SHIBUYA109のショップ店員から飲食チェーンの代表取締役へ。「ドムドムハンバーガー」奇跡の復活を達成した敏腕経営者が、「課題や目標を持たない」理由
集英社オンライン / 2023年4月2日 12時1分
老舗ハンバーガーチェーンとして長く愛されてきた「ドムドムハンバーガー」。時代とともに店舗数を減らしながらも、同チェーンはここ数年で、SNS映えするメニューや物販などを積極的に展開。2021年度、2022年度の決算では数十年ぶりの黒字化を達成し、業績のV字回復を果たしている。ドムドムハンバーガー復活の立役者である代表取締役社長・藤崎忍氏に、経営思想に関する部分について話を聞いた。
39歳でSHIBUYA109のショップ店員に
——藤崎さんは、飲食チェーンの代表取締役として珍しいご経歴をお持ちですよね。元々何を目指されていたのですか?
これ言うと皆さん驚かれるのですが、私の夢は元々「お嫁さん」だったんですよ。私は短期大学を卒業して21歳で結婚したので、その夢は叶いました。しかし、39歳のときに主人が体調を崩してしまい、私が家計を支えないといけなくなってしまったんです。
そうして最初に勤めたのが「SHIBUYA109」内のアパレルショップで、その後、小料理屋でのアルバイトを経て、起業して居酒屋の経営を始めました。そのお店の常連にレンブラントホールディングス(ドムドムフードサービスの親会社)の専務さんがいらっしゃって、「商品開発を手伝ってほしい」と声をかけていただき、それからドムドムフードサービスのメニュー開発に携わるようになりました。
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株式会社ドムドムフードサービスの代表取締役社長・藤崎忍(ふじさき・しのぶ)氏(写真提供:株式会社ドムドムフードサービス)
——スカウトされたときはどう感じましたか?
私は当時50歳でしたので、大きな企業から誘っていただいたこと自体がすごく嬉しかったです。まだ居酒屋の経営が残っていたので、2ヶ月くらいは外部顧問として関わりまして、そのあとに同社の社員になり、2018年8月に代表取締役社長に就任しました。
——さまざまなご経歴のなかで、現在の経営スキルにも繋がっていくような経験もあったかと思います。
そうですね。中でも、やはり就労経験がまったくない状況で勤めたSHIBUYA109のショップでの経験が、今に繋がっていると思います。
当時は、ちょうど“ギャル文化”の全盛期。自分の子どもと同年齢くらいの若者たちと一緒に働くことは、とても新鮮な経験でした。彼女たちと一緒に働くことで、それまでの凝り固まった価値観がよい意味で壊されたのです。
今に通じる「こだわらない精神」みたいなものも、ここで学びましたね。SHIBUYA109で働いた経験がなければ、もしドムドムフードサービスに来ても、今のような柔軟な発想は生まれなかったかもしれません。
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1970年に創業した日本最古のハンバーガーチェーン「ドムドムハンバーガー」(写真提供:株式会社ドムドムフードサービス)
ショップで働きながら学んだ経営術
——藤崎社長は“敏腕経営者”としてメディアにも多数出演されていますが、経営スキルは実際のところどのように身につけられたのでしょうか?
これも実は、SHIBUYA109時代の経験が大きいんです。ただ、座学でマーケティングを学ぶといったようなことはしていません。「お店がちょっと汚れているから綺麗にしよう」とか、「この時間帯にこんなにアルバイトが必要なのか?」とか、店舗の中で働きながら、目の前の仕事をひとつずつ解決するだけでした。
たとえば、レジで時間帯ごとの売上を確認して、売上と勤務人数の相関をデータとしてまとめたり、当時そのショップにはバーコードを使った在庫管理システムがなかったので、アパレルに付いているタグを使って管理できるように整えたりもしましたね。
本来は店舗システムとして導入されているものばかりですが、当時私がいたショップにはなかったんです。そうして試行錯誤しているうちに、店の売上は1年目で120%に増え、最終的には200%まで伸ばすことができました。このような「目の前のもの」を片付けていくという精神は、現在の経営にも活きていると思います。
——ドムドムハンバーガーに入社し、社長に就任されてからも「目の前のこと」に集中してきたと。
そうですね。まずはスタッフの皆さんが何を考えているのか、どんな個性を持っているのかを知るために、いろんな接点を作って、信頼関係を構築していきました。ショップ店員と居酒屋経営しか経験していない主婦が急に社長になったら、スタッフとしては当然不安になりますから。
たとえば私が代表に就任したばかりの頃は、会議が「数字を読み上げるだけの時間」になってしまって…。スタッフ同士がうまくコミュニケーションを取れていなかったのだと思います。なので、とにかくスタッフと会話を重ね、どんな会議でも、誰もが建設的な意見を言い合えるような環境づくりに努めたんです。
そういった中で決めた会社としての方針が、「消費者やスタッフの人生に寄り添って、ブランドを育もう」というもの。新型コロナウイルスが蔓延する中でも、目の前のことに集中したおかげで、結果的にオンラインサイトなどを使った物販や他社とのコラボ製品の開発などを展開できるようになりました。
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自社のECサイト「ドムドムオンラインショップ」では、オリジナルグッズを多数販売している
仕事におけるチャレンジはすべてプロセス
——藤崎さんの視点で、現在のドムドムフードサービスが抱える「課題」とは何だとお考えでしょうか。
実は、私は「課題」を持たないようにしているんですよ。
——それはなぜでしょう。
課題や目標を定めてしまうと、クリアできなかったときに、そのチャレンジが「失敗」と捉えられてしまうからです。でも、事業を展開するうえでのチャレンジは、すべてプロセスですよね。失敗や課題と捉える必要は、まったくありません。
たとえば、新商品のバッグを販売するとして、80個しか売れなかったとします。もし事前に「100個売る」と目標を設定していた場合、80個しか売れなかったら、それは「失敗」と多くの人は捉えてしまうでしょう。
でも、私はそういうネガティブな視点で結果を捉えたくありません。「80個売れた」という事実だけを受け止めて、「どうやったら120個売れたのか」と考えたい。「もう少し事前にSNSで告知しておけばよかったのか」とか「販路をもっと増やせばよかったのか」とか、そういうことを考える方向に思考を向けたいのです。たとえ、結果が同じだとしても。
——その思考は、スタッフにもポジティブな影響を与えそうですね。
そうなんです。この思考が会社内に行き渡ると、大勢で働くうえで、スタッフに「失敗を隠す」というマインドが生まれなくなるのです。
「失敗したからこうしよう」ではなく、「どうすればもっと良くなるか」という思考に切り替えられれば、「上長に失敗を隠したい」とは思わなくなりますよね。ゆえに、建設的な会話がしやすくなります。
ちなみに、こういう話をするとたまに「藤崎さんは数字を見ないんですか?」とか聞かれるのですが、もちろんしっかり見ています(笑)。会社とスタッフを守らないといけませんから。そういうマインドだという話です。
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藤崎氏による経営戦略に関する書籍『ドムドムの逆襲』(ダイヤモンド社刊)
文/井上晃
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