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〈荒井元秘書官発言で注目の“オフレコ”って何だ?〉「官邸筋」「首相周辺」…政治原稿のほとんどはオフレコベース! 事件取材の「捜査関係者」は警察・検察のこと。他社を出し抜く「飛び降り」は出禁覚悟で!

集英社オンライン / 2023年2月15日 18時1分

「オフレコ」とは「オフ・ザ・レコード」の略で、録音・録画を認めず、発言内容も実名で報じないことを前提に行う取材のことを指す。荒井元秘書官は「オフレコ」中に暴言を吐き、更迭に追い込まれたのだが、そもそもニュース報道はオフレコのオンパレードだと担当記者たちは語る。とどのつまり、オフレコって何だ?

オフレコ破り、何が論点となっているのか

「見るのも嫌だ。隣に住んでいるのも嫌だ」
「LGBTQ」といわれるセクシャルマイノリティ(性的少数者)に対するこんな暴言を吐いたことで、首相秘書官を務めていた荒井勝喜氏が更迭に追い込まれた。
問題の発言があったのは2月3日夜。その日の午後11時前に毎日新聞が自社のニュースサイトで報じて発言が発覚。報道各社が追随し、翌4日には、岸田文雄首相が視察先で記者団に「大変深刻に受け止めており、任命責任を感じている」と語り、首相側近の立場にあった荒井氏の罷免が決まった。



荒井氏の発言が性的少数者への配慮に著しく欠けるとんでもないものだったことは論を俟たず、世間の声も「更迭やむなし」という受け止めが大勢を占めている。
一方で、今回の騒動でもうひとつ議論になっているのが、荒井氏の問題発言が毎日新聞の「オフレコ破り」がきっかけとなって明るみに出た点である。
何が論点となっているのか。いま一度報道に至るまでの経緯を振り返ってみよう。

「問題の発言があったのは、平日夜に定例化している首相官邸でのぶら下がり取材でのことでした。この日は、毎日のほか、官邸番の記者約10人が参加。岸田首相が1日の衆議院予算委員会で、同性婚の法制化について『家族観や価値観、社会が変わってしまう課題』と答弁したことが話題に上がった。その首相発言の真意を荒井秘書官が説明する中で、問題の発言があったのです。
ただ、この取材は基本的にオフレコが前提となっており、発言内容がそのまま報じられることは想定されていなかった。毎日は、現場にいた記者が上げてきたメモを首相官邸キャップから東京本社政治部に報告。本社内での協議を経て、荒井氏に実名で報道することを通告した後で発言の内容をネットで速報しました。
これを受け、その日の深夜に荒井氏は再度、記者団の取材に応じて発言を謝罪し、撤回。この時の取材は『オンレコ』、つまり実名報道が前提だったようです」(全国紙政治部記者)

海外では「オフレコ」という約束を守れない記者は
記者会見などから追放される

「オフレコ」とは「オフ・ザ・レコード」の略で、録音・録画を認めず、発言内容も実名で報じないことを前提に行う取材のことを指す。日本新聞協会は、その定義について「ニュースソース(取材源)側と取材記者側が相互に確認し、納得したうえで、外部に漏らさないことなど、一定の条件のもとに情報の提供を受ける取材方法」と規定している。
荒井氏の発言に関する報道は、その「オフレコ」の原則に反していたことから、「オフレコを破っても報じるべきだ」とする声がある一方で、「信義に反する」「ルール違反だ」と毎日の報道姿勢を非難する声も上がっているのだ。

たとえば、読売新聞は7日付の朝刊社説で、オフレコの発言が報じられたことを《気がかりだ》とした上で、《本人に伝えれば、オフレコも一方的に「オン」にしても構わないというなら、オフレコの意味がなくなる。取材される側が口をつぐんでしまえば、情報の入手は困難になり、かえって国民の知る権利を阻害することになりかねない》とした。

政界からも異論は出ている。鈴木宗男参院議員は5日、自身のブログに《オフレコの話が表に出るとは人間不信にも繋がる行為であり、お互い考えなくてはいけないことである》と自身の見解をつづった。
元厚労大臣で東京都知事も務めた国際政治学者の舛添要一氏は、過去の自身の経験を引き合いに、ネットメディア「ニュースソクラ」で「オフレコ報道」を批判し、《秘密を守れない人が日本人には多い》とし、《海外ではオフレコという約束を守れない記者は、記者会見などから追放される》と指摘。《政治家や役人は厳しい批判に晒されているが、記者だけはそうではなく、安全地帯にいる》とオンとオフの区別なく政治家の失言を一方的に報じるマスコミの姿勢を断じている。

荒井氏のトンデモ発言を契機に、にわかに勃発したマスコミ報道における「オン・オフ」論争。さまざまな局面で記者が直面する問題でもある。全国紙の政治部記者はこう明かす。

「ニュースのバリューが最も高いのが、実名での報道であることは言うまでもありません。ただ、すべての場面で情報源を明かして記事化することはできません。旧統一教会の問題など、今まさに動きのある政治案件について書く政治原稿のほとんどはオフレコベースになります。文言にも工夫が必要で、まもなく発表になる法案や方針を前打ちする場合、より確度が高ければ『方針を固めた』と打ったり、まだ修正の可能性がある場合には、『最終調整している』などとニュアンスを微妙に変えたりします。
今回の荒井元秘書官の場合も、実名で報じる以外に『首相周辺』と打ったりするケースも考えられる。もっとぼかしたければ、『官邸筋』、さらに秘匿性を高めたければ『消息筋』にしたり、外交分野の記事では『外交筋』にするなど工夫を凝らしています」

ぶら下がり取材(写真はイメージ)

こうした取材対象者との距離感とニュースの報じ方について、状況に応じた判断を迫られるのは、政治報道の現場ばかりではない。

日本特有の「記者クラブ制度」にその遠因がある

社会部記者はこう打ち明ける。
「社会問題を報じる時には、匿名が前提で当事者に取材を受けてもらう機会は少なくありません。事件原稿を扱う時には、特に気を遣います。たとえば事件の捜査状況など機微に触れる情報を警察官や検察官などのネタ元から得て、それを報じる場合には、情報源がバレないように細心の注意を払います。
よく新聞で『関係者への取材で』というくだりが出てくると思いますが、それはオフレコで得た特ダネを報じる際に使う定型フレーズです。これが『捜査関係者』になると、それは当局、つまり警察や検察内部からの情報であると明かしていることになる。情報の共有先が非常に限定されている場合だと、『捜査関係者』のクレジットはネタ元の特定につながりかねないため、基本、使いません。それよりさらに踏み込んで『捜査幹部』とする場合もありますが、これは情報源が特定されるリスクがより高くなる。ただし、ただの『関係者』よりも『捜査関係者』や『捜査幹部』としたほうが記事の信頼性はより上がる、とデスクは判断しがちで、クレジットをどうするかというのは必ず現場で議題に上がることのひとつです」

新聞やテレビの記者たちは、当局の動きを先取りするスクープを打つために日夜取材に励んでいる。ただ、霞が関の各省庁や警察・検察などの当局に張り付く「番記者」たちは、記事を出しておしまい、というわけにはいかない。当局の意に沿わない特報を打っても、番記者としての付き合いは継続せざるを得ない。いかに取材対象者との「付かず離れず」の距離感を保つかに日夜腐心しているのだ。

「事件取材で、当局に最もいやがられるのは、『逮捕』や『立件』という節目を抜かれること。なので、各社横並びで事件の動きを把握している中で他社を出し抜く『飛び降り』には、特に目を光らせている。だから、記者のほうもなるべく当局に気を遣った体裁を取ります。
たとえば、報じた日が逮捕のXデーだとしても『近く』と時期をぼかしたり、『逮捕』を『本格捜査へ』と表現をぼかしたりするのです。それでも、『前打ち』をしてしまった段階で、一定期間、取材が禁止される『出禁』は覚悟しなければならないのですが……」(前出の社会部記者)

日々、我々が目にするニュースの裏側では、当局と記者とのこうした駆け引きが繰り広げられているわけである。取材する記者たちには苦労もあろうが、そもそも当局との関係性を無視できないのは、日本特有の「記者クラブ制度」にその遠因があるとの指摘もある。

インターネットの隆盛もあり、国民からの厳しい視線にもさらされるマスコミ業界。業界全体の斜陽もさけばれる中、現場の記者たちは日々、悩み、葛藤を抱えながら、ニュースを報じ続けている。

取材・文 集英社オンライン編集部ニュース班

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