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K-POPやKドラマ好きは“自分に自信がある勝ち組”なのか!? 新大久保の街の変化から見る“韓流ファン”の姿とは

集英社オンライン / 2023年3月15日 17時1分

2003年に放送された『冬のソナタ』の社会的現象をきっかけに巻き起こった、今なお続く「韓流」ブーム。韓流ファンはなぜここまで熱狂するのか、彼らの実態と、その生活にどのような変化をもたらしているのかを前後編でお届けする。〈前編〉

新大久保の変貌

新大久保を歩けば、若いとくに女性たちと数多くすれ違う。コロナ禍以前より、少子高齢化の圧力を受け、東京の都市は停滞してきた。渋谷がその典型である。駅前の東急百貨店が高齢化する沿線住民を惹きつける高級志向のショッピンセンターに変わり、スペイン坂のパルコがより経済的に余裕がある「大人」たちを惹きつけることを狙って改装されたことがよく示すように、東京の街は、ゆっくりと狙いとする年齢層を高めながら、若者から居場所を奪ってきたのである。


だが新大久保はその例外である。2022年末にわたしたち(立教大学社会学部貞包ゼミ、プロジェクト研究C)が15歳以上の東京在住者を対象としてネットでおこなった調査(N=2032)からは、渋谷・新宿・池袋のターミナル駅の人気がたしかになお高いとはいえ、遊びや買い物でよく行く街としての新大久保の魅力は下北沢や原宿をすでに超えていることが浮かび上がる。

その特徴は若年層の女性が多いことで、実際、性比でみると新大久保は銀座に続き女性が多く、また15~39歳の若年層の割合でみると原宿に続き東京で二番目に多い街になっているのである(表1)。

表1

男性、また高年齢がすでに主流になっている秋葉原とくらべるとこうした特徴は対照的だが、ではなぜ新大久保が人気かといえば、韓流ブームが追い風になっていることはまちがいない。実際、その街によく行く者のうち、KドラマやK-POPを好む韓流ファンの割合は新大久保では77.3%でどの街より高く――15歳から39歳までの女性にかぎれば実に96.2%――なっているのである。

エスニックタウンを先駆けとした“新大久保”とその例外的な発達

こうした状況には、もちろん歴史的経緯がある。もともと新大久保は、韓国系を中心としたエスニックな人びとを受け入れ成長してきた。近隣にある国際学友会の近くのアパートがもともと留学生を受け入れていたことに加え、バブルの膨らみとともに1980年代以降、移住労働者も増加し始める。

なかでも本国での旅券発行条件が緩和して以降、歌舞伎町で働く韓国から来たホステスが数多く暮らし始めることで、新大久保は韓国色を強めたのである。

新大久保はこうして池袋や高田馬場など、後に成長する他のエスニックタウンに先駆け、20世紀末より停滞する東京のなかで例外的な発達を遂げた。とはいえ現在の新大久保のにぎわいは、まったくその延長線上にあるわけではない。

少なくとも表面上、近年の新大久保はエスニックな人びとのためではなく、むしろ若い日本人のための街として観光地化されている。

その代表が、イケメン通りである。かつて移住者のためのアパートやホテルが立ち並んでいたその路地に、東方神起などの人気を受け、2010年頃より韓国料理屋やアイドルグッズ店が立ち並び始める。そうして今ではかつてのような移住者ではなく、日本の若い女性たちを集めることで、その通りは日本でもおそらく有数のにぎわいをみせているのである。

韓流ファンはどんな人びとか?

韓流文化はこうして新大久保の街を近年大きく変えているが、ではこの韓流文化はどんな人に、またなぜ愛されているのだろうか。

先と同じ調査によれば、まず現在の韓流ファンはあくまで若い女性たちを中心としていることがわかる。韓流ファンのことを、Kドラマを好み、K-POPを愛好する人びとと定義すれば、これらの人びとは、女性が有意に多く(図1 15歳〜19歳、20歳〜29歳とそれぞれ64.2%、64.0% 1%水準以下)、また若年層が中心となっている。

かつて2000年代中頃に『冬のソナタ』がブームになった際には、中高年の女性が韓流ブームを支えているといわれた。しかしそれから20年弱、すでにかなりの世代交代が起こっていることが、この調査からは浮かび上がるのである(図1)。

図1 韓流ファンの世代別割合 (N=2037)

さらに細かな特徴をあきらかにするために、韓流ファンのうち15歳から39歳までの女性たちにデータを絞ると、彼女たちはファッションへの関心が強く、友達も多く、流行には敏感で、自分の容姿はいいと思っていることが確認された(表2)。

つまり韓流ファンは社交的で、流行を取り入れ、外面に気を使う傾向が強い。こうしたコミュニカティブな傾向は、全体と比べても、また日本のドラマやJ-POP、またはアニメなど別の趣味を持つ層と比べてもしばしば高くなっている。

表2 韓流ファンの傾向(%) **は1%以内、*は5%以内で有意 上位2つの数値に色付け

他方、恋愛に関してみれば、韓流ファンはかならずしも強い関心を持っているとはいえない。実際、家族以外にとくに仲のいい異性がいる場合があきらかに多く、また既婚者もKドラマファンの場合は少なくない(平均25.5%に対し、26.9%)。
にもかかわらず、恋愛に関して韓流ファンは少なくとも有意に強い関心を示しておらず、とくにK-POPファンの場合、他の趣味を持つ者と比べて恋愛に対する興味は低いほうにとどまっているのである(表3)。

ではよりひろく異性との関係に広げると、どんな傾向がみられるのだろうか。興味深いのは、韓流ドラマを好んで見る人が、「日本で女性の地位は男性に比べて低い」とは、有意に思っていないことである。さらに同じ人びとは「女性は家の外で仕事をするほうがよい」という質問に対しては、有意に肯定的に答えている(表3)。

表3:韓流ファンの男女観(%) **は1%以内、*は5%以内で有意 上位2つの数値

ここにあるのはジェンダーに関するある種の対等意識であり、それを支えているのは、自分に対する自信なのではないか。韓流ファンが自分の容貌をしばしば高く評価していることは先に触れたが、それに並行して自分に対する自信もかなり強く持っている。10代から30代の女性が平均して30.7%が自分に自信があると答えているのに対し、K-POPを好む層は38.0%、さらに Kドラマを好む層は47.7%と半数近くも自分に自信があると答えているのである(表2)。

そうして自分に自信があるからこそ、韓流ファンの女性たちは男性に伍して十分に働けると考えているとともに、ジェンダー的な不平等はすでに解消されているとみなしていると推測できる。
そうした女性たちからは、日本社会において女性がとくに不利な待遇にあるようには映らない。少なくとも自分は充分に成功できると信じられ、また不遇な女性がそばにいたとしても個人の努力の問題とおそらく判断されているのである。

ポスト・フェミニズム的主体?

この意味で韓流文化を好む層には、フェミニズムからしばしば批判を受けてきたポスト・フェミニズム的な主体としての面を少なくとも垣間みることができる。ポスト・フェミニズム的主体とは、法的、社会的な変化によって男女差別はすでに基本的には解決されているとみなす者のことである。

女性が外で働くべきと強く考えるなど、もちろん韓流ファンがたんに反フェミニズム的な意見を持っているわけではない。ただし彼女たちが外で働きたいのは、自分が優れているという自信を持っているからであり、この場合、現実の社会に根強く不平等が存在していることは否認されるばかりか、むしろ自分の優秀さを示すための都合の良い舞台状況として暗に利用されている可能性さえある。

興味深いのは、以上の特徴において韓流ファンは、「日本のドラマや映画をよく見る」層や、「アニメを見るのが好き」な層としばしば対照的な姿をみせていることである。

後者の層は日本では女性の地位は低いとみなしながら、それに抗い女性は外で活躍すべきと強くは考えていない。こうした内向的な傾向を導いているのは、ひとつには自分に対する自信の少なさだろう。実際、これらのファンでは、容姿への満足や自分に対する自信は韓流ファンより低く、場合によっては平均さえ下回っているのである。

以上からみて、日本で韓流文化は勝ち組の文化として受け入れられていると、ひとまずはいえる。勝者がすべてを取るきらびやかな世界。韓流のスターや、または韓流ドラマのなかの主人公たちの成功は、ある種のモデルとしてそれを愛好する人びとを引き付けているのではないか。日本だけではない。

たとえばフランスでも、BTSのように非西洋人が世界的な人気を得ることに誇りを持つ人がアジア人にかぎらず存在しているといわれている(「Cicchelli,Vincenzo, Octobre, Sylvie, Raillard, Sarah-Louise, The Sociology of Hallyu Pop Culture: Surfing the Korean Wave」2021, Palgrave Macmillan)。
この意味では「韓流」はマイノリティ的人びとに成功を約束する文化としてグローバルに受け入れられているのである。

文/貞包英之

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