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「サイドローディング」を巡って日本政府とAppleが大激論。アプリ市場の“自由な競争”にAppleはなぜ「断固反対」するのか?

集英社オンライン / 2023年3月10日 16時1分

AppleやGoogleのアプリストアを経由せずに、スマートフォンにアプリをダウンロードできるようにする「サイドローディング」。このトピックに関して、現在日本政府とAppleが議論を繰り広げている。サイドローディングが、なぜ今問題となっているのか。そしてAppleはなぜ、頑なにサイドローディングを認めないのか。議論のポイントを、ITジャーナリスト・松村太郎氏が解説する。

モバイルビジネスを寡占するAppleとGoogle

「サイドローディング」という言葉を聞いたことがあるだろうか。

サイドローディングとは、AppleやGoogleが支配するスマートフォンのアプリストアを経由せずに、アプリをダウンロードできるようにすること。これを巡り、現在日本政府とAppleが激しい議論を繰り広げている。



日本をはじめとする規制当局は、AppleやGoogleが「自由な競争環境を確保していない」として、サイドローディングを義務化し、モバイルアプリがより自由に流通できるようにすることを求めている。

開発者がApp StoreやGoogle Playを通じて有料アプリを販売すると、それぞれApple、Googleに手数料が入る。特にiPhoneにおいては、開発者以外、App Storeを避けてアプリをダウンロードする手段を一切用意していない。

AppleやGoogleに対して、モバイルアプリの自由な競争環境を求める(写真:Shutterstock.com/Tada Images)

ここに注目し、市場の公平性の観点から議論を進めてきたのが、内閣官房・デジタル市場競争本部事務局が実施するデジタル市場競争会議だ。「モバイル・エコシステムに関する競争評価」の中間報告では、「サイドローディングを義務付けるべきでは」との文言が登場している。

会議は主に非公開として行われており、すべての議論が見られるわけではないが、サイドローディングの義務づけを前提に会議が進められているのではないか?とAppleは危機感を募らせている。

サイドローデングのメリットとは?

では、サイドローディングにはどのようなメリットがあるのだろうか。

そもそもiPhoneと市場シェアを分けるAndroidスマートフォンでは、基本的にサイドローディングが可能で、Google Play以外のアプリストアからもアプリをダウンロードすることができる。

たとえば、規約違反でApp StoreとGoogle Playから姿を消したEpic Games社の大人気ゲーム「フォートナイト」は、サイドローディングが認められるAndroidにおいては、同社独自のアプリストアからダウンロード可能だ。

つまり、15%からというApple・Googleの手数料を回避してビジネスの収益性をより高めたいと思う大規模な開発者は、サイドローディングが許可されれば、アプリストアを独自に用意して自由にアプリを展開することができる。これが、ストアを丸ごと開発できる体力がある大規模開発者にとってのサイドローディングのメリットだ。

また小規模な開発者や研究者などにとっては、AppleやGoogleのアプリ審査基準、技術要件に沿わない、より実験的なアプリを作って広く配信したいという場合には、サイドローディングに頼らざるを得ない。

たとえば、昨今AI(人工知能)の実用化が大きく注目されているが、App Storeの審査基準に沿ってアプリを開発する場合は、せっかくiPhoneに優れた機械学習処理のチップが内包されていても、アプリ内でデータを学習させることは現状できない。

つまりサイドローディングが認められれば、独自のアプリストアというビジネス展開を可能にするだけでなく、より低廉な手数料によって収益を向上させ、また、現在審査が通らないアプリを流通可能にする、といったさまざまなメリットを享受できるのだ。

iPhoneにアプリをインストールするには現状App Storeを経由しなければならない

ただし、ユーザー・開発者ともに必ずしもサイドローディングがなければならない、と考えているわけではない。

もちろんAppleやGoogleが設ける要件の中でも、優れたアプリを開発することは可能だ。実際、AppleもGoogleも、スマートフォンの可能性を広げる新しいアイデアに対して協力的であり、アプリ審査に関しても、技術面だけでなくビジネス面でより良い提案も加えられてきた。

またサイドローディングが許可されているAndroidにおいても、8割以上のユーザーがGoogle Playを利用しているとの調査が、後述の公正取引委員会から出されている。

たしかに現状、AppleとGoogleによってアプリストアは非常にクローズドだが、これは「競争の結果」と見るべきだ。Apple、Googleがユーザーの体験価値、開発者への提供価値を高め、双方から選ばれるアプリストアとなり、AmazonやMeta(旧Facebook)、Microsoftといった巨大テック企業を含む他社が、その競争についていけなかったに過ぎないと言えるのではないだろうか。

Appleはアプリ開発者をサポートする「App Store Foundations Program」を展開する(写真:apple.com)

Apple「サイドローディングは断固反対」

Appleは「サイドローディングを絶対に認められない」という姿勢を貫いている。その理由は、一体どこにあるのだろうか。実は規制当局のレポートに、その理由が示されている。

2023年2月14日開催の「デジタル市場競争会議」で出された公正取引委員会の資料では、「両社はOSプラットフォーマーでありつつ、アプリストアと競合する立場でもある」「アプリストア自体に競争がない」との指摘がなされた。

政府側は基本的にはサイドローディングを許可して競争環境を確保すべきとの立場をとっているが、そこには「セキュリティの確保やプライバシーの保護上問題がない場合には」という文言がつけられており、自由競争の確保に、ユーザー保護の条件を加えている。

「第46回 デジタル市場競争会議」の配布資料は、首相官邸のWebサイトで内容確認できる(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/digitalmarket/kyosokaigi_wg/dai46/index.html

Appleが懸念しているのが、まさにこの部分で、セキュリティとプライバシーの問題だ。サイドローディングは、AppleやGoogleによる脆弱性への対策や審査を通じてスマホアプリを安全に保とうとする努力を無駄にしてしまう可能性が高いのだ。

Androidでは利用者の責任においてサイドローディングが認められているが、Appleが示す調査によると、Androidにおけるマルウェアの脅威はiPhoneの15〜47倍にも上ると指摘している。

生活の中で肌身離さず携行し、あらゆる個人情報とコミュニケーションが扱われるスマートフォンは、悪意のある開発者にとって格好のターゲットとなる。

特に子どもを持つ親世代には、高齢になった両親のスマートフォンを設定している人も多いだろう。たとえAndroidデバイスを持っていたとしても、サイドローディングができないように設定し、安全なアプリのみに利用を制限するなど「自衛策を講じる」必要がある。

子どもの位置情報が追跡されたり、金融機関の個人情報が記載されたメモが盗み見られたりといった重大なセキュリティ情報の流出は、最大限に懸念すべきだ。

Appleはセキュリティとプライバシーの観点からサイドローディングに反対する姿勢を見せている(写真:apple.com)

多様性と正しい理解による選択を

アプリのサイドローディング問題については、現在、世界中の規制当局で議論されている。AppleとGoogleが本拠地を置く米国でも「競争環境が保たれてない」と見られているうえ、今後は欧州でも「サイドローディングを解放すべき」として米国企業に対する攻撃が強まることが予測される。

アプリ流通は、AppleやGoogleがモバイルOSから組み立ててきたビジネスであることから、すでにプラットフォームとして世界を二分する勢力となっており、“第3の勢力”の登場は正直なところ現状期待できない。

そのため、サイドローディングを含む市場の公平性・多様性はもちろん議論されるべきポイントだが、その一方で個人情報を狙い、それによって利益を得ようとする悪意のある開発者からデバイスを防御する仕組みは絶対に欠かせない。

その点で、日本の公正取引委員会が、モバイルOSやアプリストアの競争環境確保の条件に「セキュリティとプライバシーの確保」を設定しているのは、非常に冷静かつ現実的な判断だといえる。

AppleやGoogleは現在、アプリストアを通じてセキュリティとプライバシーを担保している。筆者としては、ユーザである我々がその仕組みや危険性を理解できるようにならなければ、サイドローディングの義務化は、まだ当分先の話になるのではないかと思う。

Appleの発表によると、2021年にはApp Storeによって約15億ドルの不正取引が阻止されたという(写真:apple.com)

文/松村太郎

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