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映画館は人生に奇跡をもたらす魔法の場所。世界の名匠が描いてきた、映画と映画館愛に満ちた傑作5選

集英社オンライン / 2023年2月24日 15時1分

サム・メンデス監督の最新作『エンパイア・オブ・ライト』は、映画と映画館愛に満ちた珠玉のヒューマンドラマ。本年度の賞レースでも高い評価を得ている本作のように、映画館を舞台にした作品には傑作が多い。見れば映画館に足を運びたくなる、選りすぐりの5本を紹介する。

映画館でしか味わえない“何か”がある

人は何のために映画館へ行くのか? あるいは、われわれにはなぜ映画館という場所が必要なのか? 映像を見るだけなら、タブレットでもスマホでもいいわけだし、それらは場所を選ばずに見られ、オンデマンドなどの配信ならば時間だって自分の都合に合わせられる。

映画館へ行って映画を見るには、映画館側の組んだ上映スケジュールに自分の予定を合わせなくてはならないし、大抵の人はわざわざ交通費をかけて映画館まで行くはずだ。



それは、映画館でしか味わうことのできない“何か”があるからに違いない。今回は、名作から話題の新作まで、映画館という場所に熱い想いを抱く人たちが、映画館を舞台として描いた素敵な作品の数々をご紹介しよう。

映画と映画館がヒロインの人生を救う

『エンパイア・オブ・ライト』(2022)Empire of Light 上映時間:1時間55分 イギリス・アメリカ

©2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

©2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

映画館という“場”、そしてそこでスクリーン上に映される“作品”が、いかに希望や生きがいといったプラスの感情を与え得るのか――。『007』シリーズなどで知られる英国のサム・メンデス監督による最新の注目作品をご紹介しよう。

物語の舞台は1980年代初頭の英国の静かな海辺の町。主人公は映画館=エンパイア劇場でマネージャーとして働く中年女性ヒラリー(オリヴィア・コールマン)だ。心に深い闇を抱えている彼女が、新たに劇場で雇われた黒人青年スティーヴン(マイケル・ウォード)との出会いによって人生の意味を見つめ直し、再びの深い絶望を経て、光を見出していくまでを描いていく。

エンパイア劇場で名士たちを招いて催されるプレミア上映会の作品は、アカデミー作品賞受賞作品『炎のランナー』(1981)。そして、忙しくて上映される作品など見たこともなかった彼女が、初めてスクリーンで映画を見て希望を見出す作品は、ピーター・セラーズ主演の『チャンス』(1979)。当時を知る世代には懐かしく、映画ファンにはうれしい仕掛けだ。

ただし、本作は“映画によって魂を救済されるヒロイン”を描いた単なる感動の物語というだけではない。戦後に労働力不足を補うために大量に移民として受け入れられた旧植民地の黒人たちと、彼らの存在を“自分たちの仕事を奪う連中”とみなして排斥しようとする、白人層との深刻な対立も描かれている。

1980年代初頭の英国の社会情勢を見事に描いている点でも、力強い骨太の作品。アカデミー賞レースでも注目が集まっており、絶対に見逃してはいけない1本だ。

『エンパイア・オブ・ライト』
全国にて公開中
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
公式サイト:https://www.searchlightpictures.jp

映画館で起こるロマンティックなミラクル

『カイロの紫のバラ』(1985)The Purple Rose of Cairo 上映時間:1時間22分/アメリカ

Everett Collection/アフロ

舞台は1930年代のニュージャージー。失業中の暴力亭主との生活を支えなくてはならないセシリア(ミア・ファロー)が唯一、現実逃避できる場所は映画館。彼女がギル(ジェフ・ダニエルズ)という俳優が主演の『カイロの紫のバラ』を夢中で見ていると、突然、スクリーン上の主人公トムが彼女に話しかけてきて、さらにはスクリーンから現実世界に飛び出してきてしまう。

彼女はトムとロマンチックなひと時を過ごすものの、映画の中では主人公の失踪により、ストーリーが滅茶苦茶になってしまう。事態収拾のために映画の製作陣と主演俳優ギルがその街へやってくるのだが、今度はギルが彼女に惹かれてしまう。

この映画は、舞台上(スクリーン)と観客席とを分ける“第四の壁”と呼ばれる一線を越えて、映画の主人公が飛び出してしまう面白さと、映画で役を演じていた俳優が現れて、どちらもヒロインに恋に落ちるという、不思議な三角関係(ギルとトムはどちらもジェフ・ダニエルズが演じている)の面白さで知られている。

ウディ・アレン監督の最も脂の乗り切っていた頃の作品だが、ベースとなっているコンセプトは、映画館の暗闇は人生に幸せをもたらしてくれる場所に相違ない、という信念だろう。

最終的にセシリアの恋はどちらとの間でも成就しないものの、彼女は次に上映している『トップ・ハット』(1935)のフレッド・アステアとジンジャー・ロジャースの軽やかな踊りに目を輝かせて物語は終わる。

現実世界ではヒロインも、ウディ・アレン監督も問題山積だが(監督は養女への性的虐待疑惑により、#Me Too運動以降、映画界から距離を置かれている)、映画館の暗闇で映画を見ているときだけは幸せな時間に浸れるのだ。

映画館は、まだ見ぬ未知の世界への扉

『ニュー・シネマ・パラダイス』(1988)Nuovo Cinema Paradiso 上映時間:2時間35分/イタリア・フランス

Album/アフロ

新作ドキュメンタリー『モリコーネ 映画が恋した音楽家』(2021)が注目を集めているジュゼッペ・トルナトーレ監督の名作『ニュー・シネマ・パラダイス』(1988)もまた、映画館愛に溢れる作品だった。

アカデミー外国語映画賞を受賞し世界中でヒット。特に日本では、観客席数約200のシネスイッチ銀座での単館ロードショーだったものの、前代未聞の40週間ロングランで27万人を動員。単館で3億6900万円の興行成績を残すという記録を打ち建てた。

物語の舞台は、戦後間もない頃のイタリア・シチリア島の小さな村。映画に魅了されて映写室に入り浸るようになった少年サルヴァトーレと、中年映写技師アルフレードとの友情を描いている。

サルヴァトーレは火事が原因で失明した映写技師の後を継ぐものの、やがて青年となり大都会のローマへと出て行き、映画監督として成功を掴んでいく。その裏には、もっと広い世界へ出て羽ばたいてほしいと願っていた、年老いたアルフレードの想いがあった。

久しぶりに村に戻ったサルヴァトーレが、アルフレードが遺したフィルムを映写機にかけて見るラストシーンは、涙腺が崩壊すること確実。

そのくだりは、映画がフィルムで撮られていて、映写機にかけて見るという昔ながらの鑑賞方法だからこそ可能なシーン。映画館の暗闇に映し出される魔法が、まだ見ぬ未知なる世界への扉となっていること、そして人の魂を揺さぶる力を持つことを、この作品ほど雄弁に物語っている映画はない。

活動弁士が活躍していた時代の映画愛

『カツベン!』(2019) 上映時間:2時間7分/日本

周防正行監督の『カツベン!』(2019)は、もっと昔、まだ映画というものが発明されたばかりの約100年前の物語。映画にはまだ音声が伴っていなかったから、当時の映画館では、活動弁士(=カツベン)と呼ばれる語りのスペシャリストが、舞台袖で画面に併せて状況を説明したり、男女それぞれに声色を変えて台詞を語ったりして人気を博していた。

物語は、幼少時より活動写真(=映画)に魅せられた染谷俊太郎(成田凌)が、ひょんなことから警察に追われる身となり、もぐり込んだ先の映画館で偽活動弁士として働くうちに人気が出て……という具合に進んでいく。

そして、子供の頃に離れ離れになった幼馴染の栗原梅子(黒島結菜)が、女優となった姿で現れて再会を果たしたり、当時の実在の映画監督・二川文太郎(池松壮亮)と出会ったり、映画ファンがニンマリするような展開で楽しませてくれる。

面白いのは、ライバル館の嫌がらせで上映用のフィルムをずたずたに切り刻まれてしまった後、複数の映画のフィルムを繋ぎ合わせて、得意のカツベンの語りで物語を仕立ててしまうシーン。

繋ぎ合わせたのは邦画の『金色夜叉』とか洋画の『椿姫』のように何の共通点もないものだが、イマジネーションさえあれば物語を紡ぎ出すことができるという、まさに映画館という場でしか起こり得ないマジックだった。

大林宣彦監督の映画への尽きぬ想い

『海辺の映画館−キネマの玉手箱』(2020) 上映時間:2時間59分/日本

2020年4月に惜しくも亡くなった大林宣彦監督の遺作『海辺の映画館−キネマの玉手箱』(2020)もまた、映画館への愛に満ち溢れた作品。

尾道3部作を始めとした故郷・尾道への愛、そして映画への愛に満ちた作品を作り続けてきた大林監督が、人生最後の舞台として選んだのは、尾道の映画館だった。

海辺にある架空の映画館で戦争映画を見ていた、戦争を知らない世代の3人の青年たちが、スクリーンの中の世界へとタイムスリップしてしまう。『カイロの紫のバラ』とはちょうど真逆の設定だ。

映画内世界へ迷い込んだ青年たちが、明治維新から第二次世界大戦まで、さまざまな戦争に巻き込まれて犠牲となるヒロインたちを救おうと奮戦するのだが、そのヒロインを過去の大林作品の主演を務めた女優がそれぞれに演じていく。

そして、映画の最後で最も重要な役割を担うことになるのが、現実世界の海辺の映画館でもぎりを務める老婆(白石加代子)。

さまざまな俳優、あるいは映画人らが入れ替わり立ち替わり現れる点で、まさに大林監督の集大成なのだが、傑作なのは、小津安二郎監督と山中貞雄監督を、それぞれ手塚眞監督と犬童一心監督が演じていること(ワンカットだけだから、うっかりしていると見逃してしまう!)。

スクリーンの中の世界と外の世界を行き来するという空想が成立するのは、やはりタブレットやスマホの小さな画面ではなく、映画館の大スクリーンだからこそなのだ、と改めて気づかせてくれる、大林監督から最後の贈り物だった。

文/谷川建司

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