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紀伊名物・マンボウの串焼きは、まさかの禁断のあの肉の味? 車中泊旅の途中で検証してみた

集英社オンライン / 2023年2月23日 10時1分

「これまでの人生でトップクラスに入るほど食べたことを後悔している」と友人が言う食べ物。西へと繰り出した車中泊の旅先で「ソレ」に出会ったコラムニストの佐藤氏は迷うことなく、食べてみることに……。

旧友たちとの飲み会で話題になった、
“人の肉”に似た食べ物のこと

昨年末、旧友たちと飲み会をした。
取り止めなくしょうもない話ばかりしていたので、どういう経緯でその話題になったのかも忘れたが、付き合いの長い一人の友が、旅先で食べたある料理の話をはじめた。
彼曰く、それは、これまでの人生でトップクラスに入るほど、食べたことを後悔したもの。
その味と食感がなかなか忘れられず、いまだに困っていると言うのだ。

何がそんなに不快だったのかと聞くと、そいつはとんでもないことを言った。


限りなく“人の肉”に近いというのだ。
「それがわかるということは、お前は人を食ったことがあるのだな」と、当然の総ツッコミを受けることになったその友の顔を、僕は1月半ばに出かけた車中泊旅の途中、三重県の道の駅で思い出していた。

まったくの無計画でただ西へと進路を取り、10泊11日で“男一匹真冬の車中泊旅”をしていた僕は、出発から8日目の2023年1月20日、三重県紀北町の道の駅にて一夜の休息を取ることにした。

夜中に到着した三重県・紀伊長島の道の駅

着いたのは夜遅くなってからだったので、道の駅のすべての店舗はシャッターを降ろしていた。
だけど敷地内のある建物の屋根にかかっている看板で、僕は目的の店がそこにあることを確認した。

マンボウ料理をひさぐ店だ。

友人が「人の肉に似ている」と断言した、あのマンボウを。

紀伊長島の道の駅にあった、
目的のブツを売る店

道の駅は、その名も「紀伊長島マンボウ」。
奈良から吉野の山を越えて三重県に入ったとき、ネット検索でマンボウ料理屋がその道の駅内にあることを知り、僕は件の友人の話を検証しようと思い立ったのだ。
まあ、僕自身もさすがに人の肉は食べたことがないので、検証といっても勘に頼るしかないのだが。

翌1月21日。
朝6時半に、強い風の音で目覚めてしまった。
海からの風なのだろう、窓を開けると湿った冷たい空気が吹き込んできた。
車内の温度は5℃前後まで下がっていたが、電気毛布のおかげで寝床の中は一晩中暖かく、気持ちよく熟睡することができたので睡眠時間はバッチリだ。

国道42号沿いにある道の駅 紀伊長島マンボウ

目的のマンボウ屋はまだ開いていなかったので、僕はとりあえず南の和歌山方面へ向かって車を発進。
綺麗な海岸を発見し、紀伊半島の夜明けの空を眺めながら少し散歩をした。

名前もわからないけど、心洗われるような綺麗な海岸だった

そして8時過ぎに再び道の駅 紀伊長島マンボウへ戻ると、店はシャッターを開けて商売をはじめていた。

営業を開始していたマンボウ屋さん

メニューはマンボウ串焼きのほか、マンボウの唐揚げ、鮫の串焼き&唐揚げ、ウツボの唐揚げなどがある。

あまり見たことがないお品書きが並ぶ

ちょっと珍しい海産物を軽食として販売する、なかなかユニークなお店のようだ。
人の良さそうなご主人におすすめを聞いてみると、マンボウの串焼きが一番人気ということだったので、さっそく一本注文してみた。

焼き上がったその串焼きは、食欲をそそる香ばしい匂いを漂わせていた。

焼き上がる前からいい匂いが漂ってきた

これがマンボウの串焼きだ

果たして、本当に人肉っぽい味がするのだろうか。
白くプヨプヨした見た目は、確かにそう見えなくもなくて、少しドキドキする。

マンボウの串焼きは
果たしてどんな味だったかというと

恐る恐るかじった一口目。

ん?
うまいじゃないか!

味は白身魚、歯応えは鶏肉に近い。
見た目から脂っこいのかなと想像したが、口に入れてみるとそんなこともなく淡白だ。
塩コショウがよく効いていて、素材であるマンボウの肉の味は舌で探さなければ感じられないほど控えめ。
僕は下戸なので飲まないが、きっとビールのおつまみに最高なのではないだろうか。

白くプリプリとした食感

それにしても僕の友人は、何をもってこのマンボウ料理に、それほどの気味悪さを感じたのだろうか。

確かに、魚とは思えないようなしっかりした肉質で、噛みしめると口の中でキュッキュッ、コリコリという音が鳴る。
この独特の食感が美味さを引き立てていると思えたが、彼には嫌だったのだろうか。
それとも、水族館の水槽でのんびり泳ぐ、あのマンボウの愛嬌がある姿が頭に浮かび、「そんな子を食べていいのか」という背徳感にやられてしまったのか。

いずれにしても、彼よりずっと鈍感な僕にとっては、珍しくて美味しいご当地料理にしか思えなかった。
もしも紀伊長島に行ったら、ぜひ食べてみることをおすすめする。

ちなみに、漁獲量が少ないため日本では一般に流通せず、食用とされることが少ないマンボウだが、ここ三重県の紀北町紀伊長島地区では、昔から郷土料理として親しまれているという。
元来、マンボウは身も肝も大変美味な魚なのだが、日持ちしにくく、鮮度が落ちると独特の臭みが生じるため、少量ながら水揚げのある地域では、ほぼ現地のみで消費するのだそうだ。

太平洋戦争中、祖父がフィリピン・ルソン島で
食べた肉鍋のこと

話はまた、昨年末の居酒屋に戻る。

「マンボウは人の肉に似ている」と断言した友人は、皆からその根拠を尋ねられ、「直感的というか、生理的にというか、別に根拠はないんだけど……」とゴニョゴニョ言っていた。
そりゃそうだ。
人肉の味と比較できるわけはないんだから。

人肉を食べたことがある人なんて……。
あ……。

僕はあることを思い出し、別の話題に移りかけていた友人たちに「そういえばさ……」と、昔、自分の祖父から聞いた話をはじめた。

それは、太平洋戦争中のこと。
祖父の出征地であるフィリピンのルソン島では、熾烈な戦いが繰り広げられ、食料が枯渇し、兵士たちは常に飢餓状態にあったという。

ある日のこと、駐留地近くに、このご時世にもかかわらず肉料理を出す店があるという噂を聞きつけた祖父は、夜間に数人の仲間と連れ立ってその店を訪れたそうだ。

注文すると確かに、たっぷりと肉が入った鍋が供された。
だが、現地人である店の主人とは言葉が通じず、何料理なのかはわからない。

肉はこれまでに食べたことがない不思議な食感だったが、普通にうまかったという。
もしかしたら犬とか猫とか猿の肉かもしれないけど、まあそれも一興と、飢えた祖父たちは深く考えもせず、鍋の肉を腹一杯になるまで食べて帰った。

その後の展開は、ご想像の通り。
数日が経過したある日、祖父が過ごしていた宿営に、料理屋の主人が検挙されたというニュースが伝わってきた。
人肉を捌いて店に出していたことが発覚したのだ。

明治生まれの理系人間である祖父は飄々とした人で、後世に戦争の悲惨さを伝えるというようなヘヴィなノリではなく、とっておきの“滑らない話”をするように嬉々としてその話を聞かせてくれたのだが、僕は後から反芻し、その情景を頭に思い浮かべては震えたものだ。

太平洋戦争末期の南方戦線の決戦地となった、ルソン島を含むフィリピンでの戦いが凄惨を極めたことはよく知られている。
大岡昇平の『野火』のように、極度の飢餓状態に陥ったフィリピン各所で、カニバリズムが横行したことを伝える記録や物語も多い。


大岡昇平著『野火』

成長してそれらの情報に触れるにつけ、僕の頭には祖父の話が蘇った。
そして今回の友人の話からも、そのことを思い出したのだった。

だが重ねて申し上げておくと、マンボウ串焼きは非常に美味しい食べ物である。
僕の友人の与太話や祖父の経験談を、決して思い出さないようにしていただきたい。


そんな祖父と幼き頃の筆者

僕自身はいつかまた、紀伊長島を訪ねてマンボウを食べたいと思っている。

写真・文/佐藤誠二朗

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