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「聖職者は性職者」なのか? わいせつ行為をした教員でも復職できる現実。1日1人ペースで処分を受ける学校教員の性犯罪が後を絶たない理由

集英社オンライン / 2023年3月16日 17時1分

「公立」の学校教職員だけで年間200人以上の教員が性暴力などの罪で処分されている。「私立」の学校も含めると、その数はさらに増加する。なぜ学校教員による性犯罪は起きるのか?

学校教員の性犯罪は年間200人超

「うちの中学校では、かつて性犯罪で捕まった男の人が今も堂々と先生をしているんです。保護者も生徒もみんな知っているんですけど、その先生は何事もなかったかのように普通に授業をして、生活指導まで担当しているんです」

先日、公立中学に通う生徒と親から、こんな話を聞いた。昨年刊行した拙著『ルポ 誰が国語力を殺すのか』(文藝春秋)の中で、学校の教員の問題を取材して書いたところ、生徒や保護者からこうした声が上がってきたのだ。



残念ながら、学校教員が引き起こす性犯罪は後を絶たない。

先月も、千葉県で30歳の小学校の男性教師が、13歳未満の少女を誘拐し、複数にわたって性的暴行をしたとして、わいせつ目的誘拐と強制性交の疑いで逮捕されたという報道が出たばかりだ。この月だけでも、他に同じ千葉県で31歳の小学校の教師が逮捕されたり、北海道でも山形県在住の小学校の教師が逮捕されたりしたと報じられた。

実は、公立学校の教員だけで、毎年のように200人前後が性犯罪で処分されているのを知っているだろうか。

なぜ学校教員の性犯罪は後を絶たないのか?

『令和3年度公立学校教職員の人事行政状況調査について』という資料がある。文部科学省がまとめた人事行政状況の調査結果だ。

これによれば、令和3年度に性犯罪・性暴力等に係る懲戒処分等を受けたのは、合計で216人(女性は2人)となっている。うち、被害者の4割強が、加害者である教員が勤める学校に通う子供だ。

出典:文部科学省『令和3年度 公立学校教職員の人事行政状況調査』

犯罪の主な内容は、「体に触る(67人」「盗撮・のぞき(48人)」「性交(26人)」「接吻(22人)」となっている。犯罪が行われた主な場所は、「自宅(35人)」「教室(30人)」「保健室、生徒指導室等(28人)」「ホテル(24人)」「自動車内(21人)」だ。

出典:文部科学省『令和3年度 公立学校教職員の人事行政状況調査』

この統計の数字からは、「公立の学校だけ」で2日に1日は教師が懲戒等の処分を受けているということがわかる。私立を含めれば、おそらく1日1人くらいの処分件数になっているだろう。以前、私が取材した小学校の校長は次のように語っていた。

「小学校の教員には、少女に恋愛感情を持つ大人が多いなんてことが昔からよく言われていました。どこからどこまでそうなのかはわかりませんが、私としては生来の性的嗜好だけでなく、ストレスが原因で起きている事件も多いのではないかと思っています。

現在、学校は非常に忙しく、先生にストレスがたまりがちです。そのストレスを生徒にぶつける人がいるのです。昔は、どちらかといえば体罰としてそれが現れていました。しかし今はあからさまな体罰は禁止されているので、隠れるような形で性犯罪として現れているように感じるのです」

ストレスと性犯罪の関係

たしかに性犯罪が起こる原因は、かならずしも性的快楽だけを目的としたものとは限らない。むしろ、加害者がゆがんだ形で支配欲を膨らませたり、ストレス発散として行ったりすることの方が多いのだ。

大人の痴漢などもストレスから引き起こされる傾向があるとされている。会社や家庭でストレスをため込むと、自分がダメな人間だと思って自信をなくす。自尊心が削られるのだ。

そんな時、彼らは通勤途中で痴漢行為をすることによって、「自分は相手を支配しているんだ」「自分は強い人間なんだ」と感じる。それで、ストレスからくる劣等感を解消するのだ。電車通勤しているビジネスマンにとっては、自分より弱い立場の女性の乗客がターゲットになる。

写真はイメージです

だが、教員たちはもっと身近なところに自分より弱い立場の異性がいる。それが学校の生徒たちなのだ。そして、彼らが生徒をターゲットにした時、性犯罪が起こることがあるのである。

もちろん、被害を受けた子供にしてみれば、教員のストレスなど知ったことではないだろう。子供たちはそれによって一生残る傷を負うわけであり、教員が何を言おうとも言い訳でしかない。

もし学校での性犯罪がストレスによって引き起こされているのならば、国や教育委員会にも責任があるのは明らかだ。根本的な解決をせずに発覚した事件でのみ処分するのは、モグラ叩きのような対症療法でしかない。

そう考えると、学校で起きている性犯罪防止の取り組みは、学校に関わるすべての人間が早急に取り組まなければならないことだといえるだろう。

性犯罪歴があっても復職できる

では、性犯罪を起こした教員は、どのような処分を受けているのか。

前出の資料によれば、処分対象者216人のうち、免職は119人、停職は50人、減給は21人、戒告は2人、訓告等は24人だ。

被処分者の年齢層も20代~50代以上までさまざま 出典:文部科学省『令和3年度 公立学校教職員の人事行政状況調査』

考えなければならないのは、これが意味するところだ。

懲戒免職を受ければ、その教員は教員をつづけることができなくなる。つまり、約半数は教員という職業を辞めざるを得ない状況に追いつめられているのだ(ただし、その後、民間の学習塾などに転職するケースも少なくない)。

だが、停職、減給などといった処分には、教員を辞めさせるだけの強制力がない。加害者である教員が、自ら反省して自主的に職を辞さない限り、学校の教壇に立ちつづけることが可能なのだ。
彼らはどのように教師として復帰しているのか。先の校長は次のように語った。

「先生がわいせつで処分を受ければ、しばらく仕事を休むことになります。処分が下りても、その年度中に顔を出すことはありません。学校側としても、そんな先生を生徒の前に出すリスクをわかっています。

なので、一般的には処分が明けると同時に、先生は別の学校に転勤になります。そうなると、彼らは自分が事件を起こしたことを知らない先生や生徒の中で一から教員生活をスタートできるのです。
とはいっても、先生たちの世界は狭いので、同じ県内だといつかは噂になって、そういう場合は他県へ移ってそこで教員をやる、というケースがあるようです」

本記事で書いた冒頭の教師の場合は、インターネットの掲示板等に、実名と共に性犯罪をしたという記録が残っていたそうだ。だから、生徒や親がそれを検索し、事実をつかむことができた。

深刻な教員不足も遠因

しかし、懲戒処分にならないような事件は、インターネット上に記録が残る可能性はほとんどない。それゆえ、生徒や親が事実を把握するチャンスはゼロに等しいといえるだろう。
さらに、前出の校長は言う。

「もうひとつ懸念しているいのは、性犯罪を起こしても表に出てこなかったり、保護者との話し合いで示談になっていたりするケースが少なからずあるということです。そうなると先生は処分の対象にすらなりませんし、管理職ですら把握できないこともあります」

現在、学校では教員不足が深刻な問題になっている。教員のなり手がいなかったり、産休や病欠等が多かったりして、学校運営が回らない状況が起きているのだ。地域によっては闇雲に教員をかき集めざるをえないことになっている。

――うちの学校の先生が以前、性犯罪を起こした人なんです。

そんな言葉が飛び交わないようにするためにも、国は学校を子供にとって安全で安心な空間にする努力をしなければならないだろう。

取材・文/石井光太

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