1940年代、日本占領下の中国・廈門。銃声が轟き、ブーゲンビリアの咲く亜熱帯の街で、リリーとヤンファは出会った。
資産家の令嬢として生まれるも、家の没落により、大阪松島遊廓の娼妓となったリリーは、遊廓から逃走し、廈門へと流れつく。カフェーで働きながら、抗日活動家のために諜報活動を行うリリーはあるとき、日本軍諜報員の暗殺を指示される。その実行犯として紹介されたのが、ヤンファという女性だった。琥珀色の瞳と蛇の刺青、そして澄み切った歌声を持つヤンファに強く惹かれていくリリー。だが、リリーには非情な指令が下されていた。
国に、戦争に、男に翻弄され、踏み躙られてきた二人の女性。名前を変え、流転しながらも、今を生き抜く彼女たちの愛と友情、そして数奇な運命を熱量高く描いた青波杏さんの『楊花の歌』は、第35 回小説すばる新人賞を受賞しました。
刊行にあたり、選考委員の北方謙三さんをお迎えした対談をお届けします。「この小説の命は、少女が山中を疾走することで、生み出された」と北方さんが高く評価された場面は、どのように生まれたのでしょうか。
構成=砂田明子/撮影=露木聡子