歓迎の踊りは30万円、北朝鮮内部の映像は2000万円…テレビ局に27年在籍した“中の人”が「海外ロケ番組の内容はあまり真に受けないでください」と語るワケ
集英社オンライン / 2023年2月24日 11時1分
新型コロナウイルス禍以降、禁止されていたことが続々通常運転に戻りつつあるなか、テレビ番組の海外ロケも復活し始めている。そんな海外ロケのお約束の内情を『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』 (光文社)より一部を抜粋、再構成してお届けする。
「歓迎の踊り30万円!」 海外ロケには「不思議なお約束」が……
「あの探検隊」から現在まで続く「ビックリルール」の数々
海外ロケ番組の内容はあまり真に受けないでください。ヤラセとまでは言わなくても、そこにはまあまあたくさん「テレビマンしか知らない不思議なお約束」があるのです。
かつての大人気番組『水曜スペシャル 川口浩探検シリーズ』の頃はとてもわかりやすくお約束だらけでしたね。嘉門達夫さんの「ゆけ!ゆけ!川口浩!!」という歌でも歌われているように、洞窟の中にはピカピカに磨かれた白骨が転がり、底なし沼にハマる先住民の顔が笑っている……そんな世界でした。
かつて大先輩が、「金色の蛇にしたくてスプレーで蛇に色を塗ったら酸欠でグッタリして動かなくなった」という話をしているのを小耳に挟んだことがあります。さすがにいまはそんなことをしたらヤラセや動物虐待になってしまうので絶対にありえませんが、海外ロケでは「日本の視聴者にはわからないだろう」というなし崩し的なメンタルが働くのか、〝ちょっと演出が多め〟になりがちな面はいまでもあります。
たとえば「先住民たちの歓迎の踊り」みたいなシーンを番組でよく見ることがあると思います。私の知る限り、「遠く離れた日本からよく来たな」という純粋な気持ちで歓迎の踊りを踊ってくれる先住民の人はまずいません。そもそも、民族衣装のようなものを着て生活している先住民さんはまず存在せず、だいたいみなさん、我々と似たような洋服を着てスマホを器用に使いこなしている文明的な人がほとんどです。
ではなぜ彼らが「民族衣装で歓迎の踊り」を踊ってくれるかというと、コーディネーターからお願いされた現地有力者が、テレビの取材のために現地の人たちを〝調達〟してくれているからです。サービスで「歓迎の踊り」を踊ってくれるはずはないですから、当然謝礼は伴います。自分の経験と海外ロケ経験の多い仲間の話を総合すると、歓迎の踊り1回の相場はだいたい10万〜30万円です。
「取材の謝礼」ということで言えば、「ジャングル奥地の未接触部族の撮影に初めて成功した」みたいなロケでは、現地の政府機関への「取材協力金」の支払いが必要なケースも多いです。少数民族が多いある国では、「ある民族を初めて撮影する」謝礼金の相場がかつては数十万〜百万円くらいだったということですが、それを日本のとある放送局が金にモノを言わせて10倍くらいに吊り上げてしまい、世界じゅうの顰蹙を買ったことがあるのは業界では有名な話です。
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「高額な謝礼」という例では、かつて北朝鮮の脱北者たちへの取材がブームになったときには、取材謝礼の相場が驚くほど急上昇しました。各局で「面白い証言ができる脱北者」の取り合い状態になり、インタビュー1回で謝礼10万円くらいは当たり前になってしまいました。ある局が、「北朝鮮内部の衝撃的な映像」の素材を2000万円以上の高値で落札したという話も耳にしました。
ある脱北者から「このあいだNHKの取材に応じたら、謝礼金を払わずに記念品のタオルしかくれなかった」と文句を言われた(テレビ朝日の私がなぜか)こともありますし、「喜び組の女性」のインタビューが終わった直後に、「もっと謝礼をたくさん払え」と言われて撮影済みのテープを奪われ、走って逃げられたこともありました。「脱北者バブル」のような状況下、かなりおかしなことになっていたのはたしかですね。
あと、有名な〝お約束〟で言えば、海外ロケには「タイアップ」というものが存在します。特定の企業や、ある国の政府観光局などが「宣伝してくれることとひきかえに」ロケに必要な費用の一部を支払ってくれるのです。ニュース番組などではあまりタイアップをしないようにしていますが、それ以外の番組では、多かれ少なかれタイアップなしでの海外ロケは成り立ちません。
いちばん典型的な例は「無料航空券の提供や料金の割引」と「ホテル宿泊代の免除あるいは割引」です。番組で「飛行機の離着陸や飛んでいる飛行機の映像」が流れたら、その航空会社のタイアップだと思ってください。ホテルの外観が出てきたらそれもだいたいそのホテルのタイアップです。
そうして、出演者やスタッフの旅費を節約するのは当たり前です。さらに一歩進んで、外国の観光局などから「どこどこの観光スポットを取材してくれたら◯十万円」と申し出があるケースもよくあります。国によっては「ウチの国を取材してくれて、指定するスポットを撮影してくれたら◯百万円」などというタイアップもしばしば。
いま日本で人気の海外の観光地の中には、こうしたタイアップを頻繁に行うことによって、日本で放送される回数を増やし、巧みな宣伝をしている国も多いです。
知らないあいだに、世論まで操作されている可能性までありますから、要注意です。
『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社)
鎮目博道 (著)
![](https://assets.shueisha.online/image/-/2023/02/14093756830000/400/2886_001.jpg)
2023/2/22
208ページ
978-4334953638
みんなうすうす感じているアノ裏コノ裏をオープンに!
テレビ局に27年間在籍した立場だからわかる内部事情、問題点や外圧を、誰にでもわかりやすく解説していきます。
YOUTUBEに押され「テレビは終わった」と言われたりしているが、本当に凋落の一途をたどるのでしょうか!?
[番組の病巣][制作の闇][人材の裏側][周辺の実情][放送の壁]の5つのジャンルについてをこのような見出しで。
【ニュース】信頼をなくしたのは「レギュラーコメンテーター」がいるから。コメンテーターは毎日変えるべき
【海外ロケ】「歓迎の踊り」30万円! 海外ロケには「不思議なお約束」が……「あの探検隊」から現在まで続く「ビックリルール」の数々
【スポンサー】「ポルシェ」や「フェラーリ」が事故を起こすとニュースになっても、国産車の名前は明かされないのはスポンサーへの忖度……など45項目。
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