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なぜ脳は脂を要求するのか? 死亡リスクを劇的にあげる脂質中毒の原因は、自己責任だけでなく、厄介な「脂依存症」だった!

集英社オンライン / 2023年3月18日 13時1分

肉類や油っこい料理がそこまで好みでなくても、脂質中毒になっている可能性がある。なぜ脳が脂を要求するのか、医学博士、岡部正先生の著書『脂質中毒 脳は「脂」を欲するようにできている』(アスコム)より一部抜粋、再構成してお届けする。

脂質中毒になると死亡リスクが劇的にアップ!

みなさんは「脂質中毒」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
あまり耳慣れない言葉かもしれません。しかし今、油や脂を必要以上に摂りすぎてしまう、やめたくてもやめられない、そんな脂質中毒になる人が増えてきています。
すでに健康被害も続出しています。
脂質中毒に陥るとどうなるのか?
がんによる死亡リスクと、脳梗塞、心筋梗塞などで死亡するリスクが、飛躍的に高まります。
これはデータに顕著に表れています。


さらに、あぶらを摂りすぎると肥満になりやすいので、ありとあらゆる病気の引き金になります。
認知症になりやすいというデータもあります。
そんな厄介な中毒にはなりたくないですよね。

しかし、脂質中毒が問題なのは、それを自覚しづらい点にあります。
脂身たっぷりのステーキや、揚げ物を毎日たくさん食べるという方は、脂質中毒になっている危険性がもちろん高く、自身でもあぶらを摂りすぎているという自覚があると思います。

しかし、肉類や油料理がそこまで好みではない人や、ましてや意識してあぶらを遠ざけている人であっても、じつは脂質中毒になっていたというケースがよくあるのです。
「私は自制できているから大丈夫」と安心しているあなたも、すでに脂質中毒になっているかもしれません。

中毒になるのは自己責任だと思っておられるでしょう。アルコール依存症は体調が悪くなっているのを知りながらお酒を飲み続けたから、ニコチン依存症は意志が弱くてタバコをやめられなかったから、薬物依存症なら法律を無視してまで快楽に浸ってしまったから、彼ら彼女らは自己責任で中毒になったのだと……。

ところが、脂質中毒は、これらとは大きく異なります。自己責任とはいえない面が多大にある厄介な依存症です。
脂質中毒が生まれる理由は大きくいうとふたつあって、ひとつは「生理的」な理由、もうひとつは「社会的」な理由です。
脂質中毒とは、そもそもいったいなんなのか?
そのメカニズムについて説明していきたいと思います。

あぶらを欲するのは人間の本能

最初に説明しておきますが、本書には「脂質」と「脂肪」という単語が多く出てきます。どちらも同じ意味ですが、基本的に「脂質」は食物を食べたときに得られる脂肪、「脂肪」は体につく脂肪に使っています。また、「脂」「油」「あぶら」
という言葉もたくさん出てきます。おもに「脂」は肉類などの動物性脂肪(常温で固体)、「油」は植物や魚からとれる植物性脂肪や魚油(常温で液体)、「あぶら」はその両方を指します。

まずは「生理的」な面から説明していきましょう。
話は太古の昔にさかのぼります。
ヒトが誕生したのは200万年前、現在の人類につながる新人類が誕生したのは20万年前と考えられています。

想像してみてください。我々の祖先はいつもおなかをすかせていました。農業も畜産業もないのですから、食料は自らの手で探し出して、採って、捕まえて、食べるしかありませんでした。食料が豊富な夏の季節ならまだしも、植物が枯れ、動物が動かなくなる冬になると、常に飢えと隣り合わせにいたはずです。

飢餓に備えるため、しばらく食べなくても大丈夫なように、人はエネルギーを蓄えておくことができます。それが体につく脂肪です。
エネルギーを蓄えるために、最も効率的なのは、脂質を摂ることです。
穀物などに多く含まれる炭水化物(糖質)や肉や魚に含まれるたんぱく質は1グラムあたり4キロカロリーですが、油や脂(脂質)は1グラムあたり9キロカロリーのエネルギーを含んでいます。

炭水化物の倍以上のエネルギーがあるのですから、飢えに備えるために、脂質を摂るのはすごく効率的ですよね。
おそらく、脂質を上手に摂ることができ、脂質を「おいしい」と感じる味覚を持ち、たくさん食べてきた祖先のほうが、飢えをしのぐことができ、子孫をたくさん残すことができたはずです。

我々は、そんな油や脂で飢えをしのいできた人類の末裔です。
つまり「あぶらを摂れ」「あぶらはおいしい」という本能が残っている
のです。

あぶらのしっとりとしたまろやかな食感を、脳が好むのはこのためでしょう。
大昔は食料を探し出すのが大変でしたが、現代は食べ物があふれています。米も豆も肉も魚も野菜も、お店に行けばすぐに手に入ります。
しかし、本能レベルには「あぶらはおいしい」と感じる力と、「あぶらを摂れ」という意識があります。そのため、脂質でエネルギーを補給しなくても問題ないのに、ついつい脂質を摂りすぎてしまい、脂質中毒になってしまうのです。

「脂肪味」の鈍化が脂質中毒への第一歩

本能という抽象的な話から医学的な話に移りましょう。
長い間、人間の舌が感じる味覚は5つあるとされてきました。「甘味」「塩味」「酸
味」「苦味」「うま味」です。
味覚は必要な栄養を摂取し、危険な食べ物を避けるために備わっています。甘味はエネルギー源となる糖質を、塩味は必要な栄養素のミネラルを、うま味はたんぱく質を摂取するためにあります。酸味は腐敗した食べ物を避けるため、苦味は毒を避けるためにあります。
物を食べると、舌にある味蕾という器官が、これらの味覚を感じて脳に伝え、脳が消化器官に指令を与えて対応を始めます。

2018年10月、九州大学のグループが、味覚に関する新たな発表をしました。
6つ目の味覚、「脂肪味」が存在することを突き止めたのです。
そのメカニズムはほかの味覚と同じで、あぶらを食べると味蕾が脂肪を感じて脳が指令を伝えます。人は「あぶらはおいしい」と感じる味覚を持っていたのです。
問題なのは、ほかの5つの味覚よりも、脂肪味の感じ方は個人差が大きいという点です。
砂糖や塩が多すぎる料理は誰もがマズイと感じます。
しかし、あぶらを感じとる脂肪味の力は微細で、多い少ないを誰もが明確に感じとるのが難しいようなのです。

ほかの5つの味覚よりも解明が遅くなったのも(うま味は20世紀初頭に日本で発見、それ以外は19世紀以前に発見)、舌の脂肪味の力が微細だったからかもしれません。

ただでさえ量を感じとるのが難しいのに、あぶらを大量に、それも毎日のように食べ続けていると、脂肪を感じる味蕾の細胞はさらに鈍くなっていきます。
余談になりますが、繁華街に行くと、とんでもない量の脂が入ったアブラマシマシで有名なラーメン店を見かけますが、あれは脂肪味が鈍感になった人を商売相手にしているのではないでしょうか。
ひょっとして(とりわけ女性は)、「私はあぶらを毎食、毎日食べないから大丈夫」と思うかもしれません。

しかし、詳しくは「社会的」な理由の項目で説明しますが、今の食べ物、とくに市販されている食べ物には、必ずといっていいほど、油や脂が添加されています。本人はあぶらを食べているつもりはなくても、気をつけておかなければ、知らず知らずのうちに脂肪味は鈍感になっていくのです。

人間の脳内には「報酬系」と呼ばれる部位があり、ここが刺激されると快感を得ます。
あぶらの入ったおいしい料理を食べると、ドーパミンという化学物質が活性化され、この脳内報酬系が刺激されます。アルコールや麻薬で快感を得るのも、この報酬系のシステムによるものです。

人は快楽原則にのっとって生きているので、「もっと気持ち良くなりたい」と思い、ドーパミンを出すために、徐々にあぶらの摂取量が増えていってしまうのです。

満腹中枢が損なわれるので、さらなる暴飲暴食に

また、脳の視床下部には「満腹中枢」という満腹感を得る部位があります。あぶらを摂り続けていると、この部分のコントロールが乱れ、満腹感をなかなか感じなくなってしまいます。これもあぶらを大量に摂ってしまう原因になっています。
脂肪味が鈍感になる

気持ち良くなるために過剰にあぶらを摂るようになる

満腹中枢のコントロールが乱れて満腹感を感じなくなる

気持ち良くなるためさらに過剰にあぶらを摂る

完全なる負のスパイラルで、これは薬物中毒のそれとまったく同じ。こうして人は脂質中毒に陥り、抜け出せなくなっていくのです。
現在は炭水化物を減らす糖質制限ダイエットが大流行しています。
しかし、じつは肥満の原因が糖質にあるのではなく、飽和脂肪酸の摂りすぎによる、食欲調整機能に乱れが出ているのが原因というケースが、かなり存在すると考えられます。

脂質中毒になる「生理的」なおもな理由をまとめると、次のようになります。
① 人間には「あぶらをおいしい」と感じる本能がある
② あぶらを感じる味覚は備わっているが微細で鈍感になりやすい
③ 快感を味わいたいのであぶらを必要以上に摂りすぎてしまう
④ 満腹中枢が損なわれるので、さらなる暴飲暴食につながりやすい
本能に従っていると、現代人は脂質中毒になってしまうリスクが高いのです。

中毒の大きな原因のひとつが「生理的」と書いたのはそのためです。

外食・中食の多い人は要注意!

「人間は獣ではないのだから、本能も抑制することができるはずだ」こう考える人もいるでしょう。しかし、現代の日本は、脂質中毒が生まれやすい社会構造をしています。極端
ないい方をすると「社会が脂質中毒を作り出している」面があるのです。
脂質中毒が生まれやすい「社会的」な理由とは、なにはさておき食生活の変化です。
日本では1970年代あたりから外食産業が急成長を始め、それまでは特別なものだった外食が、とても身近なものになりました。
外食産業の市場規模は、今や約27兆円といわれています。食品小売市場が約48兆円ですので、ざっくりと金額ベースで考えると、日本人は3食に1食以上は外食をしている計算になります。
コンビニエンスストアが誕生したのも1970年代(1973年)です。
50年前にできた便利なお店は、現在は店舗数が約5万6000軒に増えました。
その市場規模は約11兆円に膨らんでいます。
聞くところによると、最近は自宅には食器はおろか箸すら置いていない若者もいるようです。朝はファストフード、昼はファミレス、夜はコンビニ弁当とドリンクを買って帰る、というような生活を送っていれば、食器も箸も必要ありません。
半世紀ほど前までは、食材を買ってきて、自宅で料理もお弁当も作らなければならなかったのに、今はそんな手間が省けてしまう。とても便利になったと思います。
しかし、ここに脂質中毒が生まれる原因があります。

外食は脂肪の摂取量が増えやすい

自炊の料理に比べると、外食は脂肪の摂取量が増えやすい傾向があります。
外食産業の売上1位は某牛丼店、2位はハンバーグが有名なファミリーレストラン、3位は某ハンバーガー店、4位は焼肉屋などを中心とした居酒屋グループ、5位は別の某牛丼チェーン……。
全体的に肉類を扱うお店が多いという事実があるとはいえ、見事なまでに脂を多く含んだ牛肉を扱う会社が上位に入っています。
そして、肉類以外の料理であっても安心はできません。
外食で提供される料理には、脂肪が添加されていることがよくあるからです。
料理にあぶらを加えることにより、味にパンチが出て、食感はまろやかになります。
お客さんは、薄味のボソボソ・パサパサした料理よりも、濃厚な味・しっとり・ねっとり食感の料理を好みます。お客さんに満足してもらい、リピーターになってもらうためには、あぶらは重要な武器になるのです。

同じことは中食にもいえます。持ち帰りのお弁当やお総菜は、炊きたて・作りたてではありません。炊きたて・作りたてに近いおいしさを感じさせるために、ご飯類や麺類にもあぶらをどんどん加えて、味を際立て、食感を良くしています。
同じ理屈で、冷凍食品やインスタント食品などにもあぶらが入っています。

昔は、家庭で料理をして食事をするのがあたりまえでした。しかも昔は肉類が高価だったので、ご飯、味噌汁、野菜、魚を中心にした食事をしていました。必要以上のあぶらが付け入る隙のない食生活でした。

それが、外食・中食を中心とした食生活になると、自炊よりもあぶらの摂取量が多い食事が増えることになります。
先ほど説明したように、連続してあぶらを摂ると、舌の脂肪味は鈍感になり、満足感を得るためには、さらに大量のあぶらを食べる必要が出てきます。そしてさらに舌は鈍感になっていく……。

外食・中食産業の戦略が、脂質中毒の悪循環を生み出している面があるのです。
ドキッとされた方も多いのではないでしょうか。

『脂質中毒 脳は「脂」を欲するようにできている』(アスコム)

岡部正

2022/12/16

1,320円(税込)

176ページ

ISBN:

978-4776212553

私が岡部クリニックを開業してから25年以上が経ちました。これまで診てきた、糖尿病をはじめとする生活習慣病に苦しむ患者さんや、肥満を解消したいと願う方々は数知れません。いつの時代も、みなさんが抱えている悩みは深刻です。ただその間、傾向に変化が見られたり、私自身が新たに発見したりしたことがいくつかあります。
その最たる例が「脂質中毒」です。
お菓子好きの女性の患者さんを大勢診てきて、当初は糖質中毒が病気に大きく影響していると考えていました。しかし、あるとき気づいたのです。その大半が〝洋菓子派〟であり、
〝和菓子派〟は極めて少ないという事実に。すると今度は、糖質をあまり摂っていないうえに、見た目に太っていない人が身体の異常を訴えているケースに
とくに目がいくようになりました。そして、脂質中毒の存在にたどり着いたのです。
日本人の食の欧米化が進み、寿命や生活習慣病の発症率に変化が生じました。
そろそろ、なにかしらの手を打たなければなりません。だからこそ、私は本書を通じて
脂質中毒への効果的な対策を発表することにしたのです。脂質中毒は自分で気づきづらいだけでなく、自分の意思で治すことも非常に難しい症状です。
そのことを、本人のみならず、周囲のみなさんもしっかり理解して、改善に向けて全力で取り組んでいっていただきたいと思います。
【こんな人は危険!あなたは大丈夫?】
□ 和菓子よりも洋菓子が好き
□ 夜食や間食をとる習慣がある
□ 焼肉は赤身よりもカルビが好き
□ お腹がいっぱいでも好きなものは別腹
□ 退屈になるとなにかを食べる、食べてしまいたくなる
□ ストレスがあるとなにかを食べる、食べてしまいたくなる
□ コロナ禍でデスクワークの時間が2時間以上増えた
□ 20歳のころよりも体重が5㎏以上増えた
1つでもあてはまる人は「脂質中毒」の可能性大!いますぐ本書を読んでください。

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