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『タモリ倶楽部』は唯一無二。出演ライターだからわかる、オンリーワン番組だった理由とタモさんへの感謝

集英社オンライン / 2023年3月31日 11時1分

「空耳アワー」をはじめ個性的な企画で、40年間深夜を賑わせた『タモリ倶楽部』が3月末で終了する。番組への出演経験もあるライターの前川ヤスタカが、出演時の思い出とタモリの印象や偉大さ、そして後継番組不在となる『タモリ倶楽部』なき未来を考察する。

2008年に素人趣味人として出演した時の思い出

『タモリ倶楽部』(テレビ朝日)が今年の3月末をもって終了する。1982年から約40年続いた番組がついに流浪の旅を終えてしまう。

私は幸いにも素人趣味人として、2回出演させていただいた(「換気口鑑賞」と「八重歯」)。
世の中には、『タモリ倶楽部』に出られる人生と、出られない人生があり、自分が出られる側だったことに誇りを持っている。



最初に出演オファーをいただいたのは2008年。当時『タモリ倶楽部』は今以上に素人趣味人を多く出演させており、私の周囲でも声がかかっていた人が何人かいた。

私自身も色々と手を出していた時期で、あわよくば何かが『タモリ倶楽部』スタッフの方の琴線に触れればいいなと思いながら、休日にカメラ片手に変なものを撮ってはウェブサイトで紹介したりしていた。

番組からのオファーは「ビルの外壁の換気口を撮影する人」

結果「ビルの外壁の換気口を撮影する人」としてオファーをいただけたのだが、悩ましかったのは身バレ。実家の親にも会社にも特に言わずに休日趣味人を貫いていた私にとって、『タモリ倶楽部』に出ればかなり面倒なことになる。

とはいえ、『タモリ倶楽部』出演はサブカル団塊ジュニアにとってTo Doリストの一番上にあるタスク。そのリスクを考慮しても断る選択肢はなかった(ちなみにサブカル団塊ジュニアTo Doリストには他に「ロフトプラスワン系列でイベント」「TV Bros.で署名記事」「Quick Japanで署名記事」「単著発売」などの項目があった)。

当日は外ロケの予定が天候の関係でスタジオ収録になるなど、思ったようにはいかなかったが「世界でこれを撮影しているのは私ひとり」「換気口撮影のポイントは高さと汚れ」「聖地は新横浜」など勝手に決めたルールを堂々と語る私を、タモさんは面白がってくれた(タモリ倶楽部出演者あるあるとして、出演後「タモさん」と呼ぶようになるというのがある)。

当時、タモさんは63歳で「近くで見ると意外と普通のおじいちゃんだな」と思ったのが第一印象だった。しかし、話してみると当然ただのおじいちゃんではなく、とにかく力が抜けていて、それでいて合気道の達人のようなすべてを受け止めるしなやかさや、哲学者のような思考の深さを感じさせる。そんな人だった。

素人趣味人にとってタモさんに認められることは財産

オンエア後、実家の仙台では『タモリ倶楽部』が放送されていなかったので親バレはしなかったが、職場にはバレて少々面倒なことになった。しかし後悔はしていない。

この「換気口の写真を撮る奇特な人」は幸運にもタモさんの印象に残ったようで、その後『笑っていいとも!』(フジテレビ)のテレホンショッキングで2回ほど「こんな変わった人がいた」という内容で触れていただいた。

さらには昨年末の『徹子の部屋』(テレビ朝日)出演の際、「いろんな趣味を面白がってきたけどこの趣味だけはわからなかった」という文脈で、換気口の件を話しておられた。

出演したのは15年前だが、まだタモさんの頭の片隅に私の趣味が残っていたことに驚くとともに、誇らしくもあった。
それほどに趣味人にとってタモさんに認められるということは大きい意味を持っている。

バラエティ番組としては面白いとしても…

それにしても、『タモリ倶楽部』がなくなってしまった後、こういう変わった趣味を持つ人の受け皿はどうなってしまうのだろう。

いや、最近は『タモリ倶楽部』でも素人趣味人の出演は減っているし、他にもそういう人が出るテレビ番組あるじゃんと言われる向きもあろう。

しかし違うのだ。

他の番組はテレビのどうしようもない性(さが)として素人をいじってしまう。その趣味をその趣味のままで受け止めず、料理しようとしてしまうのだ。

たとえば『マツコの知らない世界』(TBS)や『激レアさんを連れてきた。』(テレビ朝日)は、いずれも変わった人を紹介する番組だが、基本的にその番組のテンプレートにはめこみ、マツコ・デラックスやオードリー若林があれこれコメントするスタイルだ。

この形式であればテレビバラエティとして面白みは増すし、何より番組として安定はするだろう。当然にしてこれはこれで正解であるし、間違っていると言うつもりもない。
しかし趣味人にとってここに出ることは誇りだろうか。

『タモリ倶楽部』のタモさんは何が違うのか

誤解のないように言っておくが、マツコや若林が悪いのではない。彼らはそういう役割を期待されているし、番組として成立させるために一流の料理人として腕を振るっている。時にはできるだけその素材の良さを引き出そうと努力してくれたりもする。

しかし、調味料をたくさん加えれば加えるほど、盛り付けをきれいにしようとすればするほど、趣味人の考える「本質的なその趣味の魅力」は見えなくなってしまう。

『タモリ倶楽部』は違う。いや正確にいえば『タモリ倶楽部』のタモさんは違う。

趣味人と同じ目線で、ただその趣味をそのまま味わってくれる。もちろんタモさんの口に合うこともあれば、合わないこともある。しかし合わなくても、そこで無理に合わせようとしたりはしない。番組を成立させることに気を取られることなく、ただただ趣味に向き合ってくれる。

そこにはタレントと素人という壁はなく、人と人とのコミュニケーションがあるだけだ。

テレビタレントでそこまでの境地に達する人が、今後そう簡単に出てくるとは思えないし、出てきたとしてそれを許す番組もなかなか作れるものではない。

『タモリ倶楽部』のような唯一無二に
再び出会うことを願って

『タモリ倶楽部』の番組終了にあたって、テレビ朝日のコメントは「番組としての役割を十分に果たした」というものだった。

本当にそうだろうか。

もちろんタモさんも77歳でいつまでもお元気とは限らないし、ご健在なうちに幕を引くというのも一つの考え方だろう。

しかし「番組としての役割」はタモさんが生きて『タモリ倶楽部』を続けているかぎり、なくならないのではないだろうか。そのくらい『タモリ倶楽部』は唯一無二の番組だった。

4月以後、行き場のなくなった趣味人たちは流浪の旅に出ることになる。
再びタモさんの境地に達した誰かが、流浪の番組を始める日を待ち望みながら。

文/前川ヤスタカ イラスト/Rica 編集協力/萩原圭太

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