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《WBC優勝!》「中学時代に由伸が本気で走っている姿を見たことがない」。野球が飛び抜けて上手い選手ではなかった山本由伸が抜群に上手かった、大人たちの目をかいくぐる処世術

集英社オンライン / 2023年3月21日 12時1分

3月22日、WBC決勝戦に挑む侍ジャパン。準決勝・メキシコ戦で重要なマウンドを託された日本のエース・山本由伸の生い立ちに迫った『オリックス・バファローズはいかに強くなったのか』(日本文芸社)より一部抜粋、再構成してお届けする。(前後編の前編)

NPB史上初となる、2年連続〝投手四冠〟の偉業

現在、「NPBナンバーワン投手は誰か?」という問いは、愚問に近い。少しでも野球を知っている人間なら、そのほとんどがこう答えるだろう。

山本由伸――。

宮崎県・都城高校から2016年ドラフト4位で指名を受け、オリックス・バファローズに入団。高卒1年目から一軍デビューを飾ると、2年目の2018年にはセットアッパーとして試合に登板。4勝2敗1セーブ、ホールドを記録する。



本格的に先発に転向した2019年は試合の登板で8勝6敗、防御率1.95をマークし、最優秀防御率のタイトルを獲得。2020年はコロナ禍で短縮シーズンとなったが試合の先発で8勝4敗、防御率2.20、奪三振149で奪三振王に。

そして、2021年には試合、18勝5敗、防御率1.39、奪三振206という異次元の記録を叩き出し、チームのリーグ優勝に貢献するだけでなく、最多勝、最優秀防御率、最高勝率、最多奪三振の投手四冠を達成。投手四冠はチーム史上初の快挙だった。また、同年には侍ジャパンとして東京五輪に出場し、金メダルを獲得している。

さらに翌2022年、試合、15勝5敗、防御率1.68、奪三振205を記録し、プロ野球史上初となる2年連続投手四冠に輝いてリーグ連覇、日本シリーズ制覇も達成。

沢村賞、MVPも2年連続で受賞するなど文句なしの結果を残し続けている。

150キロを超えるストレートに加え、フォーク、カットボール、スライダー、シュート、カーブという多彩な変化球を投げ分け、そのどれもが超一級品。球速、変化球のキレ、制球力といった投手に必要なファクターをすべて兼ね備えている。

2022年シーズンを終了した時点で、まだプロ6年目の24歳。

誰もが『NPBナンバーワン投手』と認めるバファローズのエースだが、ドラフトでの指名順位が4位だったことからもわかるように、アマチュア時代は決して全国に名を轟かせるような投手ではなかった。

「決して『飛び抜けて上手い』というわけではなかった」

都城高校時代は、最速150キロを超える速球派として鳴らしたものの、甲子園出場経験はなし。全国的には無名の存在だった。

ドラフト当時、同級生で注目された選手は、今井達也(作新学院/埼玉西武ライオンズ1位指名)、寺島成輝(履正社/東京ヤクルトスワローズ1位指名)、藤平尚真(横浜/東北楽天ゴールデンイーグルス1位指名)といった甲子園で活躍した投手たち。

しかし、プロ入り後の活躍、残した実績は同期の甲子園スターをはるかにしのぐ。プロ入りから数年で球界最高峰の投手まで上り詰めた山本由伸。そのルーツを探るべく、彼の出身地、岡山県を訪れた。

JR岡山駅から車を走らせること10分ほど。岡山三大河川に数えられる旭川の分流・百聞川の河川敷に、山本少年が中学校時代に所属した東岡山ボーイズの専用グラウンドがある。駐車場に車を停め、グラウンドまで歩いていくと、一歩踏み出すごとに無数のバッタが飛び跳ねる。虫が苦手な人であれば、ちょっとたじろいてしまうほどの量だ。

グラウンドの奥には岡山丘陵の山々と、青々とした空が広がる。岡山駅の中心地からそこまで距離はないものの、豊かな自然を感じるには十分すぎる景色だ。

山本少年が所属していた当時のことを話してくれたのは、東岡山ボーイズの代表・ 藤岡末良さん、監督の中田規彦さん、副代表の豊田裕弘さん、コーチの片山勇人さん の4人。全員が、中学校1年生から卒団する3年生時まで、山本少年を指導した面々だ。

東岡山ボーイズはもともと、代表の藤岡さんが中心となって立ち上げたチーム。岡山県内では初のボーイズとして1988年に創設されている。

そんな歴史あるチームに山本少年が入団したのは、中学校入学とほぼ同時期。当時のことを、指導者たちはこう語る。

「背も低くて、線も細い子でした。器用なタイプではあったけど、決して『飛び抜けて上手い』というわけでもない。ウチには毎年1年生が入団してきますけど、どこにでもいるような普通の選手でした」

〝日本のエース〟の中学時代は小柄で器用な二塁手兼投手

東岡山ボーイズに入団する前、小学生時代は地元の軟式少年野球チーム『伊部パワフルズ』に所属していた山本少年。

2学年上には現在もチームメイトである頓宮裕真がおり、彼と実家が隣同士だったのは有名な話だ。6年生時には全国大会にも出場し、神宮球場のマウンドも経験している。

「ただ、入団したときはピッチャー用ではなく内野手用のグラブを買ってきていました。本人もいきなりピッチャーをやろうとは思っていなかったんじゃないですかね。ノックでもセカンドに入っていましたね。ユニフォームがブカブカで、法被みたいになっていましたよ(笑)」

入団当初のポジションは内野手。それもセカンドが主戦場だった。上級生になり、投手を務めることになっても、セカンドとの併用は変わらなかったという。

「打順も2番を打たせていました。2番セカンド兼ピッチャー。小柄な選手らしい器用さとセンスはありましたね。足は〝中の上〟くらい。ただ、本気で走っているのは見たことがない(笑)」

本気で走っている姿を見たことがない――。

当時の山本少年は、抜くところは上手く抜いて、大人たちの目をかいくぐる術に関 しては抜群だったと、指導者のみなさんは笑いながら話してくれた。

「怒られないギリギリのラインを見極めるのが上手いんですよ。『あれ? ちょっと 手を抜いているかな?』と気付かれた瞬間に少し力を入れたり。それが続いていい加 減注意しようかと思うと、今も変わらないですけどあのクシャっとしたかわいい笑顔 でこっちを見つめてくる。そうなると肩透かしを食らってしまって叱ることもできない」

中学3年時はエースではなく背番号『4』

野球の技術はもちろん、処世術でも器用さを発揮した山本少年。

ただ、試合に出るようになったのは2年生になってから。その事実からも、彼が決して〝スーパー中学生〟だったわけではなかったことがわかる。

「おそらく、2年生で一度だけ試合に出たことがあったと思います。ただ、そのときは緊張でなにもやれずに代えました。下級生のころから上級生と一緒に試合に出るような、そういう選手ではなかったです」

3年生になり、ようやくレギュラーの座をつかんだ山本少年だったが、背番号はエースナンバーの1番ではなく、4番。日本のエースが、中学校時代はエースではなかったというのも驚きだ。

「由伸ともうひとり、馬迫宙央というピッチャーをやれる子がいて、その子が1番をつけていましたね。当時は彼と由伸がチームの二枚看板。ピッチャーとしてどちらかが優れていたわけではなく、単純に由伸はセカンドもやれるから4番をつけさせていただけです」

投手としてのライバルは同級生のエース・馬迫少年。練習で手を抜くのも一緒だったそうだ。

「小学校時代から地区も一緒だったからライバル意識はあったと思いますけど、仲も良かったですね。中学校3年まで、ピッチャーとしての力量は互角。大事な試合でもふたりとも投げさせていました」

中学3年時の山本少年は、決して剛速球を投げるタイプではないがコントロールが良く、緩急で打たせて取るタイプの投手だった。当時から球種も豊富で遊び心があり、今も投げている大きなカーブはそのころから決め球として使っていた。

また、現在の山本由伸を象徴する〝やり投げ〟を参考にした独特のフォームはプロ入り以降に完成されたもので、当時はいわゆるオーソドックスな右のオーバースロー。
「ヒジをきれいに抜いて投げられるタイプで、いわゆるお手本のようなフォーム」だったそうだ。

チームとしては2年春と3年春に中四国大会に出場し、3年夏、最後の選手権大会で全国にも出場。山本少年以外にも強力なメンバーをそろえ、地域では強豪チームとして鳴らした。

指導者4人が口をそろえて「キャプテンは無理(笑)」

そんな東岡山ボーイズの中心選手だった山本少年。たとえば、キャプテンを任されることはなかったのか――。そんな問いをぶつけると、指導者の4人は口をそろえて「いや、無理(笑)」と笑いながら答えてくれた。

「性格的に、決して前に出るタイプではなかったです。本人的にもやりたいことをやれなくなるから、キャプテンはちょっと……という感じでした」

エースでもなく、クリーンアップを打つわけでもなく、キャプテンでもない。全国大会に出場するほどのレベルであれば当たり前かもしれないが、当時の東岡山ボーイズは決して山本少年のワンマンチームではなかった。

「由伸よりも打つ選手は他にいましたね。2番を打たせたのはさっきも言いましたけど器用だから。送りバントや進塁打を打たせればピカイチでしたけど、ランナーを返すようなタイプではない。身長もまだそこまで大きくなくて、引退するころにようやく170センチくらいだったかなぁ……」

話を聞くと、少なくとも中学校時代までの彼が決して『特別な選手』ではなかったことがわかる。ただ、その一方、のちの飛躍を予感させるような印象的なエピソードもある。(#2へつづく)

写真:CTK Photo/アフロ

『オリックス・バファローズはいかに強くなったのか』(日本文芸社)

花田雪

2022年12月23日

1485円

ISBN:

-

近年、若手選手の台頭が目覚ましく絶えず優勝争いに絡むオリックス・バファローズ! そこに集まった選手たちは、一体どのような少年時代を過ごしたのか?
子どもの頃の姿や中学、高校時代はどうだったのか? 関係者の証言を基にそれぞれの選手たちの姿を浮き彫りにする一冊!

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