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〈ロシア侵攻から1年〉防戦一方のウクライナ。反転攻勢のカギを握る戦車「レオパルト2」の供与は間に合うのか?

集英社オンライン / 2023年2月24日 12時9分

ロシアがウクライナに侵攻してから1年が過ぎた。ウクライナは欧米の支援に支えられて何とか持ちこたえているものの、現状は防戦一方で、このまま「敗北」という最悪のシナリオもありうる状況だ。そんな中、ゼレンスキー大統領が「反撃のカギを握る」と期待をかけているのが、西側から供与予定のレオパルト2をはじめとする戦車による反攻である。

ゼレンスキー大統領が「反撃のカギを握る」と期待

ロシアがウクライナに侵攻してから1年が過ぎた。この間の戦況を振り返れば、首都キーウをめぐる攻防戦が繰り広げられた第1期、ロシアが激戦の末にアゾフ海に面するマリウポリを陥落させた第2期、ウクライナが機甲師団を用いてハルキウ、ヘルソンを奪還した第3期、そしてドネツク州のバフムートでロシア、ウクライナ両軍が一進一退の消耗戦を繰り広げる現在の第4期に分けられるだろう。



装備の乏しいウクライナは欧米の支援に支えられて何とか持ちこたえているものの、ロシア軍には人命を顧みない「兵力」と「時間」という優位性がある。

実際、ロシアは東部や南部戦線で構築した防御ラインを足掛かりに、真綿で首をしめつけるような包囲戦を展開し、ウクライナ軍を圧倒しつつある。ここでウクライナが大規模な反転攻勢に出なければ、このまま「敗北」という最悪のシナリオもありうる状況だ。

この危機的局面において、ウクライナのゼレンスキー大統領が「反撃のカギを握る」と期待をかけているのが、西側から供与予定のレオパルト2をはじめとする戦車による反攻である。

戦車専門誌「月刊PANZER(パンツァー)」の戸塚謹編集長が言う。

「現状はこれだけ戦線が長いために、ウクライナ、ロシア両軍ともまとまった数の戦車を投入できておらず、第一次世界大戦のように砲と塹壕を中心とした歩兵戦となっています。そこに戦車の圧倒的な火力が投入されれば、たとえそれが旧式のレオパルト1の105ミリ砲であっても、そのエリアの戦術的バランスを一気に崩すことになるはずです」

過酷な戦車運用

ただ、戦車の乗務員にはその破壊力に見合うだけの操縦や射撃スキルに加え、歩兵とは比べようもないほどの過酷さが要求される。著者は過去にオーストラリア陸軍の砂漠での軍事演習に同行取材し、レオパルト戦車1に1週間ほど乗り込んだことがある。

戦車は敵の航空機から身を守るために昼間はブッシュに潜み、夜間に前進する。もっぱら通信兵用の狭いシートで過ごしたが、狭さに耐えかねてハッチから体を出すと戦車の縦横無尽な走りで揺さぶられ、肋骨あたりに無数の青あざができた。

それで砂塵を防ごうとハッチを閉めると、今度は車体と砲塔が全く別の動きをするために方向感覚を失い、自分が前を向いているのか横を向いているのかわからなくなった。

戦車内は轟音が響き、乗務員は全員ヘッドセットを装着しないといけない。また昼間の車内温度は軽く50度を超えるため、氷嚢が不可欠だ。体を休めるスペースもなく、睡眠は砲塔を横にしてエンジンの上の平坦な車体上で雑魚寝するほかなかった。

ある時、エンジンフィルターに砂塵が入って戦車がオーバーヒートし、砂漠のど真ん中でエンジンをジャッキで吊り上げ、新しいエンジンと交換するということがあった。

「戦車にとってこういうトラブルが一番危ない時なんだ」

戦車長のそんなつぶやきを聞きながら、演習ですらこれほどの過酷な運用を強いられる戦車兵の大変さを思い知ったものだった。

大幅に遅れる西側諸国の戦車供与

話を戻そう。フランス駐在のウクライナ大使によれば、西側諸国からウクライナに供与される戦車数は321両に達したとされる。

ドイツのショルツ首相が1月25日にレオパルト2戦車の供与を表明したのをはじめ、米国からはM1エイブラムス、イギリスからもチャレンジャー2などの戦車が供与される予定だ。これだけ大量の戦車があれば、ウクライナの反転攻勢は充分に可能だろう。

レオパルト2は1977年に採用されたドイツ陸軍の主力戦車。120mm滑腔砲や複合装甲、1500馬力のエンジンなどの先進的装備で各国の第三世代戦車の先駆けとなり、現在でも世界最強クラスの戦車として君臨している

だが、ここに来てその供与計画が完全にスタックしている。各国の戦車供与表明は単なる政治的なゴーサインにすぎず、実際にはわずかな台数の戦車しか春までにウクライナ軍に届きそうにないのだ。

前出の戸塚編集長が続ける。

「ドイツは新旧のレオパルトを200 両、ポーランドも74両の供与を約束していますが、実際にウクライナに到着予定の戦車はドイツ14両、ノルウェー8両、スペイン6両、カナダ4両、ポルトガル3両、フィンランド3両の計52両にすぎません。これでは1個戦車大隊(40両)を編成するのがやっとで、作戦に投入するには力不足で危険です」

なぜ、すみやかに戦車がウクライナに供与されないのか?

ひとつは各国の保有戦車数(武器庫在庫含む)と実際にすぐにでも運用できる戦車数に大きな隔たりがあったためだ。たとえば、スペインは武器庫に保管している戦車を実戦で使うためには基本的に2カ月以上の整備期間が必要として、最初の1両がいつウクライナに届くか明言していない。

2カ月という整備期間を示したスペインはまだましで、旧式のレオパルト1を合わせて178両保有するドイツ、オランダ、デンマークにいたっては部品交換や整備などのオーバーホールにどれだけ時間がかかるか、いまだに明らかにしていない。

また、230両保有するフィンランドのように供与すると言いながら、たったの3両と実際にはのらりくらりと先延ばしするような国も少なくない。

ゼレンスキー大統領は2014年に略奪されたクリミア半島の解放をめざすとぶち上げている。しかし、黒海艦隊の拠点を失いたくないプーチン大統領は同半島を死守するだろう。それどころか、1月21日の演説を聞くかぎり、ウクライナ全土の占領をまったく諦めた様子はない。

その一方で、米国をはじめ、ドイツ、フランスなどのNATO諸国は戦争の長期化を嫌い、ロシアが本格侵攻する以前のウクライナ領土が回復できればそれで十分と内心考えているフシがある。

泥濘期が過ぎれば、ロシアのさらなる大攻勢が懸念される。レオパルト2など、NATO諸国の戦車供与があと3カ月早く実現していればロシア軍の攻勢の矛先も鈍り、今のようにウクライナが防戦一方になっていなかったと思うと残念でならない。

取材・文/世良光弘 写真/AFLO shutterstock

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