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《藤沢2歳児・傷害致死事件から考える》「小学生まで当たり前だと思っていたけど、中学生くらいでうちの異常さに気づいて、嫌で嫌でたまらなかった」見落とされがちなヤングケアラーの2つの盲点「依存症」と「ネグレクト」

集英社オンライン / 2023年3月18日 18時1分

近年、社会問題となっている「ヤングケアラー」。なかでも、幼児の死亡事件が起きた際にその親が幼少期にヤングケアラーだったという事案が少なくない。国や自治体が、その支援に動き出している「ヤングケアラー」の知られざる一面とは。

藤沢2歳児・傷害致死事件

2023年2月、神奈川県藤沢市に暮らす田代芽衣(27)が、前年に2歳の息子の空来ちゃんに暴力を振るって死に至らしめたとして逮捕された。

逮捕された田代容疑者(本人フェイスブックより)

芽衣は若い頃から水商売をする中で、空来ちゃんを出産。だが、ネグレクト(育児放棄)を理由に児童相談所に一時保護される。そこで芽衣は親子再統合のためのプログラムを受けた後に、空来ちゃんを引き取ったものの、自宅で暴行して死なせたとされている。



事件後の報道によって、芽衣が「ヤングケアラー」だったことが大きく取り上げられた。問題は、芽衣の母親の不安定な生活にあったようだ。芽衣がまだ6歳くらいの時に、母親は韓国籍の父親と離婚。その後、母親は子育てを放棄し、芽衣とその弟を実家や元夫の家に預けた。たらい回しのような生活の中で、芽衣は不安定な日々を過ごしていたそうだ。

やがて、母親は暴力団構成員の男性と再婚。金銭に余裕ができたのか、芽衣と弟を引き取ることにしたが、間もなくこの男性が事件に関与したとして逮捕される。母親は水商売をはじめ、家を留守にすることが増えた。そのため、芽衣は生活を維持するために、母親に代わって自分が家の用事をこなすようになる。

報道で芽衣がヤングケアラーとされたのは、祖父母の家や、親不在の家で家事をしていたためだ。彼女にしてみれば、そうでもしなければ祖父母たちに受け入れてもらえない、生活が成り立たない、という切羽詰まった事情があったのだろう。

では、なぜ事件報道においてヤングケアラーだった過去がにわかに注目されたのだろうか。ヤングケアラーの知られざる一面に光を当て、考えてみたい。

ヤングケアラーの知られざる一面

ここ数年、マスメディアは「ヤングケアラー」の問題を取り上げることが増えた。

ヤングケアラーとは、家族のケアをしている子供を示す言葉だ。現在その数は10万人をはるかに超えると推測されており、厚生労働省によれば小学6年生の15人に1人、大学3年生の16人に1人がヤングケアラーだとされている。

現在マスメディアが主に報じるヤングケアラーは、親やきょうだいに病気や障害がある子供たちだ。彼らはその世話や家事に追われ、勉強や遊びの時間を奪われたり、学校に行けなくなったりすることがある。そうしたことが、ヤングケアラーの問題だとされ、改善が求められているのだ。

これはこれで事実であり、社会が一丸となって改善に向けた取り組みを行っていくべきだろう。ただし、私は近著『君はなぜ、苦しいのか 人生を切り拓く、本当の社会学』(中央公論社)で書いたように、虐待をはじめとした多くの社会事件の現場を取材する中で出会うヤングケアラーは、これとは少し違う現実を抱えている人たちが多い。下図を見ていただきたい。

出典:「医学書院 2021年3月15日 週刊医学界新聞(通常号):第3412号よ」ケアが必要になった主な原因 N=被介護者数(2185人)

先述のマスメディアが報じるヤングケアラーは、「病気」「高齢による衰弱」「身体障害」「認知症」「発達障害」「知的障害」と区分されるものだ。他方、それとは別に、「依存症」「精神障害」「その他」が合計で27.5%ある。実はここにヤングケアラーのあまり報じられない一側面があるのだ。

その一側面とは何か。「依存症」が覚醒剤依存であったり、「精神障害」が違法薬物の後遺症であったり、「その他」がネグレクトだったりするのだ。私が出会った中から2人のケースを紹介する。

依存症とネグレクト

【依存症のヤングケアラー】
ある女性は、覚醒剤中毒のシングルマザーのもとで育った。下に妹と弟(全員父親が違う)がいたが、母親は風俗店やねずみ講で稼いだお金をすべて覚醒剤につかい、家のことは何もできない状態だった。

女性は、年下の妹弟を食べさせるために、毎日のように親戚や友達の家を回って食事をもらったり、家の片づけをしたりしなければならなかった。また、母親が覚醒剤の後遺症でおかしくなっている時は、そのケアをした。

その生活は15歳までつづいた。

【ネグレクトのヤングケアラー】
ある男性はネグレクトを受けていた。シングルマザーの母親は家庭より自分の楽しみを優先する人間で、小学生だった子供を家に放っておいて、水商売をしながら男の家を泊まり歩いていた。

母親が家に帰ってくるのは週に1度あるかどうか。しかも、滞在時間は1時間ほどで、洗濯物を置いて数千円の「生活費」を置くとすぐに去っていった。

家には障害のある弟がいたため、男性は学校へ行かず、そのお金で何から何まで自分でやらなければならなかった。ただ金額が少なかったため、電気や水道が止まることはしょっちゅうで、給食を盗むために学校へ行っていたという。

この2つの事例をどう思うだろうか。最初の女性は中学の途中で家から逃げるように夜の街をさまよっているうちに、売春をするようになった。やがて彼女は寂しさから母親同様に覚醒剤に手を出して逮捕されている。

2番目の男性は、高校を1年で中退後、バイクの窃盗と転売で逮捕されて少年院へ送られた。障害のある弟は、男性がグレはじめてから施設へ移されたそうだ。

この2人が口をそろえて私に語ったことがある。

写真はイメージです

「小学生くらいまでは家庭環境が当たり前だと思って受け入れていたけど、中学に上がってからうちが異常なんだって気づいて嫌で嫌でたまらなかった。とにかく逃げ出したいという気持ちだった」

ヤングケアラーの盲点

中学や高校で家出をしたところで、真っ当な仕事をして生活をすることは難しい。また、彼らはそれまでの生い立ちの中で、愛着障害のようになって誰彼問わず肉体関係を求めたり、常識や認知が様々な形でゆがんでいたり、同じような境遇の者としかつるめなくなったりしていることがある。

こうした人たちが支援者もいない状態で社会に出て、未熟なまま家庭を持ったらどうなるのか。そのしわ寄せが、その子供にくることは想像に難くない。

現在、児童相談所や児童養護施設で行われている親子の再統合の取り組みや、母子生活支援施設で行われている親支援は、そのような親に生活や子育ての一般的なモデルを教えることだ。数か月、長ければ数年にわたってそれを身につけさせ、大丈夫だと判断した時点で自立させる。

冒頭の事件の容疑者の芽衣もまた似たような経緯をたどっている。ヤングケアラーの生活から抜け出したものの、水商売をしながら生んだ空来ちゃんをネグレクトし、児童相談所のプログラムを受けた。

事件の詳細は、今後の取り調べや裁判を見守っていく必要があるが、ここで考えなければならないのは、ヤングケアラーが抱える問題は、必ずしも「病弱な家族をケアし、学校へ行けなくなる」というものだけではないということだ。

詳しくは拙著を読んでいただきたいが、ヤングケアラーが直面している家族の問題は非常に複雑であり、中には今回見たようなダークな一面もある。そこで子供たちが奪われるものは非常に大きい。

私たちはヤングケアラーが抱えている問題を、より広く、深く受け取り、対策を講じていく必要があるだろう。

取材・文/石井光太

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