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人生はないものねだりの連続。映画『ファイト・クラブ』にみる、1999年のアメリカと現代の日本との共通点

集英社オンライン / 2023年3月27日 12時1分

本業の落語のみならず、映画や音楽など幅広いカルチャーに造詣が深い21歳の落語家・桂枝之進。自身が生まれる前に公開された2001年以前の作品を“クラシック映画”と位置づけ、Z世代の視点で新たな魅力を掘り起こす。

デヴィッド・フィンチャー監督の問題作

左からタイラー(ブラッド・ピット)、“僕”(エドワード・ノートン)
ロイター/アフロ

昔の作品でも見たことがなければ新作映画!

一周まわって新しく映った作品の数々をピックアップする「桂枝之進のクラシック映画噺」、今回は『ファイト・クラブ』(1999)をご紹介。

大手自動車メーカーに勤め、リコール査定の仕事で全米を飛び回る主人公“僕”(エドワード・ノートン)。
高層マンションに住んでこだわりの北欧家具に囲まれる毎日だが、どこか満たされないまま半年以上不眠症が続いている。


心療内科に相談すると、「睾丸がん患者の会合に出てみろよ。あそこにあるのが本当の苦しみだ」と言われてしまう。
言われた通りに会合に参加した“僕”は、目の前の悲劇的な人たちを前に心の安らぎを覚えた。

ある日、飛行機に乗り合わせたのは、石鹸の行商人タイラー・ダーデン(ブラッド・ピット)。危なっかしい話を聞かせてくる自信家で、“僕”とは対照的な性格の持ち主だ。
意気投合した2人はバーで飲み明かした挙句、タイラーの提案で互いを殴り合う。
殴り殴られることに生の実感を覚えたふたりは「ファイト・クラブ」という、その名の通り決闘を行う組織を立ち上げるのだが……。

大量生産、大量広告、大量消費。

この映画の主題は、行きすぎた資本主義社会へのアンチテーゼで、主人公の“僕”とは、我々のメタファーだ。
一方でタイラーは男の理想をかき集めて具現化したような性格の持ち主で、“僕”のように執着も不安もなく野生的な感覚で生きている。
“僕”にとってタイラーは、ひっくり返ってでもなりたい憧れの存在だった。

今の時代にピッタリの問題提起

ふたりが結成したファイト・クラブ、そこには睾丸がん患者の集いと同様、今の自分を変えたいと願う人々が集まり、拳をぶつけ合っている。
架空のアクションシーンではなく、人間のリアルな暴力性を包み隠さず描いているのが印象的だ。
殴ることで理想の自分に近づき、殴られることで自分が生きていることを実感する。
身体性を取り戻すという意味では、ある種のマインドフルネスのようなものだと思った。

石鹸の行商人だと言っていたタイラーは、ある夜、痩身クリニックから吸引された脂肪を盗み出し、それを元に石鹸を精製する。
「金持ちが自分の脂肪を買い戻してるんだ」という皮肉たっぷりのセリフを吐くタイラー。
これもまた、脂肪分の多いステーキにお金を払い、脂肪吸引にお金を払う富裕層のお金の循環を揶揄している。その後タイラーは苛性ソーダで“僕”の皮膚を焼くなど、その行動はさらにエスカレートしていく。

やがてファイト・クラブは先鋭化し、過激なテロ行為を行うようになる。
マーケティングされたモノに支配されていたはずが、気づいたら今度はタイラーの思想に支配されていくという、なんとも皮肉に皮肉を重ねた展開だ。
でもそれは、生への渇望や破壊的衝動の行きすぎた先にある、全て地続きの毎日だった。

満たされた先に豊かさはあるのか、そこでは何が自分を掻き立てるのか、どこか今の時代にピッタリな問題提起だと思った。
もしかしたらこの作品が公開された1999年のアメリカは、コロナ禍を経て分断が浮き彫りになった今の日本社会よろしく、9.11前の漠然とした社会の不安が満ち溢れ、カオスな空気が漂っていたのかもしれないと想像した。

物語はラスト30分で急転直下の事実が明かされ、あれも伏線だったのか…!?と記憶を辿ることに。

誰もが持っている、憧れからくる二面性や現実逃避の依存先。
ファイト・クラブはそれを猟奇的に示唆してくるので、中毒性が高い。
人生はないものねだりの連続なのだ。

真正面から拳を突きつけられるような作品だった。


文/桂枝之進

ファイト・クラブ』(1999)Fight Club 上映時間:2時間19分/アメリカ

不眠症に悩むエリート・ビジネスマン、ジャック (エドワード・ノートン)の空虚な生活は、謎の男タイラー(ブラッド・ピット) と出会って一変。自宅が何者かに爆破され、居場所を失ったジャックは、タイラーの家に居候することに。お互いに殴り合うことにハマったふたりは、秘密組織ファイト・クラブを結成。その行動は過激さを増していく。

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