「どつき漫才」と「罰ゲーム」は本当にいじめを助長するのか? コンプラ全盛の今、テレビが果たすべき「ちょいワルな先輩」という役割のゆくえは?
集英社オンライン / 2023年2月22日 11時1分
テレビマンがNGなしで書き下ろした『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』 (光文社)。今回は、ドッキリや漫才のツッコミなどの「痛みを伴う笑い」といじめ問題について一部を抜粋、再構成してお届けする。
厳しすぎるBPO(放送倫理・番組向上機構)のせいで
ベテラン&中堅芸人がテレビからいなくなる……
「どつき漫才」と「罰ゲーム」は本当にいじめを助長するのか?
いまテレビマンたちは、とにかく「とまどいながら」仕事をしています。それは、すべてのジャンルで同じです。どんな番組を制作するにしろ、「あらゆることの基準がはっきりしないので、どこまでがオッケーでどこからがアウトなのか」がまったくわからなくなっているのです。これは番組制作現場にとっては本当に悩ましい問題です。
「基準がはっきりしない」と言えば、いちばんはっきりしない基準が「痛みを伴う笑い」をどうするかについてです。2022年の4月にBPO(放送倫理・番組向上機構)の青少年委員会が「『痛みを伴うことを笑いの対象とするバラエティー』は、青少年が模倣していじめに発展する危険性が考えられる」という見解を出したことがきっかけとなって、いやその前の2021年8月に「『痛みを伴うことを笑いの対象とするバラエティー』を審議対象とすることを決めた」時点から、バラエティ番組の制作現場は「どうすればいいのか」と困惑し、混乱しているのです。
「痛みを伴う」という意味がなんともよくわかりません。厳密に考えれば「どつき漫才」のように相方を叩くのをウリにしている芸人さんもアウトです。「罰ゲーム」も、たとえ「からだにいいマッサージ」でも「高周波治療器」でも、だいたい痛みを伴いますからアウトですよね。現場の人間としては「どうしろと?」という感じですよ。
まあよくよく見解を見てみると「全部ダメ」と書いてあるわけでもないんですけど、テレビ局にとってみれば、BPOという組織自体がコワすぎて、まるで思想裁判所のようになっているわけです。「審議入り」になっただけで、平気で番組が終了したりしますからね。いくら「気をつけて制作するように」くらいの見解でも、テレビ局のエラい人は「BPOで問題になりそうなことはやめとけ」って忖度しますから、現場にしてみればもう「罰ゲーム」も「相方をどつく」のもおっかなびっくりです。
誰だって「おまえのせいで問題になった」と言われるのはイヤですから、バラエティ番組のプロデューサーたちも、よほど勇気のある人たちを除いて「問題になりそうなことは念のためやめておこう」となるわけです。
私はいつも思うんですけど、BPOってそもそもは政府などの介入を受けないように、業界が「表現の自由を守るため」につくった自主規制のための機構なんですよね。だったら「ここまではOKだよ」という「やれる範囲」を具体的に出すべきだと思うんです。そして、あくまでも「個別具体的な番組の問題」について見解を出さないと、です。
制作現場が「ヤバいこと」をして問題にならないように、「こういうことに気をつけよう」とか「ここまでなら許容範囲」といったことを教えてくれないと、表現の自由は守れませんし、「面白くて、でも視聴者に悪影響を与えない番組」はつくれないと思うんです。今回みたいに、具体的に問題になった番組があるわけでもないのに、「痛みを伴う笑いは悪影響を与える」とか、ざっくり大きく「包括的にNG」みたいな感じで見解を出すのって、政府による介入とたいして変わらなくないですか?
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実際にこの見解が影響して、「あの有名な大晦日のお笑い番組」も終了したとささやかれています。そして、「からだを張った芸をウリにして笑いをとってきた」ベテラン&中堅芸人さんたちは、あまり番組に呼ばれなくなってしまってます。けっこうこれが深刻で、食っていけなくなったり、引退を考えざるをえなくなっている芸人さんも多いと聞きます。
コロナ禍、そしてテレビ出演者の若返り、そこに持ってきて「痛みを伴う笑いはNG」ということになってしまって、「オレたちはこれからどうやって生きていけばいいんだ?」といった感じに追い込まれてしまっているベテラン&中堅芸人さんたちのことを考えると、とても胸が痛みます。
もちろん「いじめをなくす」というのも大切です。でも本当に「罰ゲーム」はいじめを助長しているのでしょうか? そして、いじめを助長しない工夫をすることはできないのでしょうか? もっと現場の事情に寄り添って具体的に考えていかないと問題の解決にはならないと思いますし、テレビにあまりにも「倫理的な模範となるべき」という役割を押し付けるのもちょっと違うと思います。
私の世代は『8時だョ!全員集合』のような、放送当時は「俗悪番組」とされていた番組を見て育ちました。でも、本当にドリフは俗悪だったのでしょうか? なんとなく私たちは「俗悪というレッテルを貼られた番組から人生を学んできた」のだと思うのです。
「まじめだけどつまらない先生の話」より「ちょいワルだけど面白い先輩の話」のほうが勉強になることも多いはず……テレビが果たすべき役割は「マジメな先生」ではなく「ちょいワルな先輩」でいいのではないか、と思えてならないのです。
#1「全国ネットのワイドショーの裏側」はこちら
#3「海外ロケの不思議なお約束とは」はこちら(2月23日11時公開予定)
#4「テレビ離れの若者がテレビ業界に就職を希望する本音とは」はこちら(2月24日11時公開予定)
『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社)
鎮目博道 (著)
![](https://assets.shueisha.online/image/-/2023/02/14092052652193/400/2886_001.jpg)
2023/2/22
208ページ
978-4334953638
みんなうすうす感じているアノ裏コノ裏をオープンに!
テレビ局に27年間在籍した立場だからわかる内部事情、問題点や外圧を、誰にでもわかりやすく解説していきます。
YOUTUBEに押され「テレビは終わった」と言われたりしているが、本当に凋落の一途をたどるのでしょうか!?
[番組の病巣][制作の闇][人材の裏側][周辺の実情][放送の壁]の5つのジャンルについてをこのような見出しで。
【ニュース】信頼をなくしたのは「レギュラーコメンテーター」がいるから。コメンテーターは毎日変えるべき
【海外ロケ】「歓迎の踊り」30万円! 海外ロケには「不思議なお約束」が……「あの探検隊」から現在まで続く「ビックリルール」の数々
【スポンサー】「ポルシェ」や「フェラーリ」が事故を起こすとニュースになっても、国産車の名前は明かされないのはスポンサーへの忖度……など45項目。
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