凋落する日本の電機産業は何を間違えたのか? 「日本型雇用」「ダイバーシティ」「エンゲージメント」を改善できなかった理由
集英社オンライン / 2023年2月28日 7時1分
かつて世界一の強さを誇った日本の電機産業は、なぜこんなにも衰退してしまったのか。新刊『日本の電機産業はなぜ凋落したのか 体験的考察から見えた五つの大罪』の著者である桂幹氏は、TDKで記録メディア事業に従事し、業界の最盛期と凋落期を現場で見てきた。そんな桂氏と、小説やビジネス書などで多数の著作を持つ作家の江上剛氏が「日本企業の問題点」について語った。
頭のいい人間は雇うな! ダイバーシティのない弱さ
江上 僕はいつも会社の社長に、「頭のいい人間は雇うな」と言っています。僕がいた銀行にはいわゆる“頭のいい”人はいっぱいいる。だけど、その人たちは役所と同じで、毎年右肩上がりの事業計画を立ててしまう。経済成長率以上に数字を伸ばしたり、右肩上がりの計画を立てるんです。そして役員もこれにOKを出す。「なんでOKを出すんですか」と聞いたら、他の会社のパイを獲れば達成できるから、と言うわけです。
銀行の人事部にいた時に、頭のいい人ばかりを採るのはダメだと思いましたね。入ってくるのが、大学どころか高校も麻布とか開成とか一緒なので、同質な人間しか採用しないことになって発想が同じになってしまうんです。
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桂 それは本当にそうですね。さらに、同じ企業にいると、どうしてもその企業カラーに染まります。終身雇用でずっと同じ企業にいたり、部署も変わらないとなると、DNAがどんどん重なってきてしまう気がします。その弊害は大きいです。
江上 だから雇用の流動化は進めた方がいい。給与などの問題はあるにしても、国としては流動化をできるようにした方がいいですよね。
このあいだ『ザ・パターン・シーカー』という本を読んだんです。自閉症の人が世の中の発明をけん引してきたというアメリカの心理学者の本ですが、エジソンもイーロン・マスクも、みんな自閉症的な傾向があるそうです。
桂 スティーヴ・ジョブスも一般社会では通用しないような人ですよね。そういう尖った人が日本の大企業で活躍できるかというと難しいかもしれない。
江上 昔、富士通でパソコン作った池田さんという研究者の本を読んだことがありますが、この人もそういうタイプの人だった。今模索しているのは、そういう人たちを活かせる多様化の社会でしょ。会社の中では、チームリーダーになったり出世したりするのは、組織人としてバランスの取れた人で、個性的な人はそこからこぼれ落ちていくけれども。
少子化で15歳から65歳までの労働生産人口が減って、将来の日本社会に問題が生じると心配しているわけです。多様性を考えたら、65歳以上でも才能があれば活かせばいいし、中学生でも才能のある人はいっぱいいるわけで、会社がそういう人たちに実験的にいろいろやらせてみるとか、そういうことがあってもいい。でも、困窮している会社や社会にはその余裕がないでしょうね。
桂 そういう社会になってほしいですけどね。いろんな人が自分の持ち味を十分に発揮できる社会にね。
変化を起こしたければ、若い人の感性に任せるべき
桂 インターネットが世の中に広まった当時、その技術についてはみんな関心があったし、自社の製品では何ができるかは当然考えていました。しかし、もう少し俯瞰してみて、自分の会社のことだけではなく、インターネットで社会はどう変わるのか、我々には何ができるんだろうか、どうやったら世の中を感化できるのか、というディスカッションがあったのかどうか。
あったとしたら、それは本当に適切なメンバーで行われていたのか。新しい技術をどう使うかについては、やっぱり若い人でなければアンテナは働かないと思うんですね。正直、私自身そうでしたし、父やそのまわりの役員たちも、そこはわからなかった。そのあたりが日本企業の弱みだったのではないかと思います。
江上 本当にそう思います。テレビが多チャンネル化した頃の1996年、ロサンゼルスのある会社へ行ったんです。その会社では、撮影所からテープを自転車や車で運んできて、ソニー製のビデオデッキに入れて映像配信していたんですが、それが後のネットフリックスになったのかもしれません。
桂 もともとはレンタルの会社ですものね、ネットフリックスって。
江上 TSUTAYAも、レンタルよりも配信の方がいいんじゃないの?ということで、変わっていった。日本の場合も、そういう発想をして、もっと簡単に便利になると考えた人がいたし、アメリカではDVDレンタルの会社がネットフリックスになった。そこの“間”が日本には欠けていたんだと思う。
桂 私自身も、TDKブランドのカッセットテープという一時代を築いた商品を売っていましたが、その時のブランドとか資産をうまく使えないまま、結局は事業撤退となってしまった。その後悔はすごく大きいですね。ネットフリックスのように業態を変えながら、さらに成長している企業の力強さはすごいと思います。
江上 ソニーもウォークマンを作って、音楽デッキを屋外に持ち出した。
桂 画期的でしたね。
江上 画期的だったけれど、それで止まっちゃった。そこからデジタルの時代が始まった時にアップルに取って代わられる。それ以降、日本企業の姿はない。
桂 ソニーだから音は良くなければいけない、とかに縛られたのかもしれませんね。アップルだったら、音が多少ダメでも便利な方がいいから出そうという判断をして市場に投入する。
これ私の想像ですが。ソニーでも「もっと手軽に音楽を楽しめた方がいい」と思っていた人もいたと思います。やっぱり若い人や女性など、いろいろな人が自由にモノを言える環境を作らないと、ズルズル同じことの繰り返しで、最終的には退場になってしまうんじゃないかという気がしますね。
江上 その変化の発想がのびやかにならないですよね。単にDXとかの標語ばかりで、標語の枠内でモノゴトを考えてしまう。自動車がガソリンからEVに変わりつつあるけれども、その枠内で何をすべきかと考えるのではなく、枠外で考えてみる。逆にガソリン自動車を徹底的に追求する企業があってもいいと思う。
韓国へ行った時、韓流ドラマが世界を席巻した理由を教えてくれたんです。あるテレビ局の社員が、ドラマをその都度ネットで世界に発信したいと提案したそうです。「そんなことしたら誰もテレビ見てくれないじゃないか」と役員会で議論になったそうですが、それを上手く騙して無料で配信したら、これが大成功した。それ以来、世界を相手にすれば商売になることがわかった。
韓国では、かつてはドラマも音楽もダンスも日本に学んだけれど、それでは日本の市場にしか通用しなかった。
桂 映画も音楽もいまや韓国はすごいですよね。
江上 最近はハリウッドぽいじゃないですか。
桂 韓国の例をみると、上司に理解してもらおうと思わずにやってしまう、上司も自分の成功体験に囚われず若い人に任せてやらせてみるというのが大事な気がします。みんなに理解されようとすると企画が薄まってマイルドになってつまらなくなりますし。
とにかく、この電機産業の失敗は、他の業界・組織でも起こり得る話だと思いますし、自分のこの体験談が何かの役に立つことを願っています。
今日は本当にありがとうございました。
江上 こちらこそ、ありがとうございました。
![](https://assets.shueisha.online/image/-/2023/02/22054013467359/800/dc8db07db1e110cbc368e19da09a789b.jpg)
取材・文/杉本進 撮影/五十嵐和博
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