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〈放送法と官邸圧力〉「『報ステ』生放送中に番組幹部に恫喝メール」「自民党からも圧力文書」元経産官僚・古賀茂明氏が明かす官邸によるメディア規制の実態

集英社オンライン / 2023年3月24日 7時1分

放送法の「政治的公平」の解釈変更をめぐる総務省の行政文書、いわゆる“小西文書”を巡り国会が紛糾している。文書には2014年から16年にかけ、安倍政権が放送メディアに圧力をかけるようになるまでのプロセスが生々しく記されているが、元経産官僚の古賀茂明氏は「それ以前から『報道ステーション』の幹部は、官邸からの圧力にさらされていた」とその内情を語る。

官邸からの抗議メールに「古賀は万死に値する」

――小西文書には2014年から16年にかけ、安倍政権が放送法の実質的な解釈変更を総務省に迫り、放送メディアに圧力をかけるようになるプロセスが生々しく記されています、古賀さんが「アイアムノット安倍」発言をして、「報道ステーション」(テレビ朝日)のコメンテーターを降板することになったのもこの時期ですね。

古賀茂明(以下同) そうです。当時、ジャーナリストの後藤健二さんがイスラム過激派組織のイスラム国に拘束され、水面下で解放交渉が進んでいました。ところが、中東歴訪中の安倍首相が15年1月17日にエジプトで「イスラム国と戦う国に2億ドルを支援する」とぶち上げてしまい、怒ったイスラム国が後藤さんを処刑してしまうということがありました。

おそらく、安倍首相は自国民の人命よりも、イスラム国と対峙する有志国連合の有力メンバーになることを優先し、イスラム国への宣戦布告に等しい2億ドル拠出を表明したのでしょう。そこで、そのことへの抗議の意も込めて、「私たち日本国民は安倍首相とは違う。どこの国とも戦争はしない。平和を望んでいる国民なんだ」というメッセージ、つまり「“アイアムノット安倍”と今こそ世界に向けて叫ぶべき」と、「報道ステーション」でコメントしたんです。

――たしか、その直後に古賀さんに対して官邸から圧力がかかったんですよね。

直後というより、「報道ステーション」のオンエア中ですよ(苦笑)。オンエア中で対応できないのに番組幹部の携帯電話に官邸から抗議のショートメールが入っていた。発信元は菅義偉官房長官(当時)の秘書官を務めていた中村格さんでした。メールには「古賀は万死に値する」とあったと聞きました。

自民党が『報ステ』幹部に送った圧力文書の中身

――中村格氏といえば、菅官房長官に重用された警察官僚で、安倍首相と親しいジャーナリストが起こしたレイプ事件の逮捕状執行を直前に止めた人ですよね。その後、21年9月には警察庁長官に就任しています。

結局、僕と番組のキャスティングなどを一手に仕切っていたMプロデューサー、さらにはレギュラーコメンテーターとして歯に衣着せぬ政権批判をする朝日新聞の恵村順一郎さんの3人が15年3月いっぱいで降板することになりました。

――時系列を整理してみます。まず、衆院解散を表明した直後の14年11月18日に安倍首相がTBS「ニュース23」に生出演し、街頭インタビューでアベノミクスを否定するコメントが多いことに立腹し、番組中に「おかしいじゃないですか!」と逆ギレしました。また、その2日後の11月20日に自民党が萩生田光一筆頭副幹事長名で報道の公平を求める文書を各テレビ局に送りつけています。そして、その6日後の11月26日に礒崎陽輔首相補佐官が総務省に電話をし、放送法4条の「政治的公平性」をめぐる解釈や運用の事例について政治レクを求めていたことが小西文書には記されています。

その頃から、テレビ朝日内で「古賀をコメンテーターとして使って大丈夫か?」という声は出ていました。私は安倍政権に批判的でしたから。また、私だけでなく、『報道ステーション』そのものが官邸から狙い撃ちにされる形で圧力を受けていました。

あまり知られていませんが、磯崎氏が総務省に最初に電話した日と同日の11月26日に萩生田名義の要望文とは別に、自民党から「報道ステーション」のプロデューサー宛てに警告のような文書が届いているんです。萩生田要望書の方は政治的公平性の確保や意見が対立する問題について、できるだけ多くの論点を明らかにすることを求める放送法4条への言及はありませんが、こちらははっきりと「放送法4条に照らして、報道ステーションの報道は十分意を尽くしているとは言えない」と明記してありました。

2014年に自民党が『報ステ』幹部に送った“圧力文書”。「放送法4条4号の規定に照らし、特殊な事象をいたずらに強調した24日付同番組の編集及びスタジオの解説は十分な意を尽くしているとは言えません」と記されている

各局の大物キャスターが「続々降板」の怪

立憲民主党の小西洋之参院議員が安倍政権当時の総務省作成として公表した、放送法の「政治的公平」に関する内部文書

――その先に待つのは行政指導、そして停波です。そうなれば、テレビ局は倒産です。

ええ、だから現場の緊張ぶりは大変なものでした。そして、実際にMプロデューサー、恵村さん、そして僕の3名の更迭および降板が決まった。政府は政治的公平について、放送事業者の「各番組全体を見て判断する」としていました。その従来の判断を覆し、「一つひとつの番組でも判断できる」と高市早苗総務大臣が答弁したのは15年5月のことです。

その影響は大きく、16年3月には安倍政権に批判的だったTBS「ニュース23」の岸井成格さん、NHK「クローズアップ現代」の国谷裕子さんといった大物キャスターらが降板に追い込まれます。しかし、実際には政府統一見解のずっと早い段階から放送法4条違反という具体的な恫喝という形で、「報道ステーション」は圧力にさらされていた。

実際、磯崎氏が、ツイッターで『自民党では、すべての番組を録画録音してサーチしています。クレームも、きちんとしていると聞いています。 偏向報道には黙って看過せず、いちいちクレームをつけるくらいの努力が今の日本では必要です』と発信したのは、前述の総務省への電話と報ステプロデューサー宛自民党の圧力文書と同日の11月26日でした。ただの偶然とは思えませんよね。

つまり、政権によるメディアの口封じは放送法4条解釈以前に完成していたんです。これは表現の自由を定めた憲法21条にも触れかねない動きで、憲法破壊も厭わない安倍政権は本当に異常な政権でした。

記者勉強会に呼んでもいない菅義偉氏が突然、現れて…

菅義偉前総理

――古賀さんは水面下で菅官房長官の秘書官から直接、圧力を受けていたわけですね。ただ、小西文書を読むと、菅さんの名前はほとんど出てきません。放送法4条の解釈変更に表立って関与しているわけではなさそうですが……

菅さんは露骨に放送法の解釈変更などしなくても、水面下で圧力をかけさえすれば、テレビ局の方で勝手に向こうが委縮や忖度をして、政権批判を自主規制してくれるという手ごたえを持っていたんでしょうね。何と言っても菅さんは凄みがある。

これは岸井さんから直接聞いた話ですが、当時、岸井さんは記者やジャーナリストを集めて勉強会を開いていたんです。ところが、ある日会場に出かけてみると、呼んでもいない菅さんがなぜか座っている。しかも、何か持論でもぶつのかと思っていたら、最後まで無言。そして、散会になるとおもむろに岸井さんのそばにやってきて、『今日は勉強になりました』とひと言だけ告げて帰ってしまう。そんなことが2度続いたそうです。

さすがの岸井さんも「あんな不気味なことはなかった。変なことはしゃべるなよと、無言の圧力をかけようとしていたのかな」とこぼしていました。

――14年3月27日に古賀さんが最後に「報道ステーション」に出演した際、「菅官房長官をはじめ、官邸のみなさんにはすごいバッシングを受けてきました」と告発し、ガンジーの言葉をフリップにして掲げたシーンは印象的でした。

この言葉は、今でもとても有益なことばだと思っています。「あなたがすることのほとんどは無意味であるが、それでもしなくてはならない。そうしたことをするのは、世界を変えるためではなく、世界によって自分が変えられないようにするためである」というものです。

これは安倍政権を批判するというより、むしろ今日のマスコミや私たち自身を戒めることばとして掲げたんです。人間は弱いものです。だから、権力に屈して自粛や忖度に慣れたり、「ひとりで声を上げても仕方ない」と諦めてしまいがちです。でも、そうやって声を上げずにいると、知らないうちに自分が変わってしまって深刻な危機や異変が起きていてもそのことに気づかなくなってしまう。そう、ガンジーは警告したんです。

気づけば、テレビ局のトップは政府要人と会食を繰り返し、政府の批判も監視もしなくなっている。声を上げる人々は次々とテレビ画面から消えている。それは私たち一人ひとりにも言えて、防衛費倍増や原発再稼働といった、本来、国民的論議が必要な問題を政権が閣議決定のみで決めても、だんまりを決め込んでいる。

いま日本の報道の自由度は世界71位にまで落ち込んでいます。なぜ、そんなことになってしまったのか? 小西文書にはその疑問を解く材料が詰まっています。その意味で総務省のパソコン内に眠っていた小西文書が公開されたことには大きな意味があったと思っています。

写真/共同通信社 AFLO

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