「ギャラリーストーカー」とは、衝撃的な言葉ではないだろうか。
ギャラリーなどで、駆け出しの若手作家らにつきまといや迷惑行為を行う人たちを指す。
近年、実際に被害に遭った女性作家がSNSで告発したり、ギャラリーに「キャバクラ感覚」で訪れる中年男性を描いた実話の漫画が話題になったりしたが、ギャラリーストーカーとは美術業界内ではかねてより知られた言葉だったという。
また、卒業制作展で学生に対して長時間の応対を求めたり、作品と全く関係のない自身の話を延々としたりといった迷惑行為もある。東京藝術大学では通称「藝大おじさん」として認知されている。
そんな実態を知った弁護士ドットコムニュース記者の猪谷千香さんは2021年より取材を続け、20人以上の被害者に話を聞いている。
被害の実態をまとめた著書では、ギャラリーストーカーや藝大おじさん以外にも、著名美術家やキュレーター、学芸員からの性暴力や女性差別、大学教員からのハラスメントなどが横行する日本の美術業界の実態をあぶり出している。
猪谷さんは、一連の取材をこう振り返る。
「実態は予想以上にひどいものでした。本当にこんなことがあるのかと信じられない思いですね。キュレーターや学芸員など、作家にとって信頼を寄せるべき相手からあり得ない被害を受けている。
特に現代アートの世界は、社会問題をテーマとした展覧会が多いのですが、社会問題を題材にするのであれば、この美術業界の問題をまず取り上げていただきたいなと思うくらいです」