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なぜ明石市では「子育て政策を充実」させたら「建設ラッシュ」が起きたのか? 泉房穂市長が「明石でできることは全国でもできる」と断言する理由

集英社オンライン / 2023年2月22日 8時1分

市議会議員への暴言を理由に、今春、任期満了での政治家引退を表明している兵庫県明石市の泉房穂市長(59)。強いリーダーシップで子育て支援策を実行するなど市民から支持を集め、先進例として全国的にも注目されてきた。「明石のモデルを全国に広げたい」と話す泉市長は今後、地域政党の立ち上げを表明しているが、次の一手とは? YouTuberたかまつななが聞いた。

市長就任後、子育て政策の予算を2倍に

泉房穂。2011年より明石市長に。「5つの無料化」に代表される子ども施策のほか、高齢者、障害者福祉などに力を入れて取り組み、市の人口、出生数、税収、基金、地域経済などの好循環を実現。人口は10年連続増を達成

――最初にうかがいますが、なぜ、暴言を吐かれたんですか。



ストレートですね(笑)。私は12年の任期中、私利私欲、党利党略、議員の面子で市民をないがしろにしてきた市議会の姿勢に強い怒りを感じていました。その怒りがついに爆発したというのが一番近いと思いますね。ただ、暴言は許されるものではない。だからこそ、責任を取ってと辞意を表明したんです。

――市長辞任後に地域政党を立ち上げるという報道があります。

多くの市民が今の明石市の政策の継続を願っています。だから、私がいなくなっても今の明石市の政策がちゃんと続くように、次の市長と議会の過半数を市民の民意に近い人にしたいと考えているんです。

――明石市の政策を全国に広げることも考えている?

明石市ができたことは他の自治体でもできる、と言ってきましたから。たとえば、養育費の立て替えなど、明石市の条例で実現したことを国に働きかけて法律にしてもらったり、他の自治体関係者にアドバイスするなどして、明石市の政策を全国に広めたいですね。


ーー明石市といえば「5つの無料化」が有名です。

簡単に言えば、

①18歳まで医療費無料。薬代も市外の病院でも無料。
②保育料は2人目以降、兄弟の年齢に関係なく全員無料。
③おむつ(またはミルク)は1歳になるまで家に届ける。
④中学校の給食費は無料。
⑤公共施設の遊び場は親子とも無料。

の5つです。これにかかるお金は年間33億円ほど。明石市の子どものための予算は私が市長になる前までは126億円でしたが、それを2倍の258億円にまで増やしました。

ーー倍増はすごい。

全然、すごくないです。グローバルスタンダードに合わせただけのことです。40年前、大学で教育哲学を学んだ時、日本の子ども関連予算が欧州各国の半分ほどと知り、愕然としました。しかも、今もそうなんです。だからこそ、せめて他の国並みにしたいと予算を倍増させたにすぎません。

――実際に明石市では転入増などの成果が出ています。

転入してくるのは30歳前後の人と小学入学の前の子どもたちが中心で、人口増は10年連続となりました。これは兵庫県下41自治体で明石市だけです。また、全国に60以上ある中核市の中でもナンバーワンです。

「市長、アーケードちゃうわ。これからは子育てや」

――なぜ、明石は子ども向けの政策を重点的にできたのでしょう?

弁護士として、社会福祉士として子どもの貧困や虐待を防ぎたいという思いが常々ありました。それで市長になった時、子どもを大切にする政策を重点的にやりたいと考えたんです。

もうひとつは私が経営者の視点を持てたことが大きい。政策には財源が必要で、市長は経済を回して財源を作る経営者の視点が必要となります。その経済の回し方も2種類あって、商売人や企業を応援して経済を回す方法と、市民を支援してお金を使えるようにする方法がある。私は後者を選びました。

子育て世代は養育費で大変です。ここを支援すれば、可処分所得が増えて地域経済が活性化して税収&財源が生まれる。実際、明石市はこの8年間で税収が32億円もアップしました。この好循環が明石市の子育て政策の充実につながったと自負しています。

――政治は投票率の高い高齢者を優遇するシルバー民主主義に傾きがちで、子ども向けの政策は後回しになりがちです。

たしかに私も当初は総スカンでした。市長に就任してすぐに公共事業予算を減らして子ども政策にお金を投じると、議会や業界団体から反発されたものです。でも、市長になって6年目ぐらいから、結果が見え始めたんです。

何が起こったかというと、人口増と建築ラッシュです。市の人口が増えてお金が落ち出したので、反発していた商店街や建設業界の対応が変わった。たとえば、商店主の多くが「何で泉はアーケードを作ってくれない!」と私に不満タラタラでした。それに対して私は「アーケードでは客は来ない。それより子育て層を支援したら、商店街にお金が落ちるようになります」と説得していたんです。

6年目から本当にお金が落ちだすと、商店街の店主たちが一転、「市長、アーケードちゃうわ。これからは子育てや」と言い出すようになって(笑)。公共事業を減らされて怒っていた建設業界も市の人口増で建築ラッシュが始まると、「民間需要が忙しくてありがたい」と喜んでくれるようになった。子ども向け政策を重視すると選挙で不利になるというのは思い込みでしょう。

――公共事業の予算を削って、長期的に大丈夫なんですか。

土木費などは緊急性がないものも多く、工夫次第で減らせます。たとえば、市営住宅建設は私が市長になってから全面的に中止しました。その代わり、少ないコストですむ空き家対策や民間のアパート建設を支援する施策を拡充しました。

また、600億円かかるとされた下水道整備計画も、よくよくヒアリングすると100年に1回のゲリラ豪雨時に10軒の民家の床上浸水を防ぐために捻り出された計画だとわかった。10軒のために600億円もかけて市内の下水管をすべて太い新品に替える必要はない。

危険な地区だけを予算150億円で下水管を更新する計画に変更し、450億円を浮かせました。それで公共インフラは充分に機能します。

「市の人口を増やしたいと思ったことはない」

――明石市は転入増で成功していますが、日本全体では自治体が人口の奪い合いをしているだけで、出生率があがったわけではないという批判があります。

いくら明石市が努力したところで、日本の出生率は1.3ですから人口が増えることはありません。出生率が1.6と高めの明石市もいずれは平準化され、人口減となることでしょう。だから、私は市の人口を増やしたいと思ったことはないし、人口をよそから取りたいと思ったこともありません。

ただ、明石市民をハッピーにしたい。たとえば、2人目、3人目の子どもがほしいけど、収入面で不安だという市民がいるなら、市が支援することで安心して産めるようにしてあげたい。それだけです。

――子育て政策で難しいのは、子どもたちが進学や就職で街を出て行って戻ってこないことだと思いますが、明石市ではどうですか?

明石市でも高卒後の18~25歳人口の転出が激増しています。小さな自治体にとって大切なのはその後です。明石で育った子どもが結婚して子どもを作った時に、「故郷の明石は保育料も医療費も完全無料だ」と戻ってきてくれるかどうか。幸い、明石市は30歳前後の人たちが3~4人の家族となって戻ってきてくれているので人口増になっている。事実、昨年の「戻りたい街ランキング」でも明石市は日本一でした。

――教育や子育てにお金を回すためにはどうしたらいいですか。

簡単です。政治家が決断したら、一瞬でできます。防衛費は倍増できるのに、子ども予算をやらないのは、政治家が「そのテーマは儲からない」と利権の構図で考えているとしか思えません。

――海外の主権者教育を視察した際、ヨーロッパの子どもたちが学校給食の改善を求める署名活動をしたり、LGBTQ+のトイレがほしいと交渉したりする姿に驚きました。小学生が社会をどんどん変えていっているんです。日本では、大人が子どもに権限を渡しませんし、子どもも社会を変えられるとは思っていない。どうすればいいと思いますか?

若い人がどんどん立候補することです。今は残念ながら25歳にならないと立候補できませんけど、20歳、18歳で立候補してもいいと私は思っています。それが無理なら、近くにいる人を応援すればいい。そうすることで、投票を通じて自分たちが社会を変えたと実感することが大切です。

手前味噌になりますが、多くの明石市民が私のことを「私の市長」と言ってくれる。これは多くの有権者が「投票によって自分たちが明石を変えた」と思えているからでしょう。

明石駅にホームドアがついた理由

――社会をよりよく変えていくための、議員のトリセツ(取扱い説明)を教えてください。

お勧めは議員に議会で質問してもらうことです。変えたいことを「議会の質問項目に入れてください」とお願いするんです。次にその議員さんに変えたい内容を条例にしましょうと議会で提案してもらい、行政に働きかけてゆく。選挙の時に公約に入れてもらうことも有用でしょう。地域でシンポジウムを開いてもいいですね。

そうして条例ができれば、社会を変えられます。私が市民といっしょにライフワークとして取り組んでいる犯罪被害者条例も同じやり方で、いまでは41自治体が条例を作るまでになりました。

もうひとつは「請願」です。A4の紙1枚に請願を書いて議会に出す。例えば明石では障がい者の方が駅のホームから落ちて亡くなるという悲しい事故を受け、視覚障がい者の方々が駅にホームドアをつけてほしいと市長室に訪ねてきたことがありました。

そのとき私は「請願なさったらどうですか。例えば身近な明石市議会に」とアドバイスしました。それで請願を出されたところ、明石の市議会もこの問題を真剣に考え出して、請願が可決されたんです。

請願の内容は「明石駅にホームドアをつけるように国に働きかけてください」というものだったので、では議会と一緒に国へ行こうとなって、私と議長と商工会議所の会頭と障がい者団体とで一緒に国土交通省やJR西日本の本社に請願を持って行ったんですよ。

そうしたらホームドアがつくことになりました。請願がなかったら、明石駅のホームドアはたぶん今もついていないと思います。やっぱり議員さんも市民の声は大事にしますから。請願というのは非常にわかりやすい声なんですよね。

――市長は今後、これからどんな社会を作っていきたいですか?

私は貧しい家庭に生まれ育ちました。障がいのある弟の処遇をめぐって理不尽な思いをしたこともありました。だからこそ、冷たい仕打ちをする社会を少しでもやさしい社会にしたいという一心で政治家になったんです。その思いは今も変わっていません。市長辞任後も社会の一員として、明石市をよくする役割を果たしたいですね。

泉房穂市長×たかまつなな 対談動画はこちら

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