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コロナ禍の「トイレットペーパー不足」デマ報道で混乱も…“デマを事実化”するマスコミに専門家が危機感。「プレーンな情報の価値が上がっていく」未来を予想

集英社オンライン / 2023年3月1日 17時1分

ドナルド・トランプ氏が勝利した2016年のアメリカ大統領選挙では、立候補者に関する誤情報がインターネット上で拡散。日本ではコロナ禍において、フェイクニュースが社会問題化した。法政大学社会学部の藤代裕之教授(ソーシャルメディア論)が、フェイクニュースが社会やマスコミに及ぼした影響を語る。

“デマを事実化”してしまうテレビや新聞

藤代裕之 フェイクニュースは、ツイッターなどソーシャルメディア上の問題として語られることが多いですが、問題はSNSに偽情報が流れること自体ではなく、それをニュース化するメディア側です。

僕のゼミ生の研究をベースにした『フェイクニュースの生態系』(藤代裕之編著/青弓社)では、コロナ禍で発生した国内のフェイクニュースの例を取り上げています。


法政大学社会学部の藤代裕之教授

そのうちのひとつが、2020年春頃に広がった「トイレットペーパー不足」に関するニュースです。

SNSのデマが原因とされていますが、実際はそれほど広まっていない話題を「デマが拡散している」とテレビなどが取り上げ、騒動は拡大しました。

それで結果として混乱を生み、トイレットペーパーの買い占めという実害が生じた可能性が高いです。

ほとんど知られていなかったはずのSNSの話題を報じたことで、それが“事実化”してしまった事例です。

嘘やデマをゼロにすることは不可能です。「嘘をつくこと」よりも「嘘がニュースになり、事実化すること」が大きな問題なのです。

デマがポータルサイトに掲載されたり、検索結果に出たりしてしまうと、世間が「ニュースなんだ」と広く認知してしまう。

フェイクニュースの調査・研究を行ったゼミ生たち

“コピーした者勝ち”のネット世界

先日、東北新幹線が乗降口に車いす用の補助板をつけたまま発車してしまい、ホームにいた係員がとっさに足で外して事なきを得た、という内容の動画がツイッターで拡散されました。

この動画に関するニュースは、すぐにテレビや新聞で取り上げられました。

このような動画が出回ったとき、私はいつも元の投稿者までたどるようにしています。投稿者は「知人から送られてきた動画」であるとツイートしていました。

メディアは、本来であれば、「その知人とは誰なのか」を確認し、動画の著作権者と思われる知人に許可を取る必要があります。

きちんと確認が取れるまではニュースにしない選択をするべきですが、「ネット上でこれだけ話題になっているからいいや」と、ニュース番組やネット記事で取り上げてしまう。

今、ネットは「コピーした者勝ち」の状態です。ツイッターでバズっている動画も、コピーに次ぐコピーのそのまたコピー……が大量にあふれ、どれが元動画で誰が投稿したのかもわからない。

例えばですが、そういった動画がロシアによって工作されたプロパガンダだったら大問題ですよね。

そんなバカなことが起きるわけないと思うかもしれませんが、今、実際にフランスやイギリスで起きていることです。

動画の中で起きていることは本当なのかを検証しなければいけないはずなのに、コピーを重ねて拡散されて歯止めが効かなくなる。

それをさらに新聞やテレビがニュースにしてしまうと、“事実”としてお墨付きを与えることになります。

ネットメディアが、情報の質よりも人々の関心を集めて広告を見てもらうという「アテンションエコノミー」で成り立っている以上、この危険性はつきまといます。

どこよりも速く情報を出して、どこよりも多くのPV(ページビュー)を集めなくてはならない。

PVを競うネットメディアの世界は、不確実な情報が広がりやすい構造になっているといえます。

無法地帯のプラットフォームに危機感

ニュースの生態系にフェイクによる汚染が広がっています。汚染の中核を担うのが、ミドルメディアやポータルサイトの存在です。

ミドルメディアとは、SNSの情報などをもとにしたニュースサイトやまとめサイトのこと。「ネットで話題」と題して、バズっている話題について、取材や検証をせず「こたつ記事」を大量に作っています。

そして、フェイクニュースが生まれる温床となるこたつ記事を、ポータルサイトが拡散させるのです。

人々の関心を集めれば儲けられるならば、手間や時間もかかるニュースよりも、安上がりでクリック数を稼げるコンテンツを大量に作ればよいわけです。

AIのチャットボットに「女優の〇〇の記事を書いて」と入力して、返ってきた文章をコピー&ペーストして配信すれば完了です。もはや人間が書いた記事が必要なくなる世界なんです。

一方で、正しい情報を得るハードルが高くなると、それなりに事実がまとまっていて、それなりに有用なメディアの価値が高まっていくのは自然の摂理です。

無料とはいえ真偽不明のネットニュースを読むよりも、「お金を払って新聞を読んでおくか」となる人が多くなる近未来が予想されます。

5年後、10年後もPV至上主義が依然として蔓延したままであれば、無料のニュースは貧者の娯楽となるでしょう。

現代では無料でニュースに触れることに慣れてしまっています。将来、正しい情報を得るためにお金を出せるか否か、つまり貧困層と富裕層で取得する情報までも分断される可能性がある。

そうなってしまうと、社会合意や政策議論もできなくなってしまうでしょう。

ポータルサイトや検索エンジン、SNSなどのプラットフォームは、無法地帯である現状をきちんと整備をしていくべきです。

「表現の自由」と密接に結びついている領域なので難しい面もありますが、ニュースについてもメディア側で自主規制を検討していく必要があるのではないでしょうか。

「ファクト」の価値が上がっていく

ソーシャルメディアが普及してから約20年。ネット上に増えたもの、それは「論評」です。

ツイッター上にあるのはファクト(一次情報)ではなく、各々の評論です。論評がインフレすることによって、ファクトにたどり着きにくくなっています。

コロナ禍以降は特に「コロナはただの風邪」「反ワクチン」などの自分の思想や都合に合う論だけをつまみ食いした人たちによる陰謀論がひしめいています。

そんな中で、ファクトを得なければビジネスができない人は、論評を加えずに報じてくれるプレーンなメディアを求めるようになる。

例えば、日本経済新聞。ビジネスパーソンなら押さえておくべき最低ラインを示してくれているメディアです。日経は、早々にデジタルに力を入れ始めていたのも奏功していると思います。

一方、読売新聞のように紙にも引き続き力を注いでいる社もあります。

新聞の重要な顧客である中高年は、今も紙の新聞を読んでいますし、あらゆるメディアのデジタル化が進む中で、全国にニュースを届けることができる「紙の宅配」がむしろ貴重な存在になってきています。

紙、デジタルを問わず、読者に求められている媒体の価値をきちんと提供できるか否かが、メディアの生き残りに関わってくるでしょう。

取材・文/堤 美佳子
撮影/松本 侑

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