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【漫画あり】社会の息苦しさや困難を描き続ける漫画家・筒井哲也が見据えるネット社会の近未来とは…。「名作とされた過去の作品が、今の価値観に照らし合わせて否定されるのは残念」

集英社オンライン / 2023年3月7日 12時1分

45歳で引きこもり生活を始めた男に忍び寄る影の正体とは――!? 話題沸騰の『NEETING LIFE ニーティング・ライフ 下』(以下、『ニーティング・ライフ』)が3月17日に発売される。集英社オンラインでは、3月7日から19日まで筒井哲也作品試し読み祭りを開催。改めて、筒井哲也先生に最新作から過去の作品について話を聞いた。

次回作は「インフルエンサー」がテーマ!?

――初期作品では、ネット文化を取り上げた『リセット』や『ダズハント』、社会の歪みが生み出したネットテロリストが暗躍する『予告犯』を描かれています。

ネットは四六時中見ている身近なものなので、それを切り離して話を考えたことはないです。ただ、『ダズハント』や『予告犯』の頃は珍しがってもらえましたけど、今は物心ついた時からネットがあるのが自然な世代が読者の中心だと思うので、それはもう売りにはならないでしょうね。


作風もあって、「ネットをよく思っているか、思っていないのか」についてよく聞かれるのですが、それも良し悪しで語る必要はないのかなと思っていて。いつも「いい面もあれば悪い面もあるので」と、ありきたりな答えになってしまうんです。

『リセット』。ネットゲームの恐怖を描いたサイバー・ホラー

――そうですよね。誰がどう使うかによって、ですよね。

作り手としては、ネットの声をあまり聞きすぎてもいけないと思っています。『ニーティング・ライフ』でいえば、この状況下でコロナの話なんか聞きたくないって人もいるでしょうし、それを表明する人もいる。とはいえこちらも、全ての声を「はい、わかりました」と聞くわけにはいかないので、ちょっと冷たい言い方になってしまいますけど、無視することも時には必要なのかなと。

――全ておもねる必要はないですよね。エゴサーチはされる方ですか?

しなくなりました。僕はラストを決めてから描き始めるので、あまり惑わされないようにと思いまして。

『予告犯』。シンブンシと名乗るテロリストは次第に世間の声を味方につけ…

――7年前の筒井さんのインタビュー記事を読むと、「これからは横の監視が強くなる時代になる」というようなことをおっしゃっていて、SNSなどを見ていると実際にそうなったなと感じます。いまのネット社会を見て思うことはありますか?

インフルエンサーと言われている影響力のある人たちが、ひとたび「こいつを叩け」と言えば総叩き、みたいな状況はちょっと気になりますし、恐ろしいです。次回作はそんなテーマでいこうかなと。まだ、全然白紙の状態ですが。

人間の仄暗い表情を描いていきたい

――それは楽しみです! では、表現の自由を題材にした『有害都市』についておうかがいします。連載スタートは9年前で、その頃と今とではSNS等で作品を発表しやすくなった一方で、昔は大丈夫だったのに今はNGな表現もあります。現状に対して思うことはありますか?

たしかに、時代に合わせてマンガの描き方も変わってきています。「この描き方はよくないな」と考えて自粛することもあって、自由でありたいと思いつつ時代の流れに逆らいきれない自分がいますね。

この件で一番残念に思うのは、当時は名作とされた過去の作品が、今の価値観に照らし合わせてものすごくダメなもののように否定されてしまうこと。
例えば、僕が中学生のとき一番好きだった映画『スタンド・バイ・ミー』には、子供が煙草を吸うシーンがあるんですね。

『有害都市』。元文科省大臣のこの発言により、健全図書法が成立した近未来を描く

――子どもがマネして煙草を吸ったら困るからあの映画をかけるな!みたいな意見って、子どもを信用していなさすぎな気がします。

いい青春映画には、大人が顔をしかめるような描写もあるじゃないですか。それを闇雲に「時代の流れだから」と規制するのは反対ですね。作品に罪はないというスタンスでいたい。

『マンホール』。この後、怪死を遂げた男の身体から謎の寄生虫が検出されて――

――『有害都市』が生まれた背景には、バイオホラー『マンホール』が長崎県の有害図書類に指定された件があります。ゴア表現に関する規制についてはどう思われますか? 個人的には血しぶきが飛び散るシーンは以前より見かける機会が増えたように思うのですが。

そうですね……。僕が年をとったせいか、直接的な表現、過激なものを描きたいという意欲がそんなになくなってきているんです。『ノイズ【noise】』の冒頭で小御坂睦雄が、女性を見つけてニタッと笑うのですが、いま描きたいのは、そういう表情に滲む怖さですね。

『ノイズ【noise】』。この男(小御坂睦雄)が放つ闇が、平和な集落に拡がってゆく

――あの顔は、人のなかに渦巻くドス黒い感情が漏れ出た瞬間の表情でした。

はい。規制に縮こまってそっちにシフトした訳ではなく、僕の興味が自然とそっちに移っていった感じです。大事件を起こしたニュースの中の人より、街でめちゃくちゃ怒鳴っている人とか、身近にいる話の通じない人の方が怖いじゃないですか。そういう部分を作品に出せたらと思っています。

日常のもやもやを視覚化するのも娯楽の一側面

――以前のインタビューでも「価値観のぶつかりあいを描きたい」とおっしゃっていました。

そこで生じる息苦しさや生きていくことの困難さは、引き続き作品のなかの一要素として描いていけたらいいなと思っています。日常のもやっとした感じをマンガにするというのも、娯楽のひとつの在り方かなと思いますので。

――もやっとした感覚が視覚化されたり、言語化されるとつかえていたものが溶けていきますよね。また、毒が入ったものにより惹かれることもあると思います。

僕は(毒を)入れてしまうタイプですけど、それをストレスに感じる読者もいると思います。これも良し悪しだと思いますけど、僕の作風なので。

『予告犯』。テロリストと警視庁サイバー犯罪対策課の攻防の行方は!?

――作品の構想にあたり、いつも数年先のことを考えていらっしゃるということですが、2030年ぐらいのネット社会はこうなるだろうみたいな予想はありますか?

さすがに7年先はわからないですけど、今の感じのまま進んだら、誰もとがったことを言わなくなる社会になっていそうですね。みんなが叩き合って、そして誰もいなくなって、荒野が続いているみたいな。

それとも、自分と意見が合う人たちだけで形成された狭い集団が荒野に点在していて、集団と集団の間は全く断絶した形になっているかもしれません。今もそんな感じかもしれないですけどね。

漫画『予告犯』冒頭の試し読みが読める(すべての漫画を読むをクリック)

取材・文/山脇麻生 ©筒井哲也/集英社

『NEETING LIFE ニーティング・ライフ 上』

筒井哲也

2022年8月19日発売

680円(税込)

ISBN:

-

パンデミック、クラスター、ロックダウン……。聞き慣れない単語の数々と不確かな情報が錯綜し、世界の常識は大きく変わり始めていた。そんな混乱のさなか、しがないサラリーマンである小森建太郎は、20年間働いた会社を辞め、長年思い描いてきた理想の生活スタイル「ニーティング」を始めることに。自堕落な生活とは異なる“究極の引き籠り術”で平穏な暮らしを望むが――…!?

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