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「職質祭りといわれる強化月間がある」「警ら隊は犯罪を検挙してナンボ」元警察官YouTuberが語る、数字だけを追い求める警察組織の実態とは

集英社オンライン / 2023年3月14日 16時1分

元警察官という肩書きで、警察の内情についての情報をSNSで発信している「よっしー部長」という人物がいる。神奈川県警に18年勤め、主にパトカーに乗って地域のパトロールを担当する“自動車警ら隊”所属の巡査部長として、数多くの犯罪検挙をしてきたという。

強引な犯罪検挙をする警察官を減らしたい

「神奈川県警 自動車警ら隊 パワハラ」でネット検索すると一番上に表示される、2020年に起きた有名なニュースがある。

今回インタビューを受けてくれた「よっしー部長」は、その当事者ではないものの、一連の出来事に巻き込まれたことによって、警察組織そのものに嫌気が差し、18年間勤めた神奈川県警を退職した。



しかし、退職する以前から、検挙数ばかりを追い求め、時にはグレーな手段すら厭わない警察のやり方に、彼は強い疑問を感じていたという。元警察官だからこそ知り得る犯罪検挙の内側、そしてそれを発信する真意について伺った。

――元警察官という肩書きでSNSを中心に情報発信されていますが、その動機は何でしょうか?

本当に悪い人を裁けず、正直者が割を食うような法律や仕組みに対して、「警察って胡散臭いな。なんで俺は警察をやっているんだろう」と現役時代から違和感を覚えていました。

「警察24時」みたいなテレビ番組は、警察にとって都合のいい部分を全面的に押し出しますよね。でも、警察にとって耳が痛いこともちゃんと発信して、警察という組織を正していきたい。それが僕なりの思いやりというか。

たとえば、犯罪検挙だけを追い求める自動車警ら隊(※以下、警ら隊)の考え方だったり、悪質な職務質問(以下、職質)だったり、現状の警察はよくない部分が多すぎるんです。

僕みたいな元警察官で、警察の内情について発信する人が出てきたことで、「よっしー部長に言われちゃうかも」と考えて、強引な検挙をする警察官も減ると思うんですよ。そういう盾みたいな存在になれるかなと思って、YouTubeとTwitterで発信し始めました。

※ パトカーに乗り、各警察署の管轄区域を越えた各都道府県内全域のパトロールを主な任務とする組織

BBQ用ナイフを銃刀法違反で検挙

サーフィンが好きで引っ越してきたという江の島付近でインタビューに応じてくれたよっしー部長

――警察官時代はずっと警ら隊所属だったのですか?

初めは交番勤務で、(「こち亀」の)両津勘吉みたいにのんびりと仕事をしたいタイプでした(笑)。

でも、結果を求めることが好きな性格なので、職質がかなり得意で、若い頃から県警内で検挙数トップになることが多くて。それが評価されて、警ら隊に引っ張られた感じです。

――どういう倫理観で検挙していましたか?

交番勤務の頃は、自転車泥棒をメインに検挙していましたが、窃盗罪には被害者がいるので、検挙することに社会的な意義があると感じていました。

ただ、次に配属された警ら隊は「犯罪を検挙してナンボ」の世界。そうなると「とにかく検挙したい」とか、「この人をなんとかして犯罪者にできないか」という思考に変わっていくこともありました。

たとえば、BBQや釣りのために使用して、車に積みっぱなしにしていたナイフを、銃刀法違反で検挙するとか。

そういう検挙には社会的な意義は全くないと、当時から感じていました。世の中の役に立ちたいという思いでもなく、ただ自分が組織に評価されたいという気持ちだけ。検挙数が多ければ給料も上がりますし、昇進試験のポイントにもなるので。

要するに、本来は犯罪検挙をするための職質が、「自分の欲望を満たすためのツール」になってしまうんです。そうではない警察官もいますが、警ら隊にいるほとんどの人間は、かつての僕と同じ思考回路だと思います。

未だに後悔する事件

仲間内で“職質祭り”と呼んでいた職質強化月間には、犯罪検挙数のノルマを課せられていたという

――そのようなポイント稼ぎのための検挙を象徴するエピソードはありますか?

「これは良くなかったな」という検挙については、未だに覚えています。

走り屋と思しき男性の車を停めたら、車内に鉄の棒があって。本人曰く、フロントのボンネットを支える棒が折れているから、その代わりに持っていると。

実際にボンネットの裏に傷が付いていたので、彼の主張は嘘ではないな、と僕は感じていて。

ただ、運転席の足元に棒が置いてあったことを、パトカーに同乗していた警察官の上司が「これは武器だ」と主張して。僕は異を唱えましたが、「いや、事件として処理する」と上司は譲らず。

部下なので従うしかなく、事件として処理することになって。調書を取る時、本人は認めていなかったんですが、なんとかそれもねじ伏せて。最終的には本人も「もういいです。好きにしてください」という感じで、罪を認めました。

凶器携帯は軽犯罪法違反なので、軽い罰金程度ですが、犯罪歴が残りますし、本人からすれば決していい出来事ではないですよね。

結局、その検挙によって、一人の人を犯罪者にしてしまったわけです。僕としては、上司に強く進言できなかった悔いが今でも残っています。

「職質からの違法薬物検挙」は点数が高い

――検挙数によって給料が変わる、という仕組みがあることを全く知りませんでした。

警ら隊では、その月の検挙数に応じた査定があり、多く検挙をすれば給料は上がりますし、ボーナスにも大きく影響します。

あとは検挙した犯罪の種類によって、もらえる点数が変わります。それを実績制度と呼ぶんですが、各犯罪を検挙した際の点数をまとめた評価表も、ネットで検索すれば出てきますよ。

それを見ればわかりますが、ひったくり犯や強盗犯を捕まえるのと同じ扱いになるくらい、「職質からの違法薬物検挙」の点数は高いんですよね。

だから最近の警察官は躍起になって若い子に職質して、「大麻を持っていないか?」と、時にはパンツのにおいまで嗅いで調べるわけです。そういう職質にあった子が、僕に助けやアドバイスを求めてDMしてくる感じです。

現役の警察官から「辞めたい」というDMが送られてくることもあるという。「一般の企業の方からすると、かなり常識外れなイジメ行為が未だに行われていますよ」と語る。

――大麻関連の検挙数が年々増加している、というニュースを目にすることもありますが、よっしー部長の見解はいかがですか?

警察官だった頃は「大麻が規制されるべき薬物かどうか」という問題について、何も考えていませんでしたし、点数の高いツールの一つとしか捉えていませんでした。

他の薬物、たとえば覚醒剤だと、挙動がおかしい使用者たちの姿を実際に見てきたので、「体に悪いものだ」ということを感覚的にも理解していて。一方で、大麻の使用者の挙動は普通ですし、他人に危険が及ぶ可能性があるような現場も見たことがなかったですね。

ですから諸外国の状況と比べた時に、今の日本の大麻所持検挙のためだけの職質は過激過ぎるとは思います。ただ使い方によっては、もちろん大麻にも危険な一面がありますので、ある程度は仕方がないかなと。

取材・文/佐藤麻水
撮影/浅井裕也

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