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会社を辞めると言い出した若者を引き止める自信はありますか?「社外活動を認めることで分かり合える」。目指すべき、若者と職場の新しいギブアンドテイクの循環とは

集英社オンライン / 2023年3月14日 11時41分

現代の若者たち(特に2010年代後半から新入社員として働いている人々)が置かれている状況を正確に伝える一冊、『ゆるい職場 若者の不安の知られざる理由』(中公新書ラクレ)から、若者たちと職場の新しい関係についての考察を紹介する。(サムネイル、トップ画像/shutterstock)

定着させることが本当の目的なのか

ここまで職場、そして若者の話をしてきた。次はゆるい職場の時代の若者と職場の関係について考えよう。その関係性を考えるうえで、まずはケーススタディとして次の事例を読んでほしい。

あなたは大手企業のとある事業部の企画課課長。ある日、26歳のAさんが緊張した面持ちであなたのそばに来て言いました。



「課長、少々お話があるのですが、夜帰る前に時間頂けますか」

夜。

どうやらAさんは転職を切り出そうとしているようです。

若手有望株として本人の希望に沿って企画部門にきたAさんに辞められることは、あ
なたの評価にも関わりますし、会社にとってもマイナスです。

「やりたいことがこの会社ではできないんです」

……1ヵ月後、Aさんの送別会の場であなたは振り返ります。「Aさんを翻意させられる可能性はあったのだろうか?」

翻意させる手は、あったのだろうか。すでに様々な手を試したが……という、日々奮闘・苦闘する管理職の声も聞こえてきそうである。

このケースにごくごく似たことが今日も日本のどこかで起こっている。しかし、最終的に転職を翻意した若者のケースはそのうち何割、いや何%あるだろうか。

かねてより、日本人は店で良くないことがあっても黙っている良いお客様だと思われてきたが、その実、"黙って来なくなる""その場では何も言わないだけ"の難しい客であると言われるようになってきた。

職場においてもこの姿勢は踏襲されているのか、「黙っていていきなり辞めると言い出す」のが伝統的な日本の退職スタイルである。

既に転職先を決定した状態で「課長、少々お話があるのですが……」と来るため、翻意させることは容易ではない。

同時に、ゆるい職場において厄介な問題が起こっていた。「若手で職業生活を自律的におくるパフォーマンスが高い若者ほど、退職する意向が強い」のだ。

厄介な、若手離職の現状。ここではその打開策を考えよう。ポイントは、「若者と職場の新しい関係性」である。

離れ小島に囲い込む

日本を代表する超大手企業の花形部門で働き、社内で数々の革新的な取り組みを行ってきたとある20歳代の社員は、自社のことを「離れ小島」と揶揄していた。

外の世界から遮断され、組織の内側の話だけで一日が終わっていく。そんな人材が囲い込まれた様子を、彼は情報が入ってこない孤島、離れ小島に例えていたのだ。予想外の言葉に、思わず何と言ったのか聞き返したほどだ。

あなたの会社はどうだろうか。ほとんどの会社は、社員に自社へ愛着を持ってもらいたい一心だろうし、彼ら彼女らを囲い込んで情報を制限しようとは全く思っていないだろう。

ましてや若手から「離れ小島」と思われているなんて考えたこともない会社も多いはずだ。

ただ、名の知られた大手企業から、「優秀な若手が何も言わずいきなり辞めていく」「昨年の20代退職者が過去最多だった」「年収が数百万円下がるのに、若手がスタートアップ企業に転職していく」といった悲鳴のような声をたくさん聞いている。

企業側としては、人手不足、若手採用難のさなか、必死に採用した若手に辞められてはたまらない。そこで、若手の離職を回避するためのリテンション施策に今、大きな注目が集まっている。

社内メンターの設置や、希望部署の聴取と配属、抜擢人事、社内副業、全社でのイベント開催、そして社員向けの福利厚生の改めての充実まで、施策の幅は広い。

ところがこうしたリテンション策は、「会社に愛着を感じてもらいたい」と口では言っていても、「人材の囲い込み」としての色合いが濃く、社内との接触を増やして社外との関わりを減らすことで離職を防止しているように見える。

副業・兼業を解禁する企業も増えつつあるが、経団連会員企業のうち約半数は、副業・兼業をいまだに禁じている。

また、日本の大手企業は生え抜き文化も根強く、幹部には新卒でその会社に入った人が就いていることが多く、採用においても大企業は正規社員採用の6割以上を新卒採用で入れている。

転職が一般化したとはいえ、終身一社、「武士は二君にまみえず」で、自社の外の世界を見たことがない先輩社会人が多い状況には変わりがない。

社外活動の効用

しかし、外の世界を見せないことは、本当に自分が働く会社への愛着や忠誠心、エンゲージメントを維持し、高めるのであろうか。

実際には真逆である可能性がある。20歳代の若手社会人2000人以上に対して行った調査結果からは、興味深い事実が浮かび上がってきた。(リクルートワークス研究所、2020、若手社会人のキャリア形成に関する実証調査)

図1 「現職企業の評価点」と「社外での活動の経験」
※「プロボノ活動」は職業上の技能・知見等を生かしたボランティア、無報酬の副業・兼業。「現職企業の評価点」については、NPS(家族や知人・友人にその会社で働くことを勧められるか)を使用。10点満点。

まず、社外の活動が自社への評価にどう作用するのかを調べてみよう。様々な「社外での活動経験の有無」と「会社に対する評価」の関係を整理するべく比較した(図1)。

例えば『収入を伴う副業・兼業』を経験した若手(5・8ポイント)は、経験していない若手(5・4ポイント)より自社(現職企業)への評価が高い。

無報酬の副業・兼業(プロボノ活動)、学び直し、ボランティア活動、社外勉強会の主催・参加といった社外活動の経験の有無で比べるとすべての活動で、「社外活動を経験している人の方が、会社への評価が高い」という傾向が出ている。

さらに、社外活動の頻度と自社への評価点の関係性を見てみよう(図2)。

図2「現職企業の評価点」と「社外活動スコア」
「社外活動スコア」は、社外の勉強会への参加、業務上の設定のない人々との交流、これまで参加したことのなかったコミュニティへの参加の実施頻度に関する回答を得点化した ※縦軸は社外活動スコア、横軸は現職企業の評価点

現職企業の評価点が高い若手は、社外活動スコアが高いことがわかるだろう。例えば、自社に対して10点満点をつけている若手は、社外活動スコアが+1.62ポイントと高頻度、6~9点をつける若手についても+0.30~1.04ポイントと社外活動の頻度が上昇していく。

一方で、0~3点を自社につけた若手は、社外活動スコアが-0.70 ~ -0.46ポイントとなっており、低い。「社外活動をしている人は、自分の会社が好き」という傾向が見られるのである。

(なお、上の図では「社外活動と企業評価の関係」をより明確にするため、"過去の社外活動スコア"と"現在の企業評価点"を比較し、転職をしていない若手に限定して集計している(N =1407)が︑現在の社外活動スコアと現在の企業評価点を比較しても全く同様の傾向となる)

さて、この結果の意味することはとてもシンプルだ。

「他社と比べて初めて、自社の良いところがわかる」。比べることで初めて長所を知り、短所を許せるようになることは、ショッピングでも恋愛でも同じ。人間の"当たり前"である。

また、「自分がやりたいと思った社外活動を認めてくれた」こと、会社が自分の挑戦を後押ししてくれた信頼感から、「会社に対して本気で貢献したいと思った」と私に語ってくれた若手社会人もいた。

「会社が自分のことを応援してくれている」と感じたことで、個人と会社のギブアンドテイクの循環が回り出す。これこそ、新しい個人と会社の関係の芽吹きではないか。

また、外から自社を客観的に見ることで、自社の強みを再確認することもある。研修の一環として全くの異業種に出向していた若手の話もある。

異業種であるため、当然経験したことのない仕事に直面し、自社を頼ってアドバイスを求め、今まで注目もしていなかった部署に、素晴らしい人材やノウハウが存在することに気が付いた。

「自分の会社に、異業種の専門家をもうならせるようなスペシャリストがいるとは思わなかった」そうである。

外での活動がもたらした視点は、自社の見方をも変える力がある。ただし、残念ながら、社外活動を経験した若手について分析すると、転職率が上がっていることもわかった。

同調査によれば、新卒者の入職3年以内の離職率は、社外活動をした若手は26.0%、経験しなかった若手の16.1%よりほぼ10%もポイントが高い。

改めて、「外を見て、自社のことが好きになるが転職率が上がる」ことを良しとするか否かは、今後の職場と若者の関係を占う分かれ道だと言えよう。



文/古屋星斗

ゆるい職場 若者の不安の知られざる理由

古屋星斗

2022年12月8日発売

990円

新書版 256ページ

ISBN:

978-4121507815

「働きやすい会社」を、なぜ若者は辞めてしまうのか?
新時代の、若者・仕事・日本社会を紐解く――

「今の職場、“ゆるい”んです」「ここにいても、成長できるのか」。そんな不安をこぼす若者たちがいる。2010年代後半から進んだ職場運営法改革により、日本企業の労働環境は「働きやすい」ものへと変わりつつある。しかし一方で、若手社員の離職率はむしろ上がっており、当の若者たちからは、不安の声が聞かれるようになった――。本書では、企業や日本社会が抱えるこの課題と解決策について、データと実例を示しながら解説する。

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