〈服部半蔵が『どうする家康』で大注目!〉「火遁の術」などが記される忍法帳のほとんどがウソ!? 服部一族の末裔、老舗和菓子屋代表が明かす“忍法の正体”「うちのあんこも忍法を使って炊いてます」
集英社オンライン / 2023年3月5日 11時1分
大河ドラマ『どうする家康』で存在感を増す服部半蔵。その親戚筋を先祖に持つ老舗和菓子店代表、服部吉右衛門亜樹さんに直撃して忍者の正体に迫るインタビュー。後編では忍法の真偽について聞いた。
忍法を現代に伝える「秘伝の書」は存在するのか⁉
放送中の大河ドラマ『どうする家康』で異彩を放つ、山田孝之演じる服部半蔵。主役、徳川家康の懐刀として知られ、現代でも“忍者”として非常に知名度が高い。
その半蔵の親戚の末裔が三重県の老舗和菓子屋「深川屋 陸奥大掾(ふかわや むつだいじょう)」の代表を務めているということで、前編では服部家14代当主、服部吉右衛門亜樹さんに「忍者=服部半蔵」というイメージと、その末裔としての苦労を聞いた。
後編では秘伝の忍法が現代にも継承されているのかについて探っていきたい。
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銘菓「関の戸」を製造販売する深川屋
服部さんが営むのは銘菓「関の戸」を製造販売する創業約380年の老舗「深川屋 陸奥大掾」。同店のホームページには<2019年深川屋に残る古文書から当時の忍びの記述が発見され、忍びの隠れ蓑の和菓子屋として 日本文化伝承を心がけております>との記述がある。
一体どういうことなのだろうか。
父の寝室で見つかった先祖と家康との関係を記す資料
「歴史学者の磯田道史さんがかねてから我が家に何度も何度も訪れて、“忍びの存在”を確認できるような史料を蔵の中で探されていたんです。でも『これだ!』というものはなかなか見つからず、もう見せるものもなくなってしまって。
それで、父親が寝ている部屋の桐の箪笥の中にあった、小さな風呂敷包みを『まぁ、これでもいいか』と軽い気持ちで持っていくと、その中に『忍びの記述』のある古文書があったのです。それが、2019年のことでした」(服部吉右衛門亜樹さん。以下同)
そこには何が綴られていたのだろうか。
「『伊賀越え』(天正10年、本能寺の変の後に、徳川四天王ほか34名という少数のお供のみを連れた家康が、決死の思いで伊賀国を越え、岡崎まで帰還したという史実。半蔵も同行していたと伝えられている)について綴られていました。
具体的には『明智の謀反により窮地に陥った権現様(家康)を助けた』ということが書いてあったり、『江戸時代の島原の乱の際には忍びに立候補するも落選』『松平隼人という旗本の家に約23年ほど忍びとして雇ってもらえた』といった記述もありました。
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黄色の囲みに「権現様」(徳川家康)、青い囲みに「織田信長」、赤い囲みに「明智光秀」の名前がみられる
覚書としてちゃんと『忍びだった』という記述があるものでしたので、磯田先生は『これは忍びの子孫であることの確たる証拠です』とおっしゃっていました。ただ、私の先祖が忍者だった証拠なだけで、それが僕らに口伝(書面に残さず口で言い伝えること)で伝わっているような“半蔵のいとこである”ということを決定づけるものではないんです」
とはいえ「忍びの証」である古文書は発見された。となると、次に気になるのが「秘伝の書」の存在だ。火遁の術や水遁の術などの「忍法」の極意が記された書ははたして存在するのか。
忍びの“心得”は現代にも継承されている⁉
服部さんは、笑いながら、こう答える。
「結論から言えば、我が家に秘伝の書はございません。忍びというのは、その字のごとく、忍ぶもの。忍者が秘密を書き残してどうする?という話になります(笑)。
おっしゃっている『火遁の術』などを書き記したものというのは『忍法帳』のことではないでしょうか。実は忍法帳が成立したのは、太平の世となった江戸時代のこと。
“忍び”には2種類あって、ひとつは我々の祖先のように“諜報活動”に特化した忍び。もうひとつは半蔵や半蔵の父のように、徳川家康とともに江戸に上がり、これまでの褒章で武士として召しかかえられたり、お庭番になったパターンです。
しかし、戦国の世が終わった江戸時代は天下泰平。武士となった忍びたちは、主家の身辺を守る“セコム”のような役割でしかなくなってしまった。そういったお庭番衆たちは自然と掃除夫や会計士といった、要するに雑用係になっていくのです。そもそも忍びの身分は武士より下ですからね。
そんな境遇で服部家を含めたすべての忍びの一族は『俺たちはこんな身分ではない』と不満を抱いた。そこで、『我が一族は水の上も歩けるし、空も飛べる』なんてことを書き記した『忍法帳』が出てきたのです」
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インタビューに応じる服部家14代当主・服部吉右衛門亜樹さん
服部さんいわく、「そのような忍法帳は誇張されたものが多い」そうだが、一方でこんな興味深い話も。
「前述のような流れがあるため、江戸時代に書かれた忍法帳はまゆつばだと僕は認識してます。
一方で、“心得”というものも残されている。この心得とは『いかにして人の信用を得、懐に入り、そしていかに情報を得るか』という忍びの技術のこと。例えば、『忍び込む時には誰々の一つ後ろを歩け』とか、そういうとこまできちっと伝えられている。
我が先祖のような隠れ蓑をまとった忍びは、この心得をマスターしたプロフェッショナルじゃないといけない。
心得もそうだし、忍法っていろんな種類があるということですよね。うち(深川屋)のあんこだって、先祖から伝えられた、いわゆる“忍法”で炊いてるんですよ」
服部家に代々伝わる“忍法で炊くあんこ”
忍法で炊いている? それは一体どういうことなのか。
「忍びが使っていた『保存食の忍法』で炊き上げているから、“うちのお菓子に使うあんこは腐らない”と伝承されてきました。
現代だと厚労省の指導により、消費期限はせいぜい半月に設定しないといけないんですが、コロナ禍の観光客減で時間ができたのを機に、東京のある分析会社にお願いして『関の戸』の常温保存での経過を観察してもらったんです。そうしたら通常3日~1週間で腐ってしまう生もののあんこが、2年以上も腐らなかったというデータが出たんです」
さすが秘伝の術。服部さんは続ける。
「もともと腐りやすいあんこを、諜報活動のために歩いて京都や江戸にお持ちしなければいけないので、腐らないあんこを忍法で作る必要があったわけです。僕が毎朝おこなうこの作業は非常に面倒くさいものですが、それは忍法だから。『ロマンがある話ですね』と言ってもらえることもありますね」
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“忍法”で炊いたあんこを使用する銘菓「関の戸」
ではその“忍法”とは、通常のあんこ作りとどう違うのか。
「論理的には水分調節。水分を減らせば硬くなってしまうから技術的には難しいけど、『関の戸』のあんこは硬くない。炊き方に秘密があって、そのあたりが秘伝なんだと思います。
製法は当家に残されている『菓子仕方控』という、いわゆるレシピ本にも書き残されています。当家の6代目か7代目が1780年に書いたとされていて、今も我が家に残っています。ただ、古文書なので何が書いてあるのか僕には読めない。生前、父が『配合は“菓子仕方控え”の通りにしたよ』と話していて、僕はその作り方は口伝で教えてもらいました。
『菓子仕方控』にしろ、磯田先生にお見せした古文書にしろ、うちにはたくさんの文献が残っている。そもそも、忍者は書き残しちゃ駄目なのに残ってしまっているということは、たぶんうちの先祖は、出来の悪い忍者だったんですよ(笑)」
服部さんの自宅には、現在は使われていないものの「隠し階段」や「壁の後ろに隠し部屋」などのからくりが現存しているという。
そんな「忍び」が隠れ蓑になぜ和菓子屋を選んだのか。そこをひも解いていくと、織田信長の時代に端を発する壮大な「歴史的秘話」があった。
その物語についてはまた後日お伝えする。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
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