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「ギャンブルに給料を全額使ってしまうんですが、自分は大丈夫でしょうか?」包丁をベッドに突き刺して話し合い、激高して投げ飛ばされたことも…。ギャンブル依存症が増加し、問題が深刻化している理由

集英社オンライン / 2023年4月2日 19時0分

豹柄コートで1レース数十万円の舟券を買っていた20代…子供の保育費、数千円を滞納して気づいたギャンブル依存症の苦しみ。「これが当たらなかったら、死ぬしかないかもしれない…」〉から続く

コロナ禍の影響で公営ギャンブル全体の売上が増加傾向を見せており、ギャンブル依存症の相談件数も増えている。しかも、その相談内容がこれまでよりも深刻なものとなってきているという。依存症者を回復の道へとつなげる「ギャンブル依存症問題を考える会」の代表・田中紀子さんに具体例を聞いた。(全3回の3回目)

現在も新幹線では競艇場が見えないように反対側の席をとる

――治療プログラムを始めてからは依存状態とは完全に縁が切れているのですか。



私はギャンブルをやめて、19年ほど経ちますが、今でも自助グループへは毎月2回参加していて、12ステップもずっと続けています。これらは一生続けるべきもので「もう大丈夫だろう」と思ってやめてしまうと、再発する可能性が高くなるんです。実際にそういう人は大勢います。
私の夫も治療を始めた後に、FXに手を出して800万円の借金を背負ったこともありました。その後、またプログラムをやり直して、さすがにそれ以降は再発していません。

――日常生活でギャンブルへの未練みたいなものを感じることはありますか。

競艇場が目に入るとドキドキしてしまう感覚はあります。なので、静岡県の浜名湖に競艇場がありますが、東海道新幹線に乗るときは競艇場が見えないように太平洋側の座席に座るようにしています。でも、いつか老人ホームに入ったら、健康麻雀ぐらいはいいでしょと思っている自分がまだいます。

――19年間の中でギャンブルをしたくなる場面もありそうですね。

20年近く経ってくると、自分の扱い方がわかってくるんですよ。私はストレスが溜まった時に、ドカンと行きたくなってしまいます。過去に、買い物依存症だった時期もあったんですが、つい最近も600万円のロレックスの時計を衝動的にほしくなって。それでハッと気づいて、ヤバイな、ストレスが溜まり過ぎているな、と。
ストレスと依存症って関係が深くて、ストレスを溜め過ぎると「気づいたらやっちゃってた」なんてことになりかねないので、ストレスを溜め過ぎないようにして、普段からいろいろなことを自助グループの仲間に相談するようにしています。

高知東生さんにTwitter指南

――田中さんは薬物依存症からの回復に取り組む高知東生さんと一緒に、依存症問題やメンタルケアを扱ったYouTube『たかりこチャンネル』の運営もされていますね。高知さんが薬物依存症の治療を始めた早い段階からお付き合いがあるそうですが、その経緯をお聞かせください。

高知さんは、母親が自殺しているとか、子供時代に孤独だったとか、そういう過去のトラウマ体験を今はオープンにしていますが、最初そこに触れた時は大喧嘩になりました。「過去のトラウマを依存症と結びつけてくれるな」と言われて。その過去の体験が一因となって自分が依存症になった、だなんて考えたくないですから。
でも、私は、オープンにすれば、絶対に高知さんの状況がよくなるっていうのを、何度も何度も伝えました。信頼関係や成功体験ができるまでの期間は、本当に喧嘩や言い争いが絶えませんでした。

――最初はやっぱり難しいんですね。

高知さんのTwitterの投稿にも課題を出しました。それまでは「今日、〇〇に会いました! 押忍!」みたいな投稿をしていたので、「こんなのいらないです」と伝えて。そうじゃなくて、私と喧嘩してムカついたとか、気づいたこととか、自分の中にある気持ちを言葉にしてここでつぶやいてください、ってお願いしました。

そうやって投稿していくようになると、少しずつ高知さんを応援する人が出てきて、フォロワーも徐々に増えていきました。そして高知さんが過去を語ることで、それを理解してくれる人も増えて、わかってくれる人がこんなにもいるってことが、高知さんの中で積み上がっていったんだと思います。

正直、最初は高知さんにいろいろ言うのは相手が芸能人なだけに影響力を考えると恐かったですが、私がひるんだらお終いだと思って、思い切って踏みこみました。本当にすごく刺激的な体験でした。高知さんと出会ってますます人生が刺激的になっています。

包丁をベッドに突き刺して話し合うことも…

――現在、田中さんは公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会の代表を務めるとともに、依存症問題を抱える人を回復の道へとつなげるインタベンショニストとしてもご活躍されています。耳なじみのない職業ですが、どのようなお仕事をされているのでしょうか。

依存症問題を抱える人とその家族が話し合いをしている場に、私が参加して治療を受けることを勧めるというのが主な仕事です。通常、私が参加することは依存症者本人には知らせていない状態で始まるので、最初は依存症者の方々が激しい拒否反応を見せることもあります。

ご家族がいるところだと、なかなか話が進まなかったので、私が「ちょっと2人で話をさせてください」とお願いしたら、依存症者の方が包丁を持ってきて、それを部屋のベッドに突き刺して「さあ、一対一で話し合おうぜ」なんてことになった現場もありました。

――とんでもない状況ですね。

激高して投げ飛ばされたこともありますし、精神的にも肉体的にも負荷が大きい仕事です。一件一件パターンが違うから、全然慣れることもなく、面会前日は毎回眠れません。でも、やっぱり第三者が介入するのは効果的です。

家族で話し合っても解決しない場合は、結局何度話し合っても、パターンが出来上がって堂々巡りに陥りがちです。それに、家族だけで話し合うと全員が感情的になりやすいんです。そこに感情に巻き込まれない第三者がいると話し合いが冷静に進みます。

依存症問題の相談の約4分の1が犯罪絡み、と深刻化

――相談件数って多くあるものなんですか。

最近はギャンブル依存症の相談が増加傾向にあります。今の時代、スマホ1つでギャンブルが手軽にできてしまうので、オンラインで楽しむ人が増えています。特に、コロナ禍の緊急事態宣言の頃に、店を開けられなかった飲食店勤務の方が、暇つぶしでギャンブルを始めるといったケースが多くありました。

以前は、依存症者の家族からの相談しかなかったのですが、コロナ禍以降は「ギャンブルに給料を全額使ってしまうんですが、自分は大丈夫でしょうか?」といった感じで、本人からの相談がバンバンきています。以前では考えられなかったようなことが起きているんです。

――手軽にできてしまうようになったから、歯止めが利きにくくなっているんですね。

特に深刻に感じるのは、私の元にくる相談の4件に1件が犯罪絡みになってきていることです。横領とか窃盗とか万引きとか。20年前に自助グループにつながった頃は「家族が逮捕されました」なんて相談はありませんでした。でも今は、逮捕されたとか、会社から訴えられたといった相談が増えていて、金額もとんでもない額になってきています。

――そんな状況になっていたとは。先行きが不安ですね。

支援者の立場からは、未曾有の時代になったなと感じています。でも、長くやっている分、自分のスキルも上がっていますし、仲間も増えているので、なんとかやっていくしかないなとは思っています。

おわり

取材・文/内田陽  撮影/高木陽春

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