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「今年のアカデミー賞は一番優れた作品が受賞したわけではない」Sexy Zone中島健人と共に授賞式をレポート。映画ジャーナリストが解説するアカデミー賞の内幕と『エブエブ』旋風の背景

集英社オンライン / 2023年3月25日 18時1分

先ごろ行われたアカデミー賞授賞式で、7部門受賞の快挙を果たした『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』。空前の『エブエブ』旋風が吹き荒れた背景を、Sexy Zoneの中島健人さんと共にWOWOWの現地レポートを担当した、映画ジャーナリストの小西未来さんに聞いた。

複数の“好かれる”魅力がある作品が有利に

チームワークのよさが際立った『エブエブ』チーム
AP/アフロ

アカデミー作品賞に輝いた作品は、その年、芸術的にもっとも素晴らしかった作品に与えられるというイメージを持っている人が多いだろう。

作品賞を含め7部門をかっさらった『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(2022)は、2022年度の映画界を象徴する作品になったことは間違いない。ただし、ノミネートされた10作品の中でダントツに傑作だったかというと……疑問が残る。



LA在住の映画ジャーナリスト・小西未来さんは、「多くの方が誤解されているかも」と前置きした上で、「アカデミー作品賞は、一番優れた作品に与えられるわけではありません」と語る。

「作品賞は1944年から長らく、ノミネート5本の中から映画芸術科学アカデミー会員が1本選出する投票方法でした。ところが2009年からは、ノミネートされた10本を1位〜10位まで順位づけする投票方法に変更。つまり、賛否が分かれる作品は受賞しづらくなったんです」(小西さん、以下同)

今回ノミネートされたのは、こちらの10本(すべて2022年製作)。

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
『西部戦線異常なし』
『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』
『イニシェリン島の精霊』
『エルヴィス』
『フェイブルマンズ』
『TAR/ター』
『トップガン マーヴェリック』
『逆転のトライアングル』
『ウーマン・トーキング 私たちの選択』

「戦争映画が嫌いな人は『西部戦線異常なし』を低い順位にしたと思うし、『TAR/ター』のアートな雰囲気で眠ってしまった人は、上位に順位づけしなかった。“好きな人は好き”と分別される作品は受賞が難しくなりました。その結果、有利になったのは“嫌われない作品”です」

2021年度の作品賞を受賞した『コーダ あいのうた』(2021)がいい例だ。

「『コーダ』が映画史に残る傑作かというと、そうではないと思います。それでも作品賞を獲ったのは、まず青春ものとしてすごくよくできていたこと。そして聾者のリアルを描いていたこと。さらに今の時代に必要なポジティブなメッセージも込められていました。つまり、好かれる複数の魅力がある。そういう作品は、自然と上位になることが多いんです」

“うねり”を生み出した『エブエブ』

ミシェル・ヨーが主人公のエヴリンを熱演
© 2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.

『エブエブ』は、アメリカでさえない日々を送る中国系移民の中年女性が、マルチバースへジャンプしてカンフーの達人となり、強大な悪と戦い全宇宙を救う物語。奇想天外なSF映画だ。

「とはいえ、ストーリーも映像のスタイルも、斬新なことをやろうとした監督の野心が感じられますよね。そして、荒唐無稽なSFに見せかけてちゃんと家族の物語に収束させている。さらにアジア人キャストをフィーチャーし、アジア人のリアリティをしっかり描いています。この3本柱がちゃんとあるので、どこかに引っ掛かってグッとくる人がいたはずなんです」

助演男優賞を受賞したキー・ホイ・クァン。喜びを爆発させる姿に誰もがノックアウト!
AP/アフロ

アカデミー賞を席巻した理由はもうひとつ、大きな“うねり”を生み出したことも大きいのだとか。

「アメリカで映画が公開されたのは2022年3月。つまり授賞式の1年も前のこと。本来、アカデミー賞を狙おうと思ったら、そんな時期に公開しません(アカデミー賞を狙う作品は、映画会社が年末ギリギリに公開にすることが多い)。正直忘れ去られた映画でしたが、配給会社のA24がソーシャルメディアを使った巧みなキャンペーンを行ったことが功を奏したと思います。アカデミー賞も選挙と同じ。アメリカでは配信で既に見られるのですが、それによってファンがどんどん増えていきました。

そして、キー・ホイ・クァンをはじめとした『エブエブ』組の魅力ですよね。賞レースで受賞を重ねるたび、素直に喜ぶ姿が話題になりました。作品が好かれただけでなく、彼らが多くの人に愛され、大きなうねりを生み出したことも影響したと思います」

とはいえ、『エブエブ』の口コミには「よくわからなかった」という感想が多いのも事実。

「映画芸術科学アカデミー会員は白人の高齢男性が圧倒的多数でしたから、昔のアカデミー賞だったら絶対に賞は獲れなかったでしょうね。“理解できない”で終わっていたし、見向きもされなかったと思います。ところが、2015年と2016年、2年連続で演技部門にノミネートされた俳優全てが白人だったことを受け、“白すぎるオスカー”批判が起こりました。

それ以降、非白人の若い会員を積極的に招待。新しいものに寛容な会員が増えたことで、『エブエブ』のような作品に光が当たったのだと思います」

コロナ前の華やかさが戻った授賞式

ディオールのドレスで出席したミシェル・ヨー。アジア系の少年少女や世界中の女性に勇気を与える感動のスピーチも話題となった
ED/JL/A.M.P.A.S/Camera Press/アフロ

WOWOWの中継では、小西さんと共にSexy Zoneの中島健人さんが現地レポートを担当。積極的にスターにインタビューをする姿も印象的だった。

「彼はレッドカーペット取材にめちゃくちゃ向いていると思いました。というのも、本人がスターだからでしょうか。僕のようなジャーナリストは、スターに声をかけるときに割と申し訳ないなと思い、遠慮がちになってしまうんです。でも彼は、全然そういう感じがない。

話を聞きたいから声をかける。つまり対等なんですよね。純粋に映画が好きだし、英語の発音もとても上手。あのポジティブさは素晴らしいと思いました」

感動的なスピーチも多く、授賞式も温かな雰囲気に包まれていた。

「(ウィル・スミスのビンタ事件があり)去年はあまりに後味が悪かったですからね。視聴率を稼ぐために、あえてシニカルなことをやったり、パロディをやったり、アカデミー賞授賞式の演出にはいろんな歴史があります。

ですが、映画を作った人たちを讃え、受賞した人のスピーチが一番の魅力になる、シンプルで古風な授賞式の素晴らしさを再確認しました。アフターパーティも超満員で、出席者はみんな楽しそうにしていました。コロナ禍前の華やかなパーティが戻ってきたと思います」

映画ファンにとっては、トム・クルーズが欠席だったことが残念だが。

「実はアカデミー賞の前に行われた全米監督協会賞で、ジャド・アパトー監督が司会を務め、トムの身長をいじり倒したことが話題になりました。アカデミー賞でも、生放送というコントロールできない状況で笑いの餌食になる可能性があった。それが出席を取りやめた要因になったと言われています」

とはいえ、アカデミー賞の司会を務めたジミー・キンメル側に言わせると、いじる予定は全くなく、トム・クルーズのために考えた3分間のネタがあったそう。披露されなかったことは残念だが、『エブエブ』チームの魅力によって、素晴らしい授賞式になったことは確かだ。

一番優れた作品ではなく、好かれた作品が選ばれるようになったことで、映画ファンは今後、アカデミー賞をどのように捉えればいいのだろう。

「『ミリオンダラー・ベイビー』(2004)や『クラッシュ』(2004)、『ハート・ロッカー』(2008)などもそうですが、選び方が変わる以前から、作品賞を受賞した映画が歴史に残る傑作ばかりかというと、実はそうでもないんです。しょせん、人が選ぶものなので、アカデミー受賞作=傑作という考えはやめて、あくまで参考にしてみるのではどうでしょう。

受賞しなかったとしても、最終的にノミネートされた10本が、その年を代表する作品であることに違いはありませんから」


文/ロードショー編集部

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