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「タタキ(強盗)をやれ」…拒否すると「妻と娘を殺すぞ」「ツイッターで免許証をさらす」 闇バイトから特殊詐欺、強盗へ凶悪化させられてしまう泥沼へのカラクリとは?【新聞記者が解説】

集英社オンライン / 2023年3月16日 18時1分

まもなく発生から2カ月を迎える狛江強盗殺人事件をきっかけに大きな話題になった「闇バイト」。SNSの闇バイト募集から簡単にリクルートされた若者たちが特殊詐欺や凶悪犯罪に手を染める実例を取材し続ける、神奈川新聞の田崎基(もとい)さんに、その実態を聞いた。

1月19日に発生した狛江市の強盗殺人事件の現場付近 写真/集英社オンライン編集部ニュース班

凶悪事件の背景にひそむ特殊詐欺

「もう本当に家族が殺されると思って……。やりたくなかった。でも、もうやるしかないかと……」

当時29歳の男は、横浜地裁の法廷で言葉を詰まらせ泣きじゃくった。

男は横浜市や川崎市で連続発生した緊縛強盗事件で逮捕されたが、凶悪犯から飛び出した発言とはまるで思えない。追い詰められていた様相がありありと浮かんでくるようだ。



全国で被害が相次いでいる強盗事件。近年、逮捕者で目立つのが、彼らが特殊詐欺の末端である「受け子」(被害者宅で現金などを受け取る役割)や「出し子」(だまし取ったキャッシュカードで現金を引き出す役割)を担っていたという背景だ。

「彼らへの取材を続けていると、次第に指示役の組織に逃げ道をなくされて、やむにやまれず犯行におよんでしまうという実態が見えてきました」

神奈川新聞報道部デスクの田崎基さんはそう話す。

田崎基さん

田崎さんは、裁判を傍聴し被告人の声に耳を傾ける中で、報道では明らかにされない事件の背景や経緯を知り、驚きを隠せなかったという。

「殺人未遂事件の裁判の傍聴に行くと、冒頭陳述で突然『特殊詐欺』というワードが出てきたんです。

被告は、元交際相手の20代女性の顔を切り裂き、サバイバルナイフの刃先が脳に達するほどの重傷を負わせた。

ただの殺人未遂事件ではなかった。特殊詐欺に加担する中で心理的に追い詰められた被告が、詐欺を紹介した男を殺そうと向かった先に偶然いた元交際相手を刺してしまったという顛末でした。

その後、横浜・保土ヶ谷で現金1200万円とキャッシュカード20枚が奪われる緊縛強盗事件が発生。取材するとこれも単なる強盗事件ではなく、特殊詐欺が発端でした。

ギャンブルをやめられず闇金に手を出し、返済のためにツイッターで『闇バイト』と検索した男が、特殊詐欺の受け子と出し子を繰り返し担当する。

指示役に誘導され、アポ電強盗を実行していた。『手っ取り早く、大きく稼ぐには、タタキ(強盗)しかない』とたたみかけられたんです」

「家族を殺すぞ」手口が粗暴化するカラクリ

特殊詐欺が凶悪化する異常性を強く感じた田崎さんは、2021年6月から2022年8月にかけて神奈川新聞で連載を執筆。追加取材も加えて再構成し、書籍『ルポ 特殊詐欺』(ちくま新書)にまとめている。

『ルポ 特殊詐欺』(ちくま新書)

「特殊詐欺」とは一般に、電話などで対面することなく相手を信頼させ、口座振込などの方法で金をだまし取る犯罪の総称である。

2009年に社会問題になり、警察が摘発を強化したことで年間被害額が100億円にまで減少したが、その後再び急増。2014年には年間565億円のピークに至った。

以降は減少傾向にあったが、2022年に8年ぶりに再び増加に転じた。警察庁の発表によれば、同年の認知件数は1万7520件、被害額は361億4000万円(いずれも暫定値)に上る。ただしこれはあくまでも認知されている事案で、実際はもっと多くの被害が出ているとみられる。

2023年1月の認知被害額は約30億円。1日あたり1億円もの金額が特殊詐欺により奪い取られている。

被害は人口密集地である関東圏が圧倒的に多い。また、コロナ禍で増加傾向になった。田崎さんはこう説明する。

「飲食店で働いていた20代前半の女性がコロナ禍でシフトが激減し、お金に困って『闇バイト』とSNSで検索。受け子を数件した後、現場で逮捕された事例がありました。

一度くらいなら大丈夫だという軽い気持ちで闇バイトを始めてしまう、生活に困窮する若年層が一定数いる。実際、加害者として関与する多くは10代から20代です」

闇バイトの入口はだまし文句で塗りこめられ、あたかも気軽に稼げるバイトだと訴えかけてくるという。

そうして借金や困窮で追い込まれている若者が安易に特殊詐欺に加担してしまい、「やめたい」と思ったときにはもはや抜け出せない。

闇バイトを始める前に身分証などの個人情報を指示役に提供しているケースが多く、「ツイッターでお前の免許証の写真をさらす」「家族を殺すぞ」などと脅されるからだ。

冒頭の29歳の男は、「妻と幼い娘を殺すぞ」と脅迫され、愛知、千葉、神奈川と転々とさせられながら矢継ぎ早に強盗を強いられた。まるで指示役の操り人形である。

「特殊詐欺を入口にして、上からの指示がどんどん過激になっていくんです。手っ取り早く“売上”を稼ぐためです。

しかも指示役は、末端からすると会ったこともない人間。でもこっちの個人情報は相手に握られている。

四六時中、『テレグラム』という匿名性の高いアプリで連絡が入り、少しでも返信が遅れたり犯行を拒むと脅され、極限状態に追い込まれる。こうして犯行に及んでしまう構図ができています」

特殊詐欺、闇バイト根絶に向けて
「全世代にできることがある」

若年層への啓発を特に強化すべきだ、と田崎さんは訴える。

「子どもから大人まで、いまや特殊詐欺を知らない人はいません。けれども被害はなくならないどころか手口が巧妙化して粗暴化している。

私が知っている加害者の最年少は14歳です。今は小さい子どもも普通にスマートフォンを使う時代。ライブに行きたい、ほしいものがあるという安易な理由で闇バイトを探してしまう。

向こうも『大丈夫だ』と安心させながら誘惑してくるので、簡単に引き込まれてしまう実態がある。でも一度やってしまったら逃げられないんです。

学校への出前授業などで実例を取り上げながら、闇バイトの恐ろしさを執拗に伝えるべきです。末端の担い手が不足すれば、必然的に被害も減っていきます」

また、田崎さんは高齢者への啓発は今まで通り続けるべきだと主張しながらも、「現役世代には、自分たちが相続する遺産がかすめ取られていると思って死守に回れと伝えたい」と語気を強める。

「親族に電話して、現金を家に置いていないかをまず確認する。置いているのであれば、置かせないようにする。そして、口座の引き出し上限金額を引き下げてもらう。

これだけでも万が一被害に遭った際に被害額を最低限に抑えられます。あとは自分の名前を名乗って、こまめに電話することです。全世代にできることがあります」

誰もがだまされてしまう可能性があると田崎さんは続ける。

「詐欺なので、すべてが嘘から始まっている。つまり、手口は無限にあるんです。根も葉もないことを言い、複数の人間を登場させながら相手を翻弄させ、思考停止に陥らせる。私でさえだまされるのではないか、と思うほどです」

取材・文/高山かおり
撮影/岡庭璃子

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