〈旭川いじめ事件から2年〉デマ・誹謗中傷が再び少女を傷つけた“もう一つの旭川事件”。名誉棄損の投稿者“きなこもち”の意外すぎる正体と“同級生”を騙って侮辱罪の愛媛在住・無職男の弁明「批判するのは公共性、公益性がある」
集英社オンライン / 2023年2月14日 18時56分
北海道旭川市で2021年、いじめを受けていた中学2年の広瀬爽彩さん(当時14歳)が凍死した“旭川いじめ事件”。2月13日で爽彩さんが行方不明になってから2年がたった。2021年4月、「文春オンライン」が“いじめ事件”の一報を報じると、一部YouTuberがいじめに加担したとされる少年・少女の実名を公表したほか、ガセ情報も多く出回った。なかには悪意あるデマ・誹謗中傷も匿名掲示板に書き込まれ、亡くなった爽彩さんや、その母親を攻撃した。ここに“もう一つの旭川事件”を詳報する
誹謗中傷・名誉棄損の「きなこもち」は
母親と2、3度顔をあわせた程度
2021年4月15日、「文春オンライン」が一報を報じた“旭川いじめ事件”。報道後、記事はまたたく間に拡散し、ネットの声が市政を動かした。現在、旭川市長直属の新たな第三者委員会が設置され、教育評論家の尾木直樹氏をはじめ、複数の有識者たちが爽彩さんの亡くなった経緯といじめとの因果関係について再調査を進めている。
「前市長が設立した旧・第三者委員会は、学校や教育委員会に近い人員で設置され、学校にとって不都合なことは表記されていなかった。調査はズルズルと引き延ばされ、遺族は落胆していました。しかも娘の無念をはらそうと母や遺族、支援者が動くとネットの掲示板やSNSに事実無根のデマを何度も書き込まれる。陰湿なカキコミは今も続いている」(支援者)
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亡くなった爽彩さん
インターネット上の投稿で名誉を毀損され精神的苦痛を受けたとして、爽彩さんの母親は投稿した女性に対し、約253万円の損害賠償を求めて旭川地裁に提訴した。
訴状によると、被告のSNSのハンドルネームは「きなこもち」。旭川市内在住の40代女性で、母親とは2、3度顔をあわせた程度の“顔見知り”だという。
以下は、「きなこもち」のTwitter投稿文である。
《家の中がゴミ屋敷化してた時期がありました。靴を履いて家に入ってた状態。最終的には家で生活できず娘と車中泊の生活。殴る蹴る等の虐待さえなければそれでいいんでしょうか?》
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《だから言ってるんですよ。家庭にも問題もあったって。昔から知り合いだったり、身近な人で知ってる人は多いんです。みんな「またか」「やっぱり」って思ってるから発言しないだけです。本人と身近じゃなく何も知らない人達が否定してるだけです》
私生活を注意したことで恨みをかってしまった
2021年4月末、「きなこもち」が書き込んだSNSはたちまち拡散され、地元の匿名掲示板は炎上した。『母親が悪い』『いじめはなかった』とネット上では心無いカキコミが続いた。だが、広瀬さんの自宅に入ったことのある支援者や友人は、「部屋は整頓されているしゴミもない、仕事もしっかりとしてされており収入もある、誰の話をされているのか…」と首を捻る。
長年、旭川事件を取材してきた記者が解説する。
「『きなこもち』の友人でXという女性がおり、『きなこもち』の情報源はXだということがこれまでの裁判資料ででてきています。Xは広瀬さん(母親)とは10年以上前に、少しだけ職場が同じで、子どもも同世代、家も近所だった。またXはコワモテで気が強く、過去に私生活を注意したことで広瀬さんはXから恨みをかっていたと思われる。“いじめ事件”が明るみになり、自身の子どもが通う学校に誹謗中傷や爆破予告がきたことからXは『子どもを守るために(きなこもちに)情報を教えた』と周囲に話している」
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旭川地方裁判所
訴状には、原告側である爽彩さんの母親は「自殺の原因が母親の監護体制や家庭環境にあることを強調するものとなっており、執拗である」「投稿内容も単なる事情の知らない第三者が投稿しているような外見ではなく、あたかも子を小学校時代から知っている内部関係者であるかのように装っての投稿をしており、悪質性が高い」と主張。
いっぽう被告側の女性「きなこもち」はツイッターに投稿した事実は認めているが、投稿内容については「投稿は断片的な事実を記載したもので根拠はない」「原告の社会的評価を低下させたとはいえない」とし、争う姿勢を示している。
取材班は1月末日、「きなこもち」の自宅に話を聞きに行ったが、室内から声はするもの、インターホンを押しても応じられることはなかった…。
同級生を語った愛媛在住男が
遺族に送った約3000字の“謝罪文
一方、爽彩さんや遺族とまったく面識がないのに知人を騙り、誹謗中傷を続けた男がいる。広瀬家とは縁もゆかりもない、愛媛県在住の無職男は、爽彩さんの同級生を名乗り、ネット掲示板にデマを流し続けた。
「性被害をうけた爽彩さんに、卑猥な言葉を連想させる『あだ名』をつけ、デマを投稿。男は昨年1月、侮辱罪で略式起訴された。警察の調べに『イジメとか嘘(うそ)いって金稼ごうとしている母親が許せない』などと供述した」(地元紙記者)
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爽彩さんが友人に送ったSMS
略式起訴された後、男は遺族にSNSを通じて、事件にいたった経緯や謝罪をメッセージで送ってきた。約3000字にもなる長文の“謝罪文は要約すると次の5点だ。
① 自身は心の病気でニートのため1999年にパソコンを買い与えられて以降、365日毎日ネットをしており、20年間犯罪者批判をしてきた。それらの行為は弱者被害者を犯罪被害から救いたいボランティア精神にあった
② 自分はTwitterをしており、爽彩さんが行方不明になった際(2021年2月)情報がまわってきた。この手の話は無数にあり、また小学生ではないのでそこまで深く興味は持たなかったが、数分間情報元を辿ってみると、母親の否定的な情報も公開されており、爽彩さんが不良で家出だと思った
③ ”旭川いじめ事件“の記事を読んで、記事は悪質なデマだとおもった。いじめ加害者とされた人たちはネットで実名が公表され、ユーチューバーから嫌がらせや家襲撃破壊、拡声器や盗撮や恫喝、暴行、ストーカーなど無数の犯罪被害にあっていた。被害者(いじめグループ)に対する名誉毀損と偽計業務妨害だとおもった。母親と文春は犯罪者であり、被害に遭われた人たちを救う為に犯罪を止めようと、批判しなくてはならないとおもった
④ 自分は、これまでデマ情報を流す者を必死に攻撃してきた。犯罪者を批判するのは公共性や公益性があり、そのお陰で悪質なデマを流した人間たちは警察に逮捕され、私は微力ながら影で被害者に感謝されていると思う。今回の行為もデマを流した犯罪者が逮捕されるようにいつもと変わらず全く同じことをしたつもりだ。
⑤ 今回は侮辱罪ということで、もう少し適切な言い回しがあったのではと反省している。今後、こういった行為を繰り返さないよう誓います。そしてネット依存から脱してまともな社会人になります
“居場所”だったネットが、爽彩や家族を苦しめる
これまで誹謗中傷事件の捜査や裁判に協力し、長年、広瀬家と交流のある友人は、男の送った文面を読み肩を落とした。
「『もう少し適切な言い回しがあったのでは』ってこれが謝罪といえるのでしょうか…。遺族としては裏もとらず同級生を騙り、デマを書き込まれるのは心外ですし、横行するデマのカキコミに胸を痛めています。ただ“旭川いじめ事件”はネットで関心がもたれ、そのおかげで第三者委員会や新・第三者委員会が立ち上がったとも思っています。いじめを受け、学校に行けなくなった爽彩の“居場所”はネットでした。そのネットが、爽彩や家族を苦しめる。同じようなことは二度とおきてほしくない…」
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幼い頃の爽彩さん
2月13日で爽彩さんが行方不明になってから2年がたった。市内某会場では身内や近親者が集まり爽彩さんの三回忌がおこなわれた。爽彩さんの母親は周囲に「今は再調査の結果を待ちたい」と話しているという。
「集英社オンライン」では、学校や職場でおきた“いじめ事件”について、情報を集めています。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
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