「じゃがいもがこんなにおいしくなるのか!」創業者の感激で始まった湖池屋のポテトチップス。量産化への壁、カルビー参入で売上停滞、打開策のカラムーチョ…波乱万丈ヒストリー
集英社オンライン / 2023年3月31日 8時1分
1953年に創業し、今年70周年を迎える総合スナックメーカー湖池屋。日本で初めてポテトチップスの量産化に成功し、“辛味市場”を新たに開拓した「カラムーチョ」など、独創的な商品開発で日本のスナック菓子業界に牽引してきた。そのパイオニア精神に迫る。
創業者が飲み屋でポテトチップスに感動
「ポテトチップス のり塩」、「カラムーチョ」、「スコーン」、「ポリンキー」、「すっぱムーチョ」、「ドンタコス」、「プライドポテト」……。
誰もが知っているような、これらのスナック菓子は湖池屋(東京都板橋区)が開発してきたものだ。
1953年、おつまみ菓子の製造販売メーカーとして創業した同社は1962年に「湖池屋ポテトチップス のり塩」を発売。1967年に国内初のポテトチップスの量産化に成功した。
現在、市場シェアの多くを占めるのはカルビーだが、発売は湖池屋が10年以上早かった。
なぜ湖池屋はポテトチップスの開発に乗り出したのか。そこには、創業者が初めてポテトチップスを口にした瞬間のおいしさの感動があったという。
創業者の小池和夫氏(故人)が仕事仲間と飲みに行った店で高級珍味として出てきたのがポテトチップス。
時代は戦後の高度経済成長期だ。
「戦中を生き抜いた小池にとって、じゃがいもやさつまいもなどの芋類は、米が食べられないから仕方なく食べるものだったようなんです。当時の人たちは、じゃがいもにあまり価値を感じていなかった。
お店でポテトチップスを初めて食べた小池は、『じゃがいもがこんなにおいしくなるのか』と非常に感銘を受けた、と聞いています」
こう話すのは、広報部の小幡和哉さんだ。
「このおいしさの衝撃と感動を多くの人に届けることができればもっと喜んでもらえるのでは、と考えたのが原点。今も当社は、小池の当時の思いを引き継いでいます」
「ポテトチップス のり塩」量産化への苦労の道のり
アメリカから輸入された塩味をそのままマネするのではなく、日本人に馴染みのある味付けでポテトチップスを広めたいと考えた小池氏は、台所にあった青のりと一味に目をつけた。
そうして生まれたのが、湖池屋の「ポテトチップス のり塩」だ。
当初は大きな釜を使い、手揚げしていた。徐々に売上が伸びていき釜を増やすが、すぐに焦げてしまうなど手作業で管理できる台数には限りがあった。
量産化へ向け、アメリカで導入されていたオートフライヤーの視察に赴く。だが、当時は1ドル360円の固定相場制で現地の機械を輸入するには壁が高かった。
そこで国内の機械メーカーに相談。国産のオートフライヤーが生まれ、ポテトチップスの量産化に日本で初めて成功した。
だがこれで、すぐに軌道に乗ったわけではない。
パリッとした揚がり具合を機械製造で実現するまで試行錯誤を繰り返した。小池氏が生前、「思い出せないくらいの回数の失敗を重ねた」と話していたという。
また、量産化のためには品質のそろった大量のじゃがいもも必要だった。
藁にもすがる思いで、当時から一大生産地であった北海道十勝地方の士幌町に足を運び、じゃがいもの契約栽培を結んだ。1969年、業界に先駆けてのことだった。
カルビー参入による苦境と打開策の新商品
その後、順調に拡大を続けるが、またも壁にぶち当たる。競合、カルビーの参入である。
「『かっぱえびせん』や『サッポロポテト』で流通網を全国に持った状態での参入でした。当社が徐々に広げていったシェアを一気に奪われてしまったようなイメージですね。
当社のポテトチップスが150円だったのに対して、カルビーさんは100円で販売を始めました。テレビCMの影響も大きく、当社の売上は停滞していきました」
広報部の伊藤恭佑さんはそう明かす。
苦境に立たされた湖池屋は、どのような戦略を立てていったのだろうか。
「私たちのアイデンディティとは何かを突き詰めていきました。ポテトチップスに出会った小池は日本独自のものとして国内に広め、量産化にも初めて成功した。
独創的でユニークな湖池屋にしかできないものを開発しよう、と生み出したのが1984年に発売した『カラムーチョ』です」(小幡さん)
今でこそ辛みのあるスナック菓子は多いが、発売当時は皆無。型破りな新商品だった。
「辛いスナック菓子なんて売れるわけがない」との声が社内外からあったというが、チャレンジの結果、ロングセラー商品となっている。スナック菓子の辛味市場を開拓したのは、湖池屋だったのだ。
「商談は苦戦したと聞いています。ですが、とある大手コンビニエンスストアチェーンの方が『カラムーチョ』を面白がってくださり、お取り扱いいただいたことがきっかけで爆発的なヒットにつながりました。
当時はコンビニエンスストア業態が著しく成長を遂げ、流行の発信地でした。そのチェーンの年間食品ランキング1位が『カラムーチョ』だったという話が残っているくらいです」(伊藤さん)
「スナック菓子市場は頭打ち」の先へ
新たなブランドの投入により危機をしのいだ湖池屋は、1987年に「スコーン」、1990年に「ポリンキー」、1993年に「すっぱムーチョ」、1994年に「ドンタコス」と、新たなスナック菓子を生み出していく。
親しみを持ってもらうために菓子のパッケージにキャラクターを採用することも。今回の取材で訪れた同社の会議室には、「すっぱムーチョ」のキャラクター「ヒーヒーおばあちゃん」のぬいぐるみが飾ってあった。尋ねると、消費者から届いたものだという。
「ポテトチップスのキャラクター『ムッシュ・コイケヤ』へは、バレンタインにファンの方からお菓子をいただいたこともありますし、年賀状も毎年何通もいただいています。僕への年賀状よりも多いんじゃないですかね(笑)。
ムッシュは主にSNSで活動していますが、心が通じ合うような温かみのあるやりとりを大事にしています」(小幡さん)
消費者との距離の近づけ方も、ロングセラー商品を多数生み出す秘訣だろう。
ところで、新たなヒット商品を生み出すと同時に、ポテトチップスの市場シェアは伸びなかったのだろうか。
「カラムーチョの発売で少しは戻りましたが、シェア自体は今もあまり変わっていません。当社の売上も伸びてはいますが、カルビーさんもかなり伸びている。
ポテトチップスをはじめとするスナック菓子のマーケットはずいぶんと大きくなりましたが、2009年頃から業界全体の商品単価が急激に下がり始めました。前年のリーマン・ショックの影響もあったと思います。
『スナック菓子なんてどれも同じだから安ければいい』という扱いをされる商品になってしまった」(小幡さん)
当時の業界内では、スナック菓子市場は頭打ちだといわれていたという。20年以上大ヒット商品がなかったことも要因で、市場は縮小傾向にあった。
そこで湖池屋は、また新たなブランドを打ち出し、業界に風穴を開ける――。
取材・文/高山かおり
撮影/近藤みどり
写真提供/湖池屋
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