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〈学童保育のリアル〉「楽しくないとか考えたらオレ詰む」と悩む子ども。「騒げば支援員が教師に怒られる」ベテラン元学童支援員が明かす放課後児童クラブの実態

集英社オンライン / 2023年3月18日 10時1分

共働き家庭等の小学生を預かる「放課後児童クラブ」こと学童保育。前回は、「教室2部屋に120人の児童がすし詰め状態」「子供を見守る放課後支援員の半分は年収が150万円以下」など、悲惨とも言える学童保育の実態をレポートした。厚労省によれば、2022年の「学童保育」の待機児童は全国で1万5180人おり、東京・千葉・埼玉の三都県が約4割を占める。だが、地方でも政令指定都市の中心部ともなれば、学童保育室に児童たちが溢れ返り、彼らへの悪影響が懸念されているという。

支援員は教師に比べ立場が弱い

3月14日の記事公開後、「集英社オンライン」には複数の保護者や学童支援員関係者からの情報が寄せられた。今回は関東近郊のある政令指定都市で学童保育に携わっている元放課後支援員のAさんにインタビューを敢行。A子さんは現在、学童保育の現場ではなく、放課後支援員の教育や指導に携わっている。


「現場はもう崩壊しています」そう語るベテラン支援員が明かすリアルな学童の実態を詳報する。

——「#学童落ちた」と嘆く保護者の声が後を絶ちません。都心と比べて地方の学童保育は足りていますか?

数だけで言えば、東京と比べて十分に足りています。ただし、地域差が大きい。たとえば田舎でも小学校一校の子供の数は、地域によってかなり差があってまちまちです。
過疎化の学校は全校生徒が100人程度。地方でも、都市部の中心部になれば1校500人の学校もよくあります。

——地方の学童保育室の特徴は?

地方では、学校の空き教室を使っている学童が多いんです。少子化で児童の数が減ったことで、空き教室が出る。だから、学校の教室を使いなさいとなったわけです。でも、異なる年齢の子供を1つか2つの教室に、100人とか120人とかいう単位で入れると、当然ですが異常事態が起こってしまう。
視聴覚室のようなちょっと広めの特別教室に50人~60人ずつに分けたとしても、普通はそんなに子どもを詰め込んで授業は行いません。でも、学童保育の場合、それが常態化しています。

——いつから学童保育室は“すし詰め状態”に?

ここ10年ぐらいで、私はぐっと進んだなとは思っています。それまでは公民館など、独立した別の建物で学童の授業が行われていたこと多かったですね。地方は待機児童ゼロの地域もあると謳っていますが、定員オーバーでも小さな教室に押し込めば、そりゃ待機児童はいなくなりますよ。

——公民館で行われていた学童は行政から補助金が降りる「放課後児童クラブ」を指す?

そうです。地方都市も公設でやっていたんですけど、地方は少子化のあおりを受けて、独立した施設は、学校に吸収されてしまった。それと行き帰りの心配が出てきたこともあって、校内でやるっていう風習に変わってきたわけです。

——親からすると、やっぱり安心なのも背景にある?

学童の先生たちも送り迎えしなくていいので、仕事が減った。今までは施設まで学校から離れていたので、迎えに行ったりしていた。それが、学校の施設を使わせていただいている状態になるので、現場としては自由度がすごく低い。例えば、先に授業を終えて学童にきても下級生は上級生の授業が終わるまで、部屋で静かにしないといけない。

下校する生徒/写真はイメージ

——学校によっては、体育館や校庭も開放してくれるのでは?

それは校長の判断です。校長と相談して決める。学童保育の子が例えば体育館を使って何か問題を起こすとしましょう。それで学校が「もう体育館は使わないでくれ」って言ったら、それから何年間も使えなかったりする。そうなると子供たちは部屋にいること以外やることがない。仮に室内で思いっきり遊ばせでもしたら、先生から「いい加減にしてください」と教師に怒られてしまう。支援員は教師に比べ立場がかなり弱いです。

——部屋では何をして遊ぶ?

ボードゲームの類、宿題、折り紙。あと同じようなDVDをひたすら繰り返しで見ていたりします。本当にかわいそうです。子供たちも思考停止しています。

支援員が絶句した小学生から出た言葉とは…

——思考停止?

子どもたちは学童が楽しいとか、楽しくないとか、行きたくないとか、考えちゃったら終わりだと感じています。以前、学童を卒業した、5、6年生になった子供が言った言葉が衝撃でした。

『楽しくないとか考えたら、俺詰むから』『詰むから考えなかった。だって行かなきゃいけないし』
と言ったんですよ。子供たちのほうで何も考えないようにしちゃう。お父さんお母さんが働いているのを待つしかないっていう場所が学童になっている。もう子供たちが完全に思考停止状態に陥って、自分の力で何か遊びを考え出したりするような余白はあそこにはありません。

——支援員は何もしないのですか?

見ているだけだったり、気づかない人が多いですね。子どもの発達段階も理解してなければ、今この子たちに必要なものが何なのかもわからない。異なる学年の子どもたちが集まるので、ケンカもたくさんあります。学童の職員は、なぜ子ども同士のケンカが起こったかも理解していない場合が多い。学校での人間関係が原因のこともあれば、家庭で何か問題やストレスを抱えてイライラすることもあります。だから、本当はそれらをひとつひとつ掘り下げてあげないといけない仕事なんです。
でも、学童の支援員は、ケンカした児童をただ叱りつけて終わることもよくある。支援員に不適切な関わり方をされて、子供たちは不満を抱えて家へ帰る。学童が面白いと思えなくなる。それでも、子どもたちは明日、学童に行かなければならないので、ますます何も考えなくなってゆく。

——学童に通う子どもたちが思考停止しているのは何が問題の根本にあるのでしょうか?

学童側に問題があるとしたら、やはり放課後支援員の質です。支援員に子どもを遊ばせる能力がない。子どもたちを健全に育成するっていう能力に欠けています。子どもたちの放課後って何かっていうと、私たち大人で言う会社が終わった時間です。飲みに行ったりする時間。別に決して残業時間じゃない。
居場所として遊びに来ているのに遊んでないのです。だから私はたくさん遊ばせる。でも、今の支援員はとにかく怪我なく安全にという部分だけを見て、すごく指導的な立場になってしまっています。

——指導的な立場とは?

例えば、ひどい学童だとおじいちゃん、おばあちゃんの支援員が、子どもは大人に従うものだっていう感じで、正座をして遊びなさいとか平気で言う。刑務所かと思ってしまう。正座していないと怒鳴られる場合まである。そうすると児童のストレスがすごく溜まる。
あと、トイレに行きたかったら先生に言いなさいとか、何もかも先生が決めるわけです。どこで遊ぶか、何をするか。子どもが主体的に何かを決めるっていう機会を与えなかったりします。

——たしかに「正座して遊びなさい」とはひどい扱いですね。生徒のトイレの回数まで学童の支援員が管理しているとも聞きます。

学校施設を借りているからです。学校のトイレ借りているから、あんまり使わないで欲しいという学童の支援員の思いがある。例えばトイレを汚したり、トイレに行く途中で子どもが学校の先生に迷惑かけたら、学童の支援員が学校側に怒られてしまう。だからできるだけトイレに行かないでほしいとの思いがある。学校施設で学童を運営することが健全なのか、という問題がそういった場面に出てくるわけです。

100人のクラブの中で80人がコロナに感染

——支援員は、子どもを守るプロではないのか?

現在、支援員がまともに育たなくて、プロとしてやれている方が圧倒的に少ない。実は、支援員は講習を受ければ誰でもなれます。昔は質の高い支援員がたくさんいました。でも今は賃金が安い。年収で200万円以下、150万円くらいの支援員が多い。そうなると、離職率も半端ない。今やパートタイマーの方が大半です。本業の方が圧倒的に少ない。
そうなると、人出不足で誰でもいいからどんどん雇う。もちろん人によっては親身になり熱心な指導員もいます。ですがほとんどの職員は何も考えてないです。その日1日が平和に終わればいいと思っています。子どもを預ける母親の皆さんが、どんなことで困っているかも理解していない。

——世のお母さんたちが困っていることは何ですか?

やっぱりお金を払って、安心して仕事がしたいわけです。家に帰ってからの負担を少しでも軽減したいはずです。それなのに狭い教室で、もうギュウギュウ詰めのとこに自分の子が行って、家に帰ってくると『もう学童行きたくない』と文句を言う。それはそうなります。
コロナ禍で、去年の夏までは大クラスター状態でした。学童保育室で三密になっていて、100人中で80人がコロナに感染していることもざらにあったわけですよ。
学童ではそんなストレスフルな状態だから、トラブルが絶えないわけですよね。でも、子ども同士のトラブルに対して、『じゃあお母さん、あとよろしくお願いします』と学童の支援員は丸投げするわけなので。母親は後のトラブル処理もしなきゃいけないし、大変です。

「学童落ちた」のSNSの書き込みが複数みられるが、併設学童には多くの問題が…

——今、学童や支援員に求められることは何?

やっぱり現場を長く見ていて思うのは、国とか行政が、放課後支援員にどれだけの教育をしっかりさせるか。そこが求められています。
支援員の研修も、昔は自治体が行っていました。今は指導を担当する業者が入札で決まる。
研修の質もかなり落ちています。地方都市では、民間学童は高額(月に3万~7万円)ということもあって、公設が主体です。

——現在の学童の実態に対して思うことは?

民間は値段が高いから公設の学童にお願いしながら、親御さんたちは働いています。
大抵のお母さんは、すごくストレスフルです。午後6時や6時半に児童のお迎えがあると、職場を5時台に出ないといけない。皆さん、近くで働いているわけではありません。
仕事だけでも忙しいのに、学童で子どもが『今日は何々くんにこういうことを言われてすごく嫌だった』と、グズグズ言えば、もうカっと頭に血がのぼるわけですよ。
そこは放課後支援員として、『ここにいる時間は安心してください』と担保してあげるのが私たちの仕事じゃないですかっていうのが、現場にいて思うことです。

支援員さんたちに言いたいのは、あなたたちの仕事はなんですか、ということです。子どもをただハコに入れてお母さんにお渡しする仕事じゃないのです。今の学童は、子どもにも保護者にも誰にも寄り添っていないシステムになってしまっています。放課後児童対策を国なり、自治体なり、みんなで考えないと、もう無理だと感じています。


※「集英社オンライン」では、学童保育・待機児童に関するついて取材をしており、情報を募集しています。下記のメールアドレスかTwitterまで情報をお寄せ下さい。
メールアドレス:
shueisha.online.news@gmail.com

Twitter
@shuon_news

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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