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精子にも“値上げラッシュ”の波が! 世界最大の精子バンク「日本上陸」丸3年のリアル

集英社オンライン / 2022年5月11日 18時1分

値上げラッシュの波は精子にまで及んでいた!デンマークに本社を構える世界最大の精子バンク「クリオス・インターナショナル」が日本進出を果たしてから丸3年。同社の日本事業の責任者を直撃すると〝精子提供〟を巡る、驚くべき実態が見えてきた!

購入者の半数以上がシングル女性

夫以外の第三者の精子を使い、妊娠へと導く治療を「非配偶者間人工授精(AID)」という。おもに100人に1人の割合で発症するという無精子症の夫を持つ夫婦、レズビアンのカップル、シングルの女性がその対象で、ドナー(提供者)から預かった精子を凍結保存し、AIDを望む人たちに提供する機関を精子バンクと呼ぶ。

日本では、これまでAID治療を行っていた慶應義塾大学病院が2018年8月、「ドナー不足」を理由に患者の新規受け入れを中止。同院は国内のAID治療の半数超を担い、ドナーの募集から精液の採取、保存、治療までを行う一大拠点だったが、その受け皿が失われた形だ。



これにより、第三者の精子を求める人たちの一部は、ネットやSNS上で勝手に「精子バンク」と名乗り、ボランティアと称して私的に精子を提供する“アングラな人たち”にすがらざるを得なくなった。

それは、ネットカフェなどで採取したての精液を受け渡したり、ホテルで待ち合わせて性交渉をしたりと、衛生的にも倫理的にも危ういやり取りだった。

そんな問題が取りざたされていた19年2月、デンマークに本社を構える世界最大の精子バンクの運営企業、「クリオス・インターナショナル」が日本人専用の窓口を設置した。

同社の精子バンク「クリオス」には欧米人を中心に約1000人のドナーが登録(22年3月時点)し、世界100カ国以上に精子を供給している。

クリオスを利用する際の大まかな流れは、公式サイトに掲載されているドナーの国籍、身長、血液型、目や髪の色、運動精子の数、赤ちゃんの頃の写真、本人の肉声などを参考に、購入希望者が条件や好みに合うドナーを選択。

規定の料金を払うと、血液(遺伝子)検査、精液検査を経て“品質”が保証された凍結精子が窒素タンクに入れて届き、医療機関でAIDを受けるというものだ。

では日本進出から3年、クリオスはAIDを望む人たちの救いの場となっているのだろうか。 同社の日本事業担当ディレクターを務める伊藤ひろみ氏が現状をこう説明する。

「国内に購入窓口ができる前からクリオスで精子を購入し、空輸することは可能でしたが、購入件数は年に数件でした。それが、窓口を開設すると問い合わせが殺到するようになり、購入者も20年秋に累計で150人、翌21年春に200人、今年に入り400人と右肩上がりに増えている状況です」(伊藤氏、以下同)

日本国内でクリオスの精子を購入しているのは、「30~40代がメイン」とのことだが、その一方で伊藤さんが「予想外だった」というのが以下の点だ。

「日本窓口を開設する前は、おもに夫が無精子症のご夫婦の利用を想定していましたが、ふたを開けてみれば、購入者の半数超はシングルの女性でした(※残り3割は夫が無精子症の夫婦、2割弱が同性カップル)。

その中には理想のパートナーとの出会いに恵まれず、シングルマザーになると決めた女性も多く、シングルの姉妹で揃って精子を購入したというケースもありました。“一人で子どもを育てよう”と考える、いわゆる選択的シングルマザーを志望する女性がこんなにも多いというのは正直、驚きでした」

値段は0.5mlで約1~16万円

ちなみに、現時点ではクリオスに「日本人ドナーは1人もいない」のだという。これは精子バンクに関する日本の法整備の遅れがその背景にある。

現在、日本に精子の売買を禁じる法律はないが、日本産科婦人科学会が営利目的での精子提供の斡旋を禁じている。つまり、クリオスのような民間企業の精子を扱うことには、AIDを担う医療機関側が抵抗感を持っているのだ。

「法制化の見通しが不透明ななか、日本で本格的な事業を展開するのはリスクがあるので、現在はあくまで、PR活動やロビー活動を本社の一員として行っている状況」(伊藤氏)なのだという。

そのため国内でクリオスの精子を購入する場合、外国人ドナーしか選択肢ないのが実情なのだが、では日本ではどのような精子が好まれる傾向にあるのだろうか?

「韓国、台湾、中国など、東アジアのドナーを希望する方が一番多く、続いて、白人のドナーのなかで黒もしくは茶色の髪や瞳を持つ方が人気です。これは、少しでも自分(日本人)に似た子どもが生まれるようにしたいと考える方が多いからでしょう。

そして、大部分の方がお子さんの出自を知る権利(AIDで生まれた子どもが、遺伝上の父親=精子提供者の情報を知る権利)を保障できる身元開示ドナーを選択しています」

クリオスの公式サイトには、ドナーごとに国籍、人種、身長、赤ちゃんの頃の写真などが掲載されており、精子の購入希望者が条件に合うドナーをサイト上で選べる仕組みになっている

クリオスの精子の価格はドナーによって異なり、0.5mlで72ユーロ(約9720円)~1212ユーロ(16万3620円)。伊藤さんによると、カテーテルで直接子宮に精子を注入する人工授精の妊娠率の目安は「22%程度」だが、運動精子の数が多い精液ほど高い妊娠率を期待できるため、値段は上がるのだという。

購入した精子は、クリオスの拠点があるデンマークや米国から空輸されるため、精子本体とは別に7万円前後の送料も追加で掛かる。

原油高&コロナ禍で精子も値上げ

ただし、最近は精子にも値上げの波が押し寄せてきた。クリオス社は「値上げ額は非公表」とするが、伊藤氏によれば「過去3年間で数回、精子の価格を引き上げている」という。その理由の一つが、原油高に伴って精子ストロー(精子用の凍結保存容器)などの原材料費が高騰していること。もう一つはコロナの影響だった。

「コロナ禍で世界的に(精子の)注文量がかなり増えました。それは、会食やイベントなどが制限されるなか、出会いの場がなくなったり、家族の大切さを知ったりして、シングルの女性を中心に『子どもを持ちたい』という意識が高まった影響があると考えられます」

「一方、精子の供給を増やすには、ドナーの方にデンマークや米国などにある弊社の拠点へ来て頂き、定期的に精液を採取する必要があるのですが、コロナの影響でその機会も減りました」

つまり、増加する注文に精子の供給が追い付かなくなってきた、と。これは欧米の他の主要な精子バンクも同じ状況で、いま、世界的に「精子の取り合いが激しくなっている」のだという。

「弊社の場合、精子を提供してくれたドナーの方にはその補償として、交通費などの実費や休業補償相当の金額を支払っています。ただ、この補償額には英国の場合で35ポンド(5600円程度)などと各国で上限が定められており、これを増額するわけにはいきません」

「そこで、ひとりでも多くのドナーを確保するため、登録済みのドナーの方が新しくドナーとなる方を紹介してくれた場合に2名分の映画チケットを配布したり、精子提供に来て頂いた方にスナックやドリンクを無料で提供したりしています。また、(ドナーが精子を採取する)採精室をリノベーションするとともに、最新のVRを導入しました」

そのVR映像の一部がクリオスのYouTubeチャンネルで紹介されているが、そこにはランジェリー姿で迫ってくるブロンドヘアの妖艶な女性が。没入感のあるVR映像を取り入れることで、「より精子を提供しやすい環境を整えた」というわけだが……。

ともあれコロナ禍で値上げが相次ぐなかでも、国内ではクリオスの精子を購入する人が増え続けている。“第三者の精子”にすがらざるを得ない人たちにとって、その存在が救いになっているのは確かといえそうだ。

写真/shutterstock

著者 興山英雄

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