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東京から北海道の美深町にUターンした観光協会事務局長が語る、田舎暮らしの難しさと面白さ

集英社オンライン / 2023年3月30日 9時1分

北海道北部の美深町でワーケーション用施設を提供する「BASIS House Project」。建物は古民家をリノベーションしたものだという。プロジェクトのきっかけや目指すものを美深町観光協会事務局長の小栗さんに聞いた。

――まず最初にBASIS House Projectがどういったプロジェクトなのかを教えてください。

古民家をリノベーションし、美深町でのアウトドアやDIYを楽しむための拠点として活用するプロジェクトです。都市部に住むアウトドア好きをメインターゲットに、ワーケーションなどの長期滞在を想定しています。
観光協会のぼくと、カヌーのガイドをやってる戸谷くんの2人が中心になって2021年にスタートしました。


観光協会の小栗さん(左)とカヌーガイドの戸谷さん(右)

――このプロジェクトを始めたきっかけは何ですか?

宿泊拠点を増やしたいというのが一番の動機ですね。
美深ってアウトドアのフィールドとして非常に魅力的で、観光のプログラムもアウトドア中心につくってるんですが、如何せんアクセスが悪い場所なので、日帰りというよりは宿泊ありきで遊びに来られる方が多いんです。
だけどこのあたりにアウトドアと親和性の高い宿泊施設があまりなくて……。
キャンプ場はあるんですけど、街中で泊まろうと思うと昔ながらの旅館や民泊しかないんですよ。旅館も観光客向けというより地域の工事関係者向けの場所がほとんどで。
なのでアウトドア用の滞在施設を自分たちでつくりたい、ということはずっと考えていました。

雪国の空き家問題は深刻

もう一つは空き家の活用です。
空き家の増加自体は田舎ならどこでも共通の問題としてあると思うんですけど、北海道のように雪が降る地域だとより深刻なんですよね。
雪のない地域なら何年か放置したって大丈夫だけど、雪があると1, 2年放っておくだけで建物が潰れたり傷んだりしてどうしようもなくなっちゃう。美深にももう使えないような空き家がいっぱいあって……。
この施設も古民家をリノベーションしたものですけど、たまたま前の持ち主の方が手放したいってタイミングで運良く引き取れたからこそできたもので。人が住まなくなって一冬越したあとだと難しかったでしょうね。
宿泊施設の数はどんどん増やしていく計画なんですが、なかなかタイミングよく引き取れて、条件の良い物件がなくて苦労してます。不動産屋もないから情報を集めるのも大変だし。

――不動産屋がないんですか?

ないですよ、美深にはない。ほとんどが個人売買です。
だから誰が持ち主なのかよくわからない土地や建物なんかも多くて、そうすると明らかに人が住んでいなくて廃墟みたいになっても誰も手が出せなくて困っちゃうんですよね。更地にすることもできない。
そうならないようにちゃんと解体してから手放すとなると、今度は解体費が何百万とかかってしまう。このプロジェクトが上手いこと受け皿になれたらと思っています。

この建物は1棟目ということでほぼ全部ぼくらがリノベーションしましたけど、2棟目以降はここに滞在してくれたお客さんにもリノベーション作業をしてもらうつもりです。

――私もペンキ塗りを少しだけやらせてもらいましたけど、楽しかったです。

楽しいですよね。そうやってDIYを楽しんでもらって、建物の一部を自分がつくったとなれば愛着も湧いて、また来てもらうきっかけになるかなと。
繰り返し訪れてもらうことで美深を気に入ってくれる人も出てくると思うので、そこから移住に結び付けられたらと考えています。

リノベーション体験の様子

――移住まで見据えたプロジェクトなんですね。

このプロジェクトに限らず、うちの観光事業は基本的に「移住者を増やすための観光」という考えでやっています。
先ほど美深には宿泊施設が少ないという話をしましたけど、宿泊に限らず観光事業者がすごく少ないんですよね。アウトドアガイドも3件しかない。
アウトドアのフィールドも初心者というよりは中級・上級者向けの場所が多いですし、釧路湿原のように年間何百万人みたいな受け入れはできません。

だから観光事業そのものを頑張るというよりは、観光を通して街づくりをする、移住者を増やす、というのを目標にしてるんです。

移住者を増やすための戦略は

――移住を最終目標に、という方針はいつごろからのものなんでしょうか?

私が観光協会に入ってからですね。13年前に東京からUターンしてきて協会に入ったんですけど、その時点では町のお祭りをやるだけの団体という感じでした。DIY体験やアウトドアイベントを始めたのは自分が入ってからです。
Uターンしてきたときは30歳だったんですけど、野心もあったし、自分の能力を過信しまくってましたね(笑)。こんな田舎5年もあれば何でもできるんじゃないかって。実際には5年じゃ全然足りませんでしたね。

――Uターンを決めた時から観光協会で仕事をする予定だったのでしょうか?

いえ、戻ってきて1年目は実家の農業を手伝ってました。農閑期に臨時職員として役場に出入りしてたら観光協会の仕事を紹介してもらって、そこからです。
たまたま始めた仕事ですけど、観光業ってまちづくり全般に満遍なく関わるものなので、色んな分野の人と色んなことができてすごく面白いですね。
さっき観光事業者が全然いないって話をしましたけど、道北はバブルの時期に観光が全然栄えなかったから、逆に言うとここからプラスにしかならない。負の遺産みたいな建物もないんで、新しいものをつくっていくには良い環境です。

2016年からはBASISというプロジェクトを始めて、美深だけでなく名寄、幌加内、下川のような近隣市町村も含めて道北の文化創造を目指してます。
このBASIS House Projectもその一環ですね。

――13年やってきて、実際に移住者は増えてますか?

増えてますね。サラリーマンやめてクラフトビールつくるとか、教師やめてスパイスカレー屋始めるとか、こっちに来て何か新しく始める人も多いです。
この施設を一緒にリノベした戸谷くんも移住組で、彼は地域おこし協力隊や林業を経ていまはカヌーのガイドをやってます。

移住先としての条件を考えると他の自治体と比べて特段良いわけではないので、観光で来てくれる人を増やすっていうアプローチは有効だと思っています。
補助金だとか待遇面に惹かれて移住してくる人はすぐ出てっちゃうこともあるんですけど、人や環境は替えがきかないんで、観光をきっかけにそこに面白みを感じて移ってくる人はそのまま定着しやすいですね。

――最後にBASIS House Projectの今後の展望を教えて下さい。

しばらくはモニターツアーを続けて、2024年頃から通常営業を始める予定です。
そろそろ次の物件が決まるので、今後のモニター参加の方にリノベーションしてもらいながら2棟目をつくっていきます。
あとはどんどんサイクルを回していって、30年後には美深町で10棟、道北全体で40棟ぐらいにしたいですね。この地域がベストパフォーマンスを発揮できる受入人数は年間2000人ぐらいだと思っているので、40棟あればその数に対応できるかなと。

このプロジェクトの過程で移住者が増えて、受け入れのキャパそのものが大きくなるようがんばりたいです。

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