「何回もホテルに誘われたけど、もう慣れちゃいました」ヒッチハイクで“日本4周”を目指す23歳元保育士が過酷な旅で手に入れたものとは? 「危ないからって人との出会いを諦めたくない」
集英社オンライン / 2023年3月12日 11時1分
自作の日本列島ボードにダーツを投げて、刺さった県へヒッチハイクで向かう。しかも無一文で――。テレビ番組「1億人の大質問!? 笑ってコラえて!」の「日本列島 ダーツの旅」と、かつて人気を博した「進め!電波少年」(ともに日本テレビ系)のヒッチハイクシリーズを合わせたような過酷な旅を繰り返して全国を飛び回る変わり者がいる。しかも、それが23歳のうら若き女性だというから驚きだ。
元保育士が他力本願ヒッチハイカーになったワケ
彼女の名前は末永美沙さん。SNS上での活動名はMISAだが、YouTuberの類ではない。どこにでもいそうな若い女性だ。そんなMISAさんがヒッチハイクを始めた理由を語る。
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現在、日本2周目の無一文ヒッチハイク旅の道中にいるMISAさん
「人と出会うのが好きなんです。ヒッチハイクをしていると、普段、仕事をしているだけじゃ出会えない職種の人に出会えるのがすごく刺激になって、全国各地にそんな知り合いができたら楽しそうっていうのが一番の理由です」
しかし、世の中すべての人が善人ともかぎらない。いろいろな人と出会う方法ならいくらでもあるはずだ。危ない目に遭いかねないヒッチハイクを選んだのはなぜなのか。
「ヒッチハイクは相手を自分から選べないから、例えば見た目が怖くて普段なら話しかけないような人でも、車に乗せてもらって話してみたらすごいいい人だったってことがあって。人って見た目で判断できないなって思わせてくれます。
見ず知らずの私をわざわざ乗せてくれるなんてすごいじゃないですか。そんな温かい人との出会いや、どんな人が乗せてくれるんだろうってワクワク感があるのがヒッチハイクのよさですね。
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MISAさんのSNSアカウント
それに、子どもが好きで保育士になったけど、気がついたら上司に怒られないことを第一に子どもに接するようになってしまったし、先生同士で陰口を言い合ったりして職場の空気も悪かった。そんな人間関係に疲れて辞める決断をしたので、優しい人に出会いたかったんです。ヒッチハイクなら優しい人と出会えるじゃないですか」
5万円も資金援助してくれた人も
本人が勇んでも、かわいい娘をそんな危ない旅に行かせたいと思う親は少ない。家族の反対はなかったのか。
「母親には保育士を辞める前からヒッチハイクのことは話していましたが、心配はされても反対はされませんでした。父親には絶対に反対されるとわかっていたので、出発する直前に伝えました。反対されても家を出ちゃえばいいと思ってたので(笑)。すると意外と父も笑って見送ってくれました。やっぱり急すぎたのが功を奏したのでしょうか。
ただ心配をかけないようにLINEでどこにいるかは逐一伝えるようにしています」
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昨年2月、「探偵!ナイトスクープ」(ABCテレビ)に出演した際、出演者のカンニング竹山と一緒に撮った1枚(本人Instagramより)
なんとか両親の理解を得て、いよいよ出発。しかし、当初はダーツで行き先を決めていたわけではなかった。では何をゴールに旅をスタートさせたのか。
「もともと全国の春夏秋冬を経験したかったし、一度会った人とはもう一度会いたかったので、ヒッチハイクで日本4周を目指すことにしました。
所持金ゼロを掲げた理由は、“無一文”とつけると、人にとても温かくしてもらえるから。お金を持って旅してる人に宿を提供しようと思う人は少ないでしょうけど、無一文だと泊めてくれる。
そうすれば、お金の節約はもちろん、そこに1つ出会いが生まれる。それが目的で無一文を貫いてます」
無一文だから受けられる温かい施し。彼女はそれに良くも悪くも魅入られている。
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無一文だからこそ受けられる施しもある
「そんな無茶を自分に課したものだから地域の神社に行ってもお賽銭すら払えない……(苦笑)。
でも、そんな私に『これで楽しんでね』とか『頑張ってね』とお金をくれる方がたまにいて、そのお金の使いどころを自分で考えるのが楽しいんです。
金額ですか? 500円とか1000円ですね。ジュースを買ったお釣りを激励の気持ちで恵んでくれる方もいれば、過去には封筒に入れて5万円もくれた方もいました。とはいえ、それだけで飲食代や旅の資金はまかなえないので、SNSでPayPayの支援援助も受け付けています。そこでも1万円を送金してくださった方がいました」
説教、下心…女性の一人旅につきまとう危険
2022年5月、いよいよ出発。実家は福岡だが、旅の出発地点は大阪に設定し、そこから下道を使って日本を反時計回りに進むことにした。
「1周目はひたすら日本1周を目指してとなりの県へ移動していましたが、2周目からダーツを導入することにしました。
行き先がランダムの方が出会いに運命を感じられていいなって思ったのと、小さい頃から見ていた『ダーツの旅』に憧れてたので。ルーレットでもよかったけど、完全な運よりも、ある程度狙えたほうがいいじゃないですか。それで本当に当てたらラッキー、外れても面白いことが待ってることもありますから」
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ダーツで目的地を決める
2か月間かけてまずは日本1周を達成。そして、一度帰省したのち、昨年9月から2周目の旅をスタート。2月中旬に彼女のインスタグラムをのぞくと、23県目の目的地を決めるダーツを投じていると楽しそうに報告していた。
しかし、当然ながら楽しいことばかりではない。
「出会った人にお説教されるのが一番キツいです。去年の12月に乗せてもらった男性2人組に『人と違うことをして楽しいだけで終わってはダメだよ。なにかにつなげなきゃ』と説教されて……私自身、ヒッチハイクを何かにつなげたい気持ちもあるけど、別につながらなくても楽しければそれでいいって考える自分もいて。
どっちも本当の自分の気持ちで、どちらが正しいか答えを探すのがイヤ。自分探しの旅をしているわけではないのに、早く答えを求められた感じがしてつらかったです」
そして忘れてはいけないのは、MISAさんは23歳の若い女性だということ。彼女は落胆しながら続ける。
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23歳という若い女性には危険な旅にも思えるが…(本人提供)
「しかも、その人たちにホテルに誘われたんです。説教されたのと下心を持たれてたのでダブルパンチ……めちゃくちゃ泣きました。下心にはある程度、慣れていて、そのおかげで乗せてもらえてることも理解しているんですが……やっぱりキツかったですね」
その場はなんとか断って難を逃れたものの、女性が一人で旅をするのはやはり危険と隣合わせ。そのことを改めて痛感した出来事だった。
ホテルに誘われた回数は50回超え! 時には泣き寝入りも…
男性から下心を向けられたことは、この1回だけではない。
「“人を見た目で判断しない”が私の根本にあるから、雰囲気がちょっと怖いな、怪しいなくらいなら、とりあえず信じて乗ってみることにしてます。
本当に襲われたことはありませんが、ホテルに誘われることはめちゃくちゃあります。『ホテル行かない?』とダイレクトに言われることもあるし、『今からちょっと寄り道していい?』とか『コーヒー屋さんでちょっと休憩しよう』と言われてホテルの前に降ろされたこともあります。誘われた数は50回は超えてますよ。
ただ、断っても変な場所で降ろされることは全然なくて、目的地まで送ってくれたり、車の通る道まで送ってくれます。空気は気まずくなりますけど、自分もその空気がイヤなんで会話は続ける努力をしています。それでもしつこくホテルに誘ってきたりされたら、自分から降ります」
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日本最北端の地にも(本人提供)
危険な目に遭ったことはない。彼女はそう言い張るが……。
「疲れて車内で寝ているうちに、服の上から胸を触られたことが3回ありました。それと最後にちょっと触らせてと言ってきた人もたくさんいました。降り際にさりげなく触ってくる人には『やめてくださいよ』と私が言って終わりで、警察に届けるなんてこともしません。まぁ泣き寝入りといえばそうですね」
同意なく女性の胸を触れば強制わいせつ罪に問われることもある。悪いのはもちろん男性だ。しかしながら、彼女の防犯意識が甘いことも否定できない。
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ヒッチハイク2周年記念日に投稿した写真(本人Instagramより)
「危ない目にあっても自業自得だと思ってやっています。でも、リスクを負ってやる価値がある旅だとも思っています。
危ないからって色々な人との出会いを諦めたくないんです。何も起こらないように最善は尽くしてますし、“身の危険がある”は辞める理由にはなりません」
彼女にとって、よき出会いというのは、リスクをおかしてまでも手に入れたいもののようだ。
ヒッチハイク旅で出会った男性に恋心を抱くことも
そうまでして続けるヒッチハイク旅。恋愛的な“よき出会い”もなくはないようだ。
「実は今回の無一文ヒッチハイク旅をやる前に、大学4年生だった一昨年11月から昨年3月にかけて、すでに関西を中心に無一文ヒッチハイクに挑戦していたんです。
そのときに出会った2人の男性には特に惹かれました。ひとりは2年前に京都で出会った人です。当時の私はヒッチハイクを始めたばかりの初心者で、どんなものかまだわからず、めちゃくちゃ不安な時期に乗せてくれました。
4つ年上の会社員で、黒髪に短めのマッシュで爽やか、見た目もタイプでした。一度通り過ぎたのにわざわざ戻って乗せてくれて、道中もすごく話しやすいし、めちゃくちゃ優しかった。不安でメンタルが落ちていた私の頭をポンポンして励ましてくれたんですよ。
今でも京都近辺に行くことがあれば会いに行く、友達の関係です。
もうひとりは1年4か月前くらい、九州で出会った1つ年下のカッコイイ大学生。旅好きで考え方が似てるんです。
車内もめちゃくちゃ盛り上がって、私の影響で、彼もヒッチハイクをしたみたいです。『めちゃくちゃ楽しかった。MISAさんのおかげできっかけができた。ありがとう』とお礼を言われました」
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Instagramに投稿したイラストには「彼氏探し中」の文字も(本人Instagramより)
そんなMISAさんの好きな男性のタイプは、「ヒッチハイクで車に乗せてくれる人」だという。
「乗せてくれるってことは誰にでも分け隔てなく優しくてフレンドリーということ。私のことを理解してくれた上で乗せてくれる人がほとんどだから、乗せてくれない男性よりも絶対に話が合うと思う。そういう人は異性として好きになることもあります。でも、旅を止めてまで恋愛に発展させたいわけではありません」
あくまで、彼女の目的は旅を続けること。
何時間待っても誰も車に乗せてくれないことだってある。うまくいかないことが多いからこそ、親切で温かい誰かとの一期一会を大切にしているのかもしれない。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
撮影/Soichiro Koriyama
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