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「42歳で、付き合うとか付き合わへんとか言ってていいのか」自分の抱えるテーマと実年齢が10年くらいズレている…。未だ青春期を引きずる又吉直樹にとっての「大人」とは

集英社オンライン / 2023年3月26日 13時1分

又吉直樹のエッセイ集『月と散文』が刊行された。その中で又吉は、自身のことを何度か「中年男性」と形容する。なぜ自らそう名乗るのか。又吉にとって「大人になる」とはどういうことなのか。(第1回/全2回)

――『東京百景』以来、約10年ぶりとなるエッセイ集『月と散文』を刊行されました。全360ページと、かなりのボリュームですね。

溜まっていた原稿を本当に全部合わせたら200本超えてて。エッセイだけでも長いものが80本くらい、短いのも同じくらいあったので、どうしても大きくなっちゃいましたね。

――オフィシャルコミュニティサイト「月と散文」上で連載されていたものをベースにしながら、巻末に「単行本化にあたり大幅に修正・加筆を行いました」と断り書きがあります。連載をまとめた書籍によく添えられる文言ですが、エッセイだと珍しいように思います。



そうですね。連載がまとまったエッセイ集というと、そのままのものが多いと思うんですけど、かなり改造しました。

そのまま採用したのが30本くらいで、他は書いたものを並べて「これとこれは言いたいことが重複してるからどっちかにしよう」「これとこれは合わせよう」とかしていったり、「最初書いたときはここまでで止めてたけど、もっと掘っていったほうが面白くなるんじゃないか」って手を入れてたら倍になったり。

そういう加筆と再構成ですね。もともと多かったのに、この本で初めて書いたのも10本以上あります。

毎週書いてるもんやし、エッセイっていわゆる散文なんで、日記・日誌的な側面も日によってはあるんです。

だからその時々のメンタルに左右されて結構ネガティブな終わり方になってることもあって、読み返したときに、僕ももう42歳なんで「本当にこれでいいのか、もう一歩先があるんじゃないか」と考えて書き直したものもありました。

――今、「僕ももう42歳なんで」とおっしゃっていましたが、本書の中でもたびたびご自身のことを「中年男性」と称されていますよね。自分をそう形容するようになったのは何歳くらいの頃からですか?

体感としては37〜38歳くらいですかね。「中年」って言葉の意味としては30代なかばくらい、もっと早くてもいいのかもしれないですけど、僕の感覚としてはそれぐらいから中年期という感じです。

多分、なんでそういう言い方をしてるかというと、僕が自分で考えているテーマや課題と実際の年齢が、恥ずかしながらマッチしてないと感じているからだと思います。

10年ぐらいズレているんじゃないのかな。『火花』という小説を書いたのが34歳なんですけど、あれは20代から30歳ぐらいまでの物語で、それを振り返ってるんですよね。

その次に書いた『劇場』にしろ、20代のときに考えていたことを、客観視もしてるけど未だにそこに主観も混ざってるような感じなんです。

だから「ええ歳した大人が」ってちょっと自分では思っていて。38歳くらいから、さすがにもうちょっと次のステージというか主題を探したいっていうのはずっとあるんですよね。

42歳で付き合うとか付き合わへんとか言ってていいのか

――「10年くらいズレてるんじゃないか」と感じ始めたのが38歳ぐらいだった、ということですか?

34歳で『火花』を書いたときも「ギリやな」と思って、『劇場』も「ギリやな」、次に『人間』を書いたときに「ここで一回、青春時代のこういう鬱屈とした感情を総決算しよう」と思って。

でも実際には、その後も何か書こうと思うとそういうのがまだ出てくるんで、完全に脱皮はできていないんですよね。

そうやって次に移行するまでの自分を「中年男性」と言うことでやりやすくなるかな、ということだと思います。

――あえてそう称することで、何か変わるものがあるのではないかと。

はい。いわゆる、おっさんになっても学ラン着てるタイプの表現者もいると思うんですけど、僕の場合は自分で「もう学ラン着てちゃダメですよね、わかってますよ」っていう……。

「わかってるけどやってしまうことがある、けどここから多分変わっていくんだと思います」みたいな感覚ですね。


――お話をうかがっていると、又吉さんは自分のことを「大人」であり「青春期を脱した」とはまだ思っていないところがあるんでしょうか。

青春期は……絶対脱しておかないとダメですけど、まだ若干引きずってるかなとは思ってます。「引きずってる場合じゃないやろ」と思ってるんですけどね。

理屈ではわかってて、同世代や先輩と話してて我に返る瞬間もありますし。誰かと付き合う付き合わへんみたいな話をしてて、ふと「42で付き合うとか付き合わへんとかあるんでしたっけ?」って(笑)。

そういうのは20代ぐらいの話で、いつまでもこんなこと言ってるのもダメなんだろうなと気づいてはいるんですけど。

選挙権もありますし、もちろん間違いなく大人ではあるんですよね。でもまだまだ未熟な部分が多いなと自分では思ってます。

――それはお仕事に関してですか?

仕事は最悪、未熟でもいいと思うんですよ。20代だから許されて面白くなる失敗ももちろんあるんですけど、お笑いに関しては「芸歴25年目になるからうまくやろう」とかはあんまり思わないです。それはもうしょうがないことなんで。

でも、それ以外の部分で未熟なのはあんまり良くないなと。周りに迷惑かけるんで。

例えば「今までお付き合いした人と別れた理由はなんですか?」って聞かれたら、僕はフラれることが多いんですけど、それはやっぱり自分が未熟やったり何かおかしいところがあったりが原因なんですよね。

それはちょっとどうなのかな、って思ってて。人によって考え方は違うと思うんですけど、僕はこのままでいいとはまったく思わないし、早く成長したいと思ってます。

だから、仕事と実生活ではモードが違うんですかね。ただ、モードは違うけど両方未熟というところでは一致してしまっているのが現状、って自己評価です。

かっこいいと思うのは、自分で自分の機嫌を取れる人

――それなりの年齢になっているのに「全然大人じゃない」と感じている人は多いと思います。又吉さんが考える「大人」像はありますか?

いろんな考え方があると思うんですけど、僕は人に迷惑かけないのが大人かなと思うんですよね。最低限そうなりたくて。

僕が「かっこいいな」と思う大人って、必ずしも一般的には「成熟している」とは言われないような、むしろ「少年ぽいね」と言われる人が多かったりするんです。

でもその人たちみんなの特徴として、自分で自分の機嫌を取れる人が多いんですよね。

余裕があって心配させない。これが僕には欠落してるんです(苦笑)。もともと気分屋で、年齢を重ねるにつれてマシにはなってきたんですけど、まだ完全にコントロールできてないところがあるんで、それは目指したいですね。

――わかります。年齢が上がってくると、それだけで周りに気を遣わせることも増えますし。

僕なんて特に気を遣われやすいです。本来はそういうタイプじゃなかったんですけど。同級生や同期の芸人から「ほんま20年前から変わらんな」って言われるんですよ。

20年前にこのテンションやとめっちゃ変な若手芸人で、温度低かったりしてちょっと生意気にも見えるんですね。

だけど生意気であることで得せずに損してるから、先輩たちや同期から「又吉はああいうやつやからな」で許されてきたんです。「アホやな」ってことで。

――なるほど。

でも芸歴重ねて変わってないとなると、それが偉そうに見えてしまうときが出てくるんですよね。「スタッフさんにああいう感じなんや」とか「笑顔じゃないんや」とか。

挨拶とお礼はちゃんと言うようにしてるんですけど、普通に過ごしてるとボーッとしてたり愛想悪いと思われたりして、誤解されるようなこともあって。

そこで「俺は俺」っていうこともできるけど、社会で生きていくからにはあまり周りの人には負担をかけたくない。

だから昔よりは「機嫌いいようにしとこう」って考えるようになって、自分ではまぁまぁできるようになってきたつもりやったんですけど……周りの話聞いてると、なんか、どうやらできてないっぽいですね(笑)。

――本書でもそういうエピソードがたびたび出てきますが、社会人としてできたほうがいいとわかっていてもどうしても苦手なことってありますよね。

そうなんですよね。ちょうど一昨日くらいに区役所行って必要な手続きをひとつクリアしました。「社会と関わらない」って気持ちではないんですけど、やっぱり苦手は苦手なんですよ。

だからそれができる人のことはすごい尊敬してて。たまに現れる、そういうことを代わりにやってくれる人たちのおかげでやっていけてます。

「いいんだよ、又吉はそういうのが苦手な代わりにお笑いやったり文章書いたりしてるんやから」って励まされて「なるほど、そうか」って思ったり。

でもそしたら「表現してるからって社会性なくても大丈夫みたいな感じを出すな」って別の人から言われて、どうしていったらいいん?ってなったり。だから甘えちゃダメなんでしょうね。難しいですよね。

取材・文/斎藤岬 写真/松木宏祐

『月と散文』
又吉直樹

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