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〈監督の母への取材も〉ビル・ゲイツに尊敬された父と、自由な芸術家の母…映画『フェイブルマンズ』で描かれるスピルバーグ監督を育てた偉大な両親のこと

集英社オンライン / 2023年3月4日 15時1分

自伝的作品『フェイブルマンズ』(3月3日公開)が話題のスティーヴン・スピルバーグ監督。劇中で描かれる映画への愛、そして彼に大きな影響を与えた両親のエピソードについて、実際に監督の母親に取材したことがある、ロサンゼルス在住の映画ライター中島由紀子さんが証言する。(メイン画像:©️H.F.P.A)

最も個人的なテーマを扱った『フェイブルマンズ』

1月に行われたゴールデン・グローブ賞授賞式で、キャストに囲まれるスピルバーグ(右から4人目)
©️H.F.P.A

1月に発表されたゴールデン・グローブ賞で、作品賞と監督賞を受賞。アカデミー賞でも両部門の有力候補として注目されている『フェイブルマンズ』(2022)。



『ジョーズ』(1975)『E.T.』(1982)『インディ・ジョーンズ』(1981、1984、1989、2008)シリーズ、『ジュラシック・パーク』(1993、1997)シリーズ、『シンドラーのリスト』(1993)『プライベート・ライアン』(1998)など、スティーヴン・スピルバーグ監督の大ヒット作品リストは長い。

『続・激突/カージャック』(1974)で商業映画監督デビューをして以来、76歳の現在までに監督した作品の総興行収入は102億ドルを記録。ハリウッドNo.1監督であるスピルバーグ作品の中で、『フェイブルマンズ』は最も低予算、かつ個人的なテーマを扱っている。

『フェイブルマンズ』
© Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.

スピルバーグは『フェイブルマンズ』について、「この映画の最大のチャレンジは、目の前によみがえる自分の過去に、感情的にならずに距離を置くことだった」と語り、「普段は自分のことを話すのが苦手なのに、この映画の撮影中は朝から晩まで自分のことばかり。素晴らしいキャストの演技を見ていて、やっと自分と自分の家族の過去から距離をとれるようになった」と笑っていた。

撮影では、彼が生まれ育った家をサウンドステージ(撮影用防音装置付きスタジオ)に再現。デジタルではなくフィルムを使って丁寧に撮影し、時代背景なども含め、手作り感ある仕上がりになっている。多感でイノセントだった彼の青春時代を投影した役柄、サミー・フェイブルマン(ガブリエル・ラベル)の視点を通し、観客は物語に違和感なく引き込まれ、アメリカの60年代を肌で感じることができる作品だ。

映画のアイデアは本能的なウィスパー

取材時に筆者と共に
©️H.F.P.A

「すべてのクリエーションは、必ずひとつのアイデアからスタートする」と語るスピルバーグ。アイデアのウィスパー(ささやき)は本能によるもので、頭で考えて生み出すものではなかったという。

18歳のときに作ったオリジナルの長編映画『Fireight』(1964)のアイデアも、どこからともなく聞こえたウィスパーが発端だった。

「ストーリーを考えていたある日、アイデアが浮かんだ。タイプをカチカチと打ち出したら、一晩中手が止まらなかった。一睡もしないでまとめたアイデアは、30〜40ページにもなっていた」

製作費捻出には、レモン、オレンジ、グレープフルーツなどの木の根元を白塗りにするアルバイトを、毎週末続けたそう。当時スピルバーグが暮らしていたアリゾナの太陽はことのほか強く、木を太陽から守るために、幹の部分を白く塗って保護するアルバイトがあったのだ。

「1本につき25セント。何本も何本も何本も、木の幹を白塗りにした。それで貯めたお金でフィルムを買ったんだ。出演は妹たちと、近所の遊び仲間、アリゾナ大学の映画科の学生たちが参加してくれた」

ストーリーは、ある町の住人たちがひとり、ふたりと“不気味な”パワーによって消えていくSF。劇中には壁や天井が血で染まるシーンがあり、スピルバーグは圧力鍋の中にチェリージュビリー(さくらんぼのデザート)の缶詰を大量に入れ、爆発させるというスペシャル・エフェクトを考えだした。

両親は不在。彼らが帰ってくる前にすべて終了し、何もなかったように完了するはずだった。ところがチェリーの赤いシミは拭いても拭いても落ちない。大惨事の残骸が片づく前に、両親は帰宅。

「どうなったかは想像に任せるよ キッチンの修理の責任は重かった。映画製作は隠れた費用がかかるものだと学んだよ(笑)」

若い頃から独創的なアイデアと、それを実現する行動力を持っていたスピルバーグ。「モテるタイプじゃなかった」と語るものの、映画を作ることで青春に彩りが生まれていったのも事実。

「フットボールで目立つことなんてできなかったけど、僕が作った8ミリ映画を上映すると注目を浴びた。普段は僕に見向きもしない、学校で最も目立つハンサムなフットボールのキャプテンが、撮影のために、土曜日をまるまる空けてくれたこともある。そんなときに、映画を作ることのパワーを感じずにはいられなかった。映画作りによって得たプラスアルファの体験は、いい励ましになったよ」

『フェイブルマンズ』で語られる魅力的な両親

『フェイブルマンズ』。右からミシェル・ウィリアムズが演じる母、ポール・ダノが演じる父、そしてふたりの離婚の原因となる、セス・ローゲン演じる父の親友ベニー
© Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.

『フェイブルマンズ』に登場するミッチ・フェイブルマン(ミシェル・ウィリアムズ)とバート・フェイブルマン(ポール・ダノ)は、当然、スピルバーグの両親がモデルになっている。頭脳明晰で論理的な電気工学技師だったお父さんと、“ピーターパンシンドロームで大人になりきれなかった(監督談)”ピアニストのお母さんだ。対照的なふたりは、スピルバーグに正反対の影響を与えた。

「父の影響とヘルプがなかったら『A.I.』(2001)はできなかったし、テクノロジーの理解力も欠如していたに違いない。そして一見突拍子もないことをしてるような、母の自由で芸術的なアドバイスと後押しがなかったら、ここまで幅広い題材にチャレンジできたかどうかわからない。映画作りにも私生活にも、大きな影響を与えているんだ」

実は筆者は以前、お母さんのリア・スピルバーグさんに会ったことがある。映画の中にも登場するお父さんの親友で、夫との離婚の原因になった人と共に、Milky Wayというユダヤ系料理を提供するレストランをやっていたころだ。

レストランに関する簡単なインタビューのつもりでお会いしたのに、あまりの楽しさに長居をしてしまったのを覚えている。弾むような笑い声と、溢れ出るポジティブなエネルギー、そしておしゃべりを楽しむ明るいキャラクターは、ミシェル・ウィリアムズが劇中で見事に再現していた。

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監督はお母さんと非常に強い絆を持っていて、インタビューをすると、彼女の話題が必ず登場する。リアさんは、2017年に97歳で亡くなった。

「1920年生まれの母は、“女性の立場が男の何歩か後ろ”だった当時の価値観の中で、とても個性的でモダンだった。物おじせずにいろんなことに飛び込んでいける人だった。自分なりの考えを持っていて、はっきり言葉にする人だったから、僕は女性の意見を尊重する大切さを、小さいときから身につけていたんだ」

その言葉通り、強い母と3人の強い妹たちに囲まれて育ったスピルバーグは、仕事において「実力のある女性はいつもウェルカム。リーダー的立場に女性を雇うことが多い」という。

芸術家に多い、気分のアップダウンの差が激しい人で、「楽しそうに歌ったりクラシックバレエのポーズで自由に踊りまくっているときと、床の上に胎児みたいにうずくまっているときがあった」という。

「彼女はいつも、“私たちのことはいつ映画にしてくれるの? 家族の話を映画にしなさいよ”と僕をせっついていたんだ。僕と母の間には、ふたりだけの秘密もあったしね」

その秘密は、映画の中で詳しく語られている。

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「両親の離婚後、関係を断絶していたため未知の部分が多かった」のが、父のアーノルドさん。

彼はGE(ゼネラル・エレクトリック社)で働いていた際、コンピューターの未来に目を向けない会社の方針に背き、いち早く小型化の重要さを見抜いて研究をしたエンジニアグループのひとりだった。

秘密裏に研究を進め、1959年に従来よりもずっと小さいGE-225という、メインフレームの開発に成功した。画期的な発明だったが、自慢話を嫌うアーノルドさんから、その話の詳細を聞いたことはなかった。

ところがある日、ビル・ゲイツからランチの招待があったという。父と参加したランチの間中、ビル・ゲイツはアーノルドさんにだけ熱心に話しかけた。

「あなたたちが開発したGE-225なくして、パソコンはありえませんでした。あなたたちのパイオニア精神なくして、コンピュターの一般化はできませんでした。ポール(・アレン/マイクロソフト社の共同創設者)と共に、僕たちは感謝しても感謝しきれないと思っています」と、アーノルドさんへの賞賛は止まらなかった。

それを見ていたスピルバーグは、お父さんの業績の偉大さを初めて知って唖然とし、アーノルドさんは溢れる涙を拭くために、ポケットに手を入れてハンカチを探していたという。

アーノルド・スピルバーグさんは2020年に103歳で亡くなった。

『フェイブルマンズ』で語られる、スピルバーグの18歳までのストーリーを辿っていくと、8ミリカメラで撮影した映画の存在が、いかに彼の人生を変え、彼が作った数々の名作に影響しているのかがわかる。

「どんな映画も、希望を忘れずに作っている」と語るスピルバーグ。

ファミリーの温かさだけでなく、両親との特別な関係、別れの辛さ、幸せも悲しみも永遠ではないというメッセージが込められた『フェイブルマンズ』は、明るさの中にほろ苦さを感じさせる。

この映画は、スピルバーグから両親へのギフトだという。

文/中島由紀子

スティーヴン・スピルバーグ
1946年12月18日生まれ、アメリカ・オハイオ州シンシナティ出身。幼少期から映画を自主製作し、1969年にTVシリーズ『四次元への招待』で監督デビュー。プロデューサーとしても活躍している。映画『ジョーズ』(1975)『レイダース 失われたアーク<聖櫃> 』(1981)にはじまるインディ・ジョーンズ・シリーズ、『E.T.』(1982)『シンドラーのリスト』(1993)『プライベート・ライアン』(1998)『リンカーン』(2012)『ウエスト・サイド・ストーリー』(2021)など話題作多数。『シンドラーのリスト』と『プライベート・ライアン』でアカデミー監督賞を受賞した。

フェイブルマンズ(2022)The Fabelmans 上映時間:2時間31分/アメリカ
初めて映画館を訪れて以来、映画に夢中になったサミー・フェイブルマン少年は、8ミリカメラを手に家族の休暇や旅行の記録係となり、妹や友人たちが出演する作品を製作する。そんなサミーを、芸術家の母(ミシェル・ウィリアムズ)は応援するが、科学者の父(ポール・ダノ)は不真面目な趣味だと考えていた。そんな中、一家は父の仕事の都合で西部へと引っ越すことに。そこでのさまざま出来事が、サミーの未来を変えていく。

3月3日(金)より全国公開
配給:東宝東和
公式サイト:https://fabelmans-film.jp/
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