「湖池屋プライドポテト」大ヒットの裏側にあった“社内闘争”。少子高齢化で頭打ちのスナック菓子市場に「会社の再生をかけてなんとかしないといけない」
集英社オンライン / 2023年3月31日 8時1分
日本で初めてポテトチップスの量産化に成功した湖池屋は今年創業70周年。2017年に発売した「湖池屋プライドポテト」は、頭打ちだったスナック菓子市場において風穴を開けた画期的商品として知られている。その開発秘話とは?
「スナック菓子からせんべいへ」の壁
「商談に行っても目を合わせてもらえませんでした。『湖池屋の商品がなくてもうちは売上をつくれるから』という感じで、しばらく相手にされなかったですね……」
こう切り出すのは、2016年の湖池屋(東京都板橋区)入社時に九州地方の営業を担当していた髙戸万里那さんだ。
髙戸さんは九州出身で、湖池屋ではなくカルビーのポテトチップスに慣れ親しんでいた。
「だからこそ九州では湖池屋が浸透しなくて当たり前、と思いながら営業をしていました。スナック菓子市場は頭打ちで、これ以上、ポテトチップスで新しいことなんてできるわけがない、という空気感でした」と当時を振り返る。
日本では1990年代後半より少子高齢化が始まり、2008年をピークに人口が減り続けている。
スナック菓子は従来、50代を超えると食されなくなる傾向が目立ち、せんべいなどの米菓に移行するのが通説とされていた。
高齢化が進めば進むほど、スナック菓子を食べる層が減る。市場が縮小傾向だった理由はここにある。
「年齢を重ねていくことで、今までよりも少量でよくなるなどの量の問題もあるのですが、味の質に関しても高いものを求めるようになってきます。
たかがスナック菓子とはいえ、求められるレベルが変わってくる。そこまでこだわるのか、という驚きがないとお客さまを取り込めません。
『スナック菓子からせんべいへ』という既成の価値観に飲み込まれてしまう前に、『いくつになってもスナック菓子を食べていい』という受け皿になるような商品が必要だと考えました。
本格的な味で、料理やおつまみにも代わるようなもの。ホンモノを知る大人たちに安心して食べていただけるスナック菓子をつくるために動き出しました」
当時を振り返り、広報部の小幡和哉さんは話す。
「湖池屋の魂」を込めた新ポテトチップスで勝負
こうして2017年2月に誕生したのが「KOIKEYA PRIDE POTATO」である。その前年9月、「FIRE」「生茶」などを手掛けた佐藤章氏を新社長に迎え、10月にはコーポレートブランドの統合を実施した。
「KOIKEYA PRIDE POTATO」は、“新生湖池屋”を象徴する第1弾商品として世に出た。
「商談に持って行った日、初めてバイヤーが目を合わせてくれて、私の話に耳を傾けてくれたんです。この一品は、人の心を動かすものすごい力を持っていると感じました。
この先どんなことがあっても、強く太く大きくしていかなくてはいけない、と使命感と愛が生まれましたね。湖池屋の魂を感じました」
髙戸さんは熱を込めて話す。
素材はもちろん、揚げ方や旨味の閉じ込め方、風味、味付けなど、まるで料理をつくるように徹底的に細部までこだわった。
既存のスナック菓子にはなかった洗練されたパッケージデザインも売場で目を引いた。
「お客さまにあった需要や、喫食シーンに合わせた商品を展開することで、価値を感じて手に取ってくださる。業界は行き詰まりだと言われていましたが、明らかに風向きが変わりました」(髙戸さん)
発売直後に完売、好調に見えたが…
発売1週間で1カ月分の販売予定数量が完売し、欠品に陥ってしまうほどの売れ行きだった。
好調のようにみえたが、じゃがいもが不足するという事態が発生。2016年、生産地の北海道を直撃した台風により起きた「ポテトショック」だ。
その後、ブランドを活性化させるため、ユーザーの需要を探り期間限定品など味のバリエーションを出し続けた。しかし、再び伸び悩んでしまう。
「会社の再生をかけて挑んだ商品をなんとかしないといけない。でも打ち手がない、と困窮していたのが2019年頃です」と小幡さんは話す。
ときを同じくして、営業だった髙戸さんがマーケティング部に異動し、プライドポテトの担当になった。
「バリエーションがありすぎることによって、売上が分散していると感じていました。まだ2年しか経っていないからこそ、象徴となるフレーバーをつくっておかないと将来がみえない。
だからこそ原点に立ち返って、本当においしい自信のある一品を取り戻そうとしたんです」(髙戸さん)
だが、社内からは反発の声が多数上がった。アイテムを集約してしまうと、販売機会の損失につながりかねないからだ。
ポテトチップスを巡る“戦い”を経て大ヒットへ
「売上規模が小さくなる可能性もある。会社の幹となる大事な商品なので、議論に議論を重ねました。愛があるからこそ、みんなで真剣に考えた。闘いでしたね(笑)」と小幡さんは続ける。
「ポテトチップスを食べるとき、食べ比べはあまりしないですよね。目の前にあるひと袋を開けて、1枚食べた瞬間に圧倒的な美味しさが表現できないと意味がない。
なので、象徴の味を4品として、味のブラッシュアップに力を入れました。例えば、普通のポテトチップスの味付けは揚げた後のシーズニング(調味料)のみですが、プライドポテトは魚介出汁で下味をつけて、さらに味付けを重ねることで奥深さを出しています」(髙戸さん)
そうして2020年2月、「湖池屋プライドポテト」として表記も変更してリニューアルすると、大ヒット。
発売5カ月で前年同期比の3倍にあたる2500万袋を出荷した。2023年2月、味やデザインにブラッシュアップを加えて再リニューアルし現在、プライドポテトの販売累計数は約3億袋に達している。
4月には「焦がしキャラメル」味を発売予定。時代の波や客のニーズを見極めながら、変化を続けている。
「店頭においてスナックは2秒で買いたいかどうかが決まると言われています。直感的なおいしさを訴える必要がある」(髙戸さん)とパッケージデザインにもこだわっている。
湖池屋は、今年1月まで東京国立博物館で開催されていた「150年後の国宝展」にも出展。
「ポテトチップスなどのスナック菓子に限らず、もっと食の領域に近い商品をつくっていきたい」(広報部・伊藤恭佑さん)と、挑戦を続ける構えだ。
終わり
取材・文/高山かおり
撮影/近藤みどり
写真提供/湖池屋
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