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「低価格で子どもをお腹いっぱいにしたい」創業者の想いが息づく駄菓子の「ビッグカツ」。“ビッグ”に込められた「会社の命運」とは

集英社オンライン / 2023年3月12日 10時41分

駄菓子のロングセラー「ビッグカツ」、その販売元であるスグル食品が今年で創業50周年だ。そんなビッグカツは当初は子どもではなく酒のつまみとして大人にヒットしていたとか? 裏話とともに、スグル食品に50年の軌跡を伺った。

いかの加工業から始まった歴史

広島県呉市にかまえるスグル食品。

前身の会社はいかを甘く味付けして加工した食品を販売していたものの、倒産の憂き目に。その後の1973年に創業者一族が、再び起業したのがスグル食品だったという。

「スタートから波乱万丈だったようで、前身となった会社が廃業してしまっていたので、いかの取引を行ってくれるところがなかったそうです。そこで当時の社長が何とか代わりになる商品をと探し回っていたところ、広島県福山市で魚のすり身をシート状にする『プッチン』という加工技術に出会います。


さっそくプッチンを原料として仕入れ、最初の商品として魚のすり身といか粉を混ぜ、シート状にして甘いタレに漬け込んだ『いかサーティー』を発売したんです。ほのかにいかの香りが漂う魚肉シートに、醤油と砂糖で甘く味付けした商品で、今でも販売しているんですよ」(スグル食品総合企画室・大塩和孝氏、以下同)

いかサーティーは甘じょっぱい味付け

その後、スグル食品はプッチンした魚肉をフライにした「いか味天」を発売するなど、今日まで愛されるロングセラー商品を生み出す。
ただ、当時はお酒のおつまみとして嗜まれることが多かったらしく、メインターゲットはあくまでも大人。出発地点は子どもたちに愛される駄菓子ではなかったというのはちょっと驚きである。

サクサク食感が特徴的な「いか味天」

子どものご馳走を目指し、生まれた

1970年代後半、スグル食品は「フライができるのだから次にカツを商品化できないか」と考えるようになった。そこで当時のご馳走で子どもたちから人気の高かったとんかつをモチーフに、「ビッグカツ」の原型となる商品の開発が始まる。

「その時代のおやつって、少量で物足りないものが多かったそうです。ですからコンセプトとしては、子どもが買える価格でカロリーも高くて、子どもたちにとってちょっとした贅沢品となるような商品を目指すことにしました。

ビッグカツといえば、サクっとした衣に固めのプッチンが入ったお菓子ですが、開発初期はカステラのようなふんわりとした食感を目指していたんです。その頃はカステラもご馳走であり、材料も共通しているものが多かったので。ただ結局、開発途中で柔らかくできなかったため、その構想は頓挫してしまったようですが(笑)」

こうして紆余曲折あって出来上がったのが、ビッグカツの原型となる『おやつ串カツ』。そのころはまだ個包装ではなく、大きなポットの中に串を刺したカツを30本ぐらい入れ、主に駄菓子屋で販売した。価格は1本10円だったそうだ。

画像は現在の「おやつ串カツ」であり、1本30円で販売している

思うように売れず全国に営業まわり

1980年代に入る頃には、コンビニエンスストアやスーパーマーケットが台頭してきたため、駄菓子屋に卸すのとは違って個包装にして製造する必要が出てきた。そこで名前を今の「ビッグカツ」に改めて販売開始することに。価格は発売当初から現在まで30円のままだ。

「ビッグカツは、大きいカツという意味だけではなく、会社の命運を託したという意味も込めて“ビッグ”と冠せられたそうです。
なんでもビッグカツを販売するにあたって、フライヤーなどの工程ラインの設備投資に莫大な費用がかかってしまい、そのうえ30円という安価で売らなくちゃいけないという薄利多売な面もあったので、なんとしてでも大ヒットしてもらわなければ困るという状況だったんです」

企業として勝負をかけて誕生したビッグカツ。だが残念ながら発売したばかりの頃の売れ行きはかんばしくなかったという。

「当時、カツという商品名なのに中身が魚肉という商品は前例がなく、販売所に営業をかけるときにどうアピールすればいいかわからず、悪戦苦闘していたようですね。1本30円という安さで売るために機械はフル稼働させなくちゃいけなかったので、在庫は増える一方で経営がピンチに。創業者はこのままではまずいと考え、北は北海道から本州の関東、関西など渡り歩き、必死に営業して回っていたそうですよ」

そうした草の根の活動が功を奏し、次第にビッグカツの知名度は向上していった。

ビッグカツの味の秘密とこだわり

今ではスグル食品の売上の2~3割も占めるというビッグカツは、名実ともに同社の看板商品となっているが、美味しさの秘密はその揚げ方にあるようだ。

「普通だと揚げ物を包装すると、衣部分に油が残ってしまい、ふやけた触感になってしまいます。そこでビッグカツは、脱油の工程を一つ経て中の油を絞り出しています。そして、さらに冷却させることによって、袋内で発生する結露を防ぐことができ、いい食感を実現させているんです。
ちなみに一昔前は、専用の機械に乗せて回すことで発生する遠心力を頼りに油を抜くなんていう原始的な方法も試していました。

また中身のプッチンのほうもこだわりが。プッチンをシート状に伸ばした後に焙焼し、水分を飛ばしてからビッグカツ用の原料サイズに裁断する、というようにプッチンの水分が衣に移行しないように対策を施しているのです」

魚のすり身を練っている工程

魚のすり身を練っている工程

今も昔もプッチンは伸ばして成形している

揚げ終わった後に油を抜く工程がある

また魚特有の生臭さを消すためにも、ソースや身自体にも工夫を凝らしているという。

「うまく魚の臭みをマスキングしつつ、より魚の旨味を引き出せるソースを作り出すために、スパイスや調味料の組み合わせを考えるなど手探りで試行錯誤していたようです。
また、ガーリックパウダーやブラックペッパーなど香辛料の配分も研究を重ねていて、本物の豚肉っぽくできるよう味付けに気を遣っていたのも、大きなこだわりですね」

今も30円という値段を貫くワケ

駄菓子、おつまみの定番メーカーとしての地位を築いたスグル食品。その後もかまぼこ、がんすといった練り製品事業を開始したり、プロ野球チーム「広島東洋カープ」とのコラボ商品「カープカツ」を販売したりと業態を広げていった。50周年を迎えた現在も自作の3Dアバターを配布するなど、食品メーカーとしての枠にとらわれない斬新なプロモーションを行っている。

2019年作成のビッグカツくんのアバター

50周年を機に「機械化を!」とのことで実現した「機械化ビッグカツくん」

ただ駄菓子の宿命か、安くなければ買ってもらえないという苦悩もあるそう。値上げを肯定してくれるファンもいるだろうが、それでも馴染みの商品の価格が上がることに衝撃を受けるファンもいることは想像に難くない。

「駄菓子って安くてうまいから買ってもらえているという側面があると思うんです。そしてビッグカツに関しても、『子どもが買える安い価格でお腹いっぱい』という創業者の想いがあって誕生した商品ですので、子どもが購入できない価格帯にはしていません。だから発売当初から変わらぬ30円という価格を貫いているのです。弊社としては、これからも家族の憩いの味となる商品を作り続けていきたいですね」

「低価格で子どもをお腹いっぱいにしたい」という創業者の想いが、今なおスグル食品の根底に流れている。
幼少期にわずかなお小遣いで買ったあの駄菓子たちは、世代を超えて今なお人々に愛されているのだ。

取材・文/文月/A4studio

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