふうになったら面白いと思います」と言うようにしています。
『SPY×FAMILY』の遠藤(達哉)さんは、プロットから密に何度も何度も打ち合わせをするタイプです。お互いに矛盾点をずっと探すんですよ。キャラクターが知っている/知らないとか、心が読める/読めないとか。
「こうなったらもうアウトじゃん」というパズルゲームみたいなところもあるので、そこはかなり綿密にやっています。それでもいざ描き始めたら、「えっ、これじゃダメじゃん」というのが見えてくるんですよね。だから結局、毎回締め切りに追われながら、大事な打合せを重ね続けています。
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『SPY×FAMILY』1~10巻発売中
©︎遠藤達哉/集英社
佐久間 『SPY×FAMILY』の遠藤先生は、ロジックの部分をけっこうしっかりつくってからじゃないと描けないタイプなんですね。
林 すごい密に打ち合わせしながら、創っていただいてます。
佐久間 芸人さんの中には、絶対に自分の意見でしかやらない人もいるんですよ。こっちがアイデアを出し続けていると結果的に追い込んで退路を断っちゃうから、あえて、つまらないアイデアだけ出すという会議があるんですね。
林 ハハハ、なるほど(笑)。
佐久間 間が持たないからアイデアを出すんだけど、仮に自分のとっておきのアイデアを出したとしても、それは絶対やろうとしない。例えば劇団ひとりとかがそうで、自分で生み出したものしかやらない。だから、彼が何か思いつくまでつまらないアイデアを出すしかないという(笑)。
林 それでいうと、意図的に「壊す」打ち合わせはするかもしれないですね。ムダにあり得ないプロットをお伝えして、「それ、ありなんですか?」と聞かれたら、「なしだと思うんですけどね」と言いながら、一応お伝えするだけはすることはあります。
怒られるのが自分1人のほうが過激なものを出せる(佐久間)
――とんでもない才能っていうのは出てきた瞬間にわかるものなんですか?
林 芸人さんは難しそうですよね。
佐久間 こっちは面白いと思っても、世間の反応は全然だったということはありますからね。それこそランジャタイとか、5年前ぐらいに番組に出てもらって、僕はめちゃくちゃ面白かったけど、全然ウケなかった。それはたぶん僕のアプローチの仕方が間違っていたんですよ。彼らを天才として出しちゃったからみんな身構えちゃったんだけど、本当はもっとアナーキストとして出すべきだった。最初の見せ方、リボンの掛け方が間違えていたんですよね。
マヂカルラブリーがランジャタイと一緒に絡んだときがあって、マヂカルラブリーはランジャタイのことをクソ何もできないやつらとしてプレゼンしたんですよ。やじったりして。でも、やじっても心折れずに勝手なことやる。その構図がめちゃくちゃ面白くて。だから、マヂカルラブリーのランジャタイのプレゼンが正しかったんだろうなと思います。
今はもうランジャタイは何をやっても大丈夫ですけど、若い才能と接するときは「これが世の中に対しての正しいプレゼンテーションなのだろうか」「才能を潰してないだろうか」みたいなことは常に考えますね。
――藤本先生はデビュー当時からとんでもない才能だなっていう感じだったんですか?
林 若い頃は大量のボツを重ねていました。読み切りの6作目とか7作目くらいまでは、もう本当に毎週毎週ずっとボツみたいな時期があって。本人もめげずにずっと送り続けてくるので、すごいなと思いながらも、「毎週送ってこなくていいから、ちょっと考えようか」と言うこともありました。そういう新人さんはいるんですよね。やる気があり過ぎるというか。
佐久間 初期短編集が出ているから、当時の荒々しさもわかるんですけど、おそらく世の中にはまらないかもしれない過激な部分はもっとあったと思うんです。それを作品として出せるようにするまで、どうアプローチしていったんですか?
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『藤本タツキ短編集 17-21』
©︎藤本タツキ/集英社
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『藤本タツキ短編集 22-26』
©︎藤本タツキ/集英社
林 作品ごとの議論になるんですけど、すごくシンプルにいうと、露悪的なものがメインディッシュなのはNGですよとか、物語上必要だったら描いていいですとか、そういう境界ラインは議論できるので、そのやり取りはしました。本人も、映画だったら、アニメだったらどのへんまで描いているかというのを把握しているので、そのラインを自分なりに見定めている感じでした。
さすがに「これはまずいですよね」というのは全部お伝えして、それでも本人もわかって確信犯的にやっているときもあるので、「やっぱりそうですか」といって直すこともあれば、「いや、これは直したくないです」という場合もあって、そういうときは編集部内で「載せられますかね」みたいな相談をします。
佐久間 僕も『ゴッドタン』で途中からプロデューサーを兼任したのは、怒られるのが自分1人のほうが過激なものを出せるからなんですよ。最初はプロデューサーが別にいたんですけど、そうするとその人たちが怒られちゃうから。
林 かわいそうですよね。
佐久間 かわいそうだったので、僕が全部やるようにしたんです。でも、自分がやるようになったことで、これはたぶん視聴率を取らないから怒られるだろうけど、あとでDVDでめちゃくちゃ売って鼻を明かしてやろうとか、そういうこともできるようになったから、よかったですけどね。
つづく
Photos:Teppei Hoshida
Interview & Text:Masayuki Sawada
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