1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

2代目はつらいよ! 全国から2代目社長が集う「お坊ちゃん社長の会」から探る後継者のビジョン経営とは

集英社オンライン / 2023年2月28日 9時1分

「あいつはボンボンでいいよなあ」と言われるお坊ちゃん時代を経て、いざ親から会社を自分が継いだときに悲劇が起こりがちなのをご存じだろうか。2代目お坊ちゃん社長ならではの苦労や奮闘ぶりを聞いた。

日本全国から集う「2代目特有の悩み」を
抱えた経営者たち

Zoomの分割画面に数十人の顔が並ぶ。40代、50代の男性が中心だが、若い男性や女性も混ざっている。居住地はバラバラだ。一見すると、ごく普通のオンラインセミナーに見えるが、実はこの画面に映る参加者の全員が、実家の家業を継いだ「2代目社長」なのだ。

一般社団法人2代目お坊ちゃん社長の会(以下、お坊ちゃん社長の会)は、主に日本全国の2代目社長が集うコミュニティである。毎月の定例会などを通じて自社の新たな経営ビジョンを練り上げ、初代社長が打ち立てた経営理念を自分なりの言葉で再解釈する「2代目ビジョン経営」の実践を目的としている。設立は2020年、定例会の開催は すでに30回以上を数えている。



「多くの場合、初代社長はカリスマ経営で、経営理念の意味も自分だけで理解していることが多い。自分の親が作った経営理念を読み解くのは、実はとても困難なことなんです」(田澤氏。以下略)

と話すのは、お坊ちゃん社長の会代表理事の田澤孝雄氏。自身も父の事業を継いだ2代目社長だ。お坊ちゃん社長の会が提案する2代目ビジョン経営は、昨今普及した「パーパス経営」の一種といえ、そこほど珍しいものではない。しかし、2代目社長のビジョン経営には、独特の難しさがあるという。

お坊ちゃん社長の会 代表理事の田澤孝雄氏

「2代目社長が事業を継ぐときは、初代社長が何を考えているのか、何に苦労してきたのか、この会社の価値は何かと自分に問いただし、自分なりに解釈しなければいけないのですが、これがとても難しい。そもそも自分の親の内面に踏み込みたい人は、あまり多くないのではないでしょう。特に2代目社長には『経営者である父親が絶対的な存在だった』という家庭で育った人も多いから尚更です。

だから本当は、経営理念やビジョンになんか向き合いたくないんですよ。しかしそうすると、周囲からは『2代目は自分の考えがない』『2代目は弱っちい』と後ろ指をさされてしまう。2代目社長は、そういうジレンマを抱えやすいんです」

親の代から存続しているのだから、自社に何らかの価値があるのは間違いない。しかしその価値を理解するためには、実の親の心の奥底に迫らなければいけない。一般的な親子関係でも、それはなかなか難しいことだろう。

だからこそ田澤氏は、お坊ちゃん社長の会の活動に意義があると話す。全国から似た境遇の仲間が集い、それぞれの親子関係や経営の悩みを共有しながら、継承すべき価値や自分なりのビジョンを見出していく。

「私たちの気持ちがわからない経営コンサルタントに何かを指図されても、嫌な気持ちになるだけですから。みんな『2代目』という同じ立場だからこそ、意地を張らずに、親の心や自分のコンプレックスに向き合えるのだと思います」

「どん底の精神状態」から生まれた2代目ビジョン経営

お坊ちゃん社長の会の設立には、田澤氏自身の経験が深く関わっている。田澤氏は1975年生まれ。東京で不動産業を中心に複数事業を展開する家の次男として生まれた。家業に入ったのは29歳。一時は父への反発心から家を出て、大手電機メーカーで社内弁理士として勤務していたが、30歳を目前に家業を継ぐと決めた。

しかし、その後は苦悩の日々が続いた。「自分は何のために生きているんだろうとか、そんなことばかり考えていました」と田澤氏はつらい心境を振り返る。つまずいたきっかけは、父から命じられた配属先だった。中核事業の不動産会社ではなく、グループ会社のガソリンスタンドへの入社を指示されたのだ。

「ガソリンスタンドは従業員数が多かったので、後継ぎとしての足腰を鍛えたかったんでしょう。今なら父親の気持ちを理解できますが、ついこの間まで士業として勤務していたので、いきなり『ガソリンスタンドで働け』と言われたとき、頭と体がついてきませんでした。

当時は人間的にも未熟でしたし、プライドも高かった。だから、周囲にはずっと近寄り難い雰囲気を出していたのですが、内心では苦しくてしかたなかったです。毎日手足を縛られて、地べたに転がされているような感覚でした」

慣れない肉体労働、周囲からの好奇の眼差し、2代目としてのプレッシャー。心身は日に日にすり減っていく。わらにもすがる思いで経営者の自伝や自己啓発本を読み漁ったが、救いの言葉は見当たらない。

そして入社から7年目、M&Aでグループ傘下に収めた自動車修理工場の経営を担ってからは、資金繰りの苦しさも加わって精神状態はどん底に達した。毎月25日が近づくたびに原因不明の吐き気や腹痛が襲ってきた。しかし、絶望の淵で田澤氏はある意識の変化を迎えたという。

「一言でいえば、開き直れたんだと思います。自分の人生は自分で責任を持つしかないと腹の底から理解した。いたって単純な話なんですが、苦しい思いをするうちに、父親に強制されて家業を継いだ気になっていたんです。でも、立ち止まって振り返ると、家業に入ったのは自分の意思だったよね、と。それならば、自分の道は自分で作らなければいけないと、初めてわかったんです」

その後、田澤氏は複数の新規事業に取り組むとともに、自社の新たなビジョン策定に着手した。父から受け継ぐべきものは何か、自分は何がしたいのか、自社が社会に提供できる価値は何か。これまで目を伏せてきたことに正面から向き合い、今後の指針となる言葉を模索した。

その末に生まれたのが「メンテナンスで”ときめき”を」というビジョン。ガソリンスタンドや自動車修理工場などでの「メンテナンス」を通じて、社会に「ときめき」を与えるのが、自社の役割だと思い至ったという。

この一連の取り組みがお坊ちゃん社長の活動の原型になった。2代目社長はどうすれば初代社長の意思を引き継ぎつつ、自分なりの経営スタイルを確立できるのか。「2代目ビジョン経営」は、10年以上の長い苦悩を経て、絶望の末に田澤氏がたどり着いた一つ結論だった。

2代目社長は「うっかり継ぐ」でもかまわない

お坊ちゃん社長の会では、2代目社長の事業継承のプロセスとして「継・守・破・離」を提唱している。

「守・破・離」は芸道や武道の分野で古くから伝わる言葉だ。ある技術に熟達するためには、まず師匠の教えを守り、その後に教えられた型を破り、最後に型から離れて技術を自らのものにするという。お坊ちゃん社長の会では、その頭に「継」を付け加えている。

「2代目社長も武道などに似ていて、初代社長という師匠がいて、その教えを守・破・離のプロセスを経て自分のものにしていきます。ひとつ違うのが、2代目社長は『うっかり継いでしまう』ことです。事前に家業の経営や財務を調べ尽くせば、さまざまなリスクが浮き彫りになって、とても事業を継ぐ気にはなれません。

だからこそ、2代目社長は『うっかり継ぐ』でかまわないと思います。ぼんやりとした意思で家業を継いで、それから自分にとっての『守・破・離』を少しずつ突き詰めていけばいいんです」

「継・守・破・離」のプロセスを経た会員からは、業績向上や新規事業への投資を決断できた経営者も出ているという。お坊ちゃん社長の会や2代目ビジョン経営のコンサルティングは、田澤氏にとって今やライフワークだ。

「経営って嫌なことが8割以上ですからね。楽しいことなんてなかなかない。だから、お坊ちゃん社長の会で自分と似た経験をした人の支えになれるのは、やりがいがありますよね。生きる動機にもなっています」


取材・文/島袋龍太

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください