パンデミックの影響がじわじわと生活を圧迫する中、平井と菅沼というアラフォー女二人が共同生活を始める。語り手の平井は、男性を忌避しつつ、子供を産む未来を捨てきれない。一方、同居人の菅沼は愛犬を亡くした人のために3Dプリンターで「死んだ犬」を作っている。
第46回すばる文学賞を受賞した大谷朝子氏の『がらんどう』は、どこか不穏な空気をはらんだ女二人の「空洞」を、さまざまな生活の情景に映し、独特の死生観をもって描き切った作品である。しかし、どうにも片付かない虚ろを抱えたこの女二人の共同生活には、仄暗い中にも寄り添う温もりも感じられて、読後感は優しい。それはこの時代を生きる彼女たちの空洞が決して特別なものではないという作者の眼差しによるものだろうか。
「二人の距離感がとてもいい」と評する選考委員の堀江敏幸氏と大谷氏との対談では、さらにこの作品が取り上げたテーマの現代性について掘り下げる。
構成=宮内千和子/撮影=山口真由子