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「チェンソーマンに俺はなる!」文化系アラフィフ男が体験した「トップガン」並の体育会系チェンソー講習会の実態

集英社オンライン / 2023年4月2日 9時1分

念願の薪ストーブは実に素晴らしい暖房器具であった。だがそれも安定した薪の供給があってこそ。コスパよく薪を生産するためには「チェンソー」を使いこなせばならない……。

寒冷地の自宅で快適に暮らすために、
念願の薪ストーブを導入したのはいいのだが……

このコラムを掲載しているウェブサイトの運営元に忖度するつもりは毛頭ないのだが、僕は今年最初の大きな目標として、「週刊少年ジャンプ」人気2作品のタイトルと名台詞をミックスしたような決意を掲げた。

チェンソーマンに俺はなる!

どうしてもチェンソーを使いこなせる男になりたかった。
いや、なる必要があった。
それは“薪”の安定的な確保のためなのだ。

東京で生まれ育ち仕事をしてきた僕だが、現在は東京のほかに山梨県・山中湖村に家を持ち、デュアルライフ(二拠点生活)を実践している。


その山中湖村の家に今年、念願の薪ストーブがやってきた。

標高約1000メートルに位置する寒冷地の山中湖村での暮らしには、強力な暖房設備が必須だ。
家全体をほっこり温める薪ストーブの威力を初めて味わったこの冬、一家全員で大はしゃぎし、満足していた。
しかし薪ストーブの大きな問題点に気づく(というか実感する)のに、それほど時間はかからなかった。

家族も犬も大好きな薪ストーブ

薪の消費スピードがものすごく早いのだ。
そして、市販されている薪が想像以上に高いのだ。

こりゃあかんと思っていろいろ調べると、それは薪ストーブ使用者共通の悩みだということもわかった。
薪ストーブを冬の生活の基盤としてマジで使っている寒冷地定住者ほど、高い薪の値段に辟易し、解決方法を模索しているようなのだ。

我が家の場合、現時点では山中湖村の家は別荘のようなもので、特に冬場はそんなに長期間過ごすわけではないのだが、近い将来、東京を完全に離れてここに定住するという計画がある。
そのときを見越しての薪ストーブ導入なのだから、行楽客や富裕層向けのインフレ価格である市販薪など、いつまでも買ってはいられない。

となると、道はただひとつ……。

無償譲渡の間伐材をハトする“薪活”をはじめるために、
チェンソーが必要だった

森林国である日本では、間伐などのため出た余剰木材を、引き取りに来れる人には無償で譲ることが多い。
薪ストーブ常用者の一部は、それをこまめにハントしに行く、“薪活”をやっているようなのだ。
こうなったら僕も、はじめるしかない。

でも無償譲渡の間伐材は、ただ切り倒されただけの原木状態で転がっているので、それを現地で適当な大きさに自力でカットし、運び出さなければならない。
したがって薪活にはチェンソーを使いこなす腕が、必須条件となるというわけなのだ。

しかし根っからの文化系であり、大学を卒業以来、チマチマと雑誌を編集したり、文章を書いたりすることを生業にし、音楽鑑賞や読書を趣味としてきた僕にとって、あんなに殺傷能力の高そうな道具を巧みに使いこなす自信はまったくない。

安全面を最優先に、誰かに一からきちんと教えてもらわなければ、チェンソーマンに変身する前にチェンソーに殺されてしまうかも……。
そんな大いなる不安に駆られた僕は、再びネットを猛検索。
様々な団体が、チェンソー技術を習得するための講習会を実施していることを探り当てた。

講習会には、個人が主催するものからチェンソーメーカー主催のもの、また林業関連の法人が主催するものまで様々あるようだが、僕は林業・木材製造業労働災害防止協会という厚生労働省所管の特別民間法人が主催する「チェーンソー講習(安衛則36条8号)」という、本格的かつ公的な講習会に参加することにした。

その名のとおり、林業や木材製造業、また建築業などに従事する人が主な参加者となるようだが、案内には、初心者にも丁寧に教えるので、これからチェンソーを使いたいと思っている一般の方もぜひご参加くださいと書いてあった。
“大は小を兼ねる”と同様、“プロはアマを兼ねる”はずだから、これを受けておけば損になることはないはずだ。

山中湖の我が家から車で1時間少々のところにある、山梨県某市で開かれるその講習会は、学科教育9時間+実技教育9時間=計18時間の内容を、3日間に分けてみっちりおこなうものだ。

2023年3月5日の我が家からの眺め。3月でこれだから……

エリートチェンソー使いを目指し屈強な男が集う
“チェーンソー講習”マーヴェリック

講習会初日。
講義部屋に並べられた机の所定の位置に座っていると、まずは年配の男性が出てきて、我々に向かってこんな趣旨のことを言った。
「君たちは、エリートのチェンソー使いになるべくここに集った。この講習会を無事に修了すれば、山で仕事をするものが必ず持っていなければならないライセンスを発行する。だが、その道は厳しいから覚悟しておけ。講師を紹介しよう。すべての山を知り尽くし、伐倒した樹木は万を超える、我が国最高のチェンソーマン、コールネームは“マーヴェリック”だ」

受講生の背後からドカドカという安全靴の音を響かせて“マーヴェリック”と呼ばれる講師が現れ、目の前の教壇に立った。
僕は彼の顔を見た瞬間、思わず机に突っ伏してしまった。
昨夜、酒場で我々受講生と一悶着を起こしたその男だったからだ。
そういえばあいつ確かに、林業の会社を経営していると言ってたっけ。

マーヴェリックはもちろん我々のことに気づいているだろうが、眉根ひとつ動かさず、『チェーンソー作業の安全ナビ』というタイトルの教本を手に掲げ、静かにこう言った。
「テキストは全員に行き渡っているな」
すると僕の後ろの席に座っている受講生の山田さん、コールネーム“ヤマチャン”が果敢に発言した。
「もう一字一句、暗記していますよ」

マーヴェリックはフンと鼻で笑い、テキストを教壇脇のゴミ箱にバサっと捨てて言い放った。
「こんなテキストに書かれている内容は、敵である立木も熟知している。これからお前たちが学ぶことはお遊びじゃない。実戦だ!」

僕をはじめとする全受講生が、ハッとさせられる思いだった。

チェーンソー講習会のテキスト(本当は捨ててません)

講習会(フィクションを含む)全課程を終了し、
晴れてチェンソーマンになった!

それからの3日間は、辛く厳しいものだった。
作業の準備から始まり、チェンソーの基本操作、伐木作業や造材作業のハウツー、チェンソーの構造の把握、手入れ方法、作業で起こりやすい事故とそれを防ぐ方法、伐木にまつわる関係法令などについて、必死で学んでいった。
中でも3日目の、実際にチェンソーを使った模擬ミッション訓練は、なかなか厳しいものだった。

当初は受講生同士のいざこざや、講師であるマーヴェリックに対してのわだかまりもあったが、休憩時間を利用し、僕を含めた全員が筋骨隆々の上半身をむき出しにしてバレーボールやフットボールをやったあとにはすっかり解消。
チーム一丸となり、チェンソー技能の習得に励んだ。

僕のバディとなったヤマチャンが、実技講習の際、チェンソー作業で起こりうるもっとも危険な現象で、慎重に避けなければならない“キックバック”を実際に体験してしまうというトラウマ的な場面もあった。
だがそうした試練も乗り越え、3日間という長丁場の講習の末、19名の受講生全員がライセンスを取得した。

ライセンスこと“労働安全衛生特別教育等修了証”。特に林業従事者には取得義務がある

かくして我々は、晴れてチェンソーマンとなったのである。
マーヴェリックは、立派に巣立っていく我々に向かって、涙をこらえながら最後にこう言った。
「明日からも、ご安全に!」

チェンソー作業に必要な道具を完璧に揃え、第一回目の薪活へ

チェンソーマンとなった僕の、その後の行動は早かった。
新品のチェンソー本体に加え、 “チャップス”と呼ばれる防護服、そしてチェンソー作業専用ヘルメットなどを、次々とネットで手に入れた。

スウェーデンのハスクバーナ、ドイツのスチール、そして日本のやまびこが世界三大チェンソーメーカーとして知られていて、僕はその中からハスクバーナのチェンソーを選んだ。
「120e MarkⅡ」という、40cc2サイクルエンジンを備えた、ハスクバーナの中ではもっとも初心者向けのモデルだ。
講習会でマーヴェリックは、その3メーカーだったらどこのものでも問題ないと言っていたが、ハスクバーナを選んだのは、名前がカッコよかったからだ。
あと、スウェディッシュポップも好きだし。

愛機のハスクバーナ「120e MarkⅡ」。バーのロゴが上下逆さまなのは間違いではなく、片減り防止のため、メンテナンスのたび上下を入れ替える

同じ理由から、チャップスもハスクバーナにした。
チェンソー作業においては、腕や胴体をケガすることは滅多にないが、自分の足を切ってしまう事故が頻発するそうだ。
チャップスは、高速回転中の刃が万一足に当たってしまった際、何重にも仕込まれている内部の繊維がチェンソーの刃とスプロケットに絡みつき、回転を止めてくれる。

ハスクバーナのチャップス。数箇所のバックルを使い、足の後ろ側で留める構造

チェンソーのバーの先端上部にものを当ててしまうと、すごい勢いで刃が自分の顔や頭に向かって跳ね返ってくることがある。
これが前述の、恐ろしき“キックバック”だが、チェンソーにはそんなときに回転を急停止する機能がついている。
だが万一止まらなかったら、マジでシャレにならない大ケガを負うので、ひさしとバイザーがついた専用ヘルメットを必ずかぶらなければならない。

最近は音が静かな電動式もあるが、一般的なチェンソーはエンジン式で作業中にかなり大きな音が出るので、ヘルメットには防音用のイヤーマフもついている。
ちなみにヘルメットもハスクバーナにしようかと思ったのだが、特に義理も恩もないのに宣伝マンみたいになりそうだったのであえて避け、ネットで見つけたお手頃価格のよくわからないメーカーのものにした(でも実際に手にしてみると、作りが雑なので少々後悔。やっぱりハスクバーナにしとけばよかった……)。

そんなチェンソー専用ヘルメット

他にも、安全靴や防振グローブ、メンテナンスセット、チェンオイル&エンジンオイル、燃料混合用タンクなどなど、あらゆるものを揃えたが、こまごましているうえに長くなるので割愛する。
チェンソーマンも結構大変なのだ。

そして先日、とある薪クラブの方に声をかけていただき、新品のチェンソーを手に、初めての“薪活”に行ってきた。
でも、持ってきた薪をストーブの燃料として使うまでには、ものすごく大変だという噂の薪割り作業、そして1〜2年をかけての完全乾燥という工程を経なければならない。

第一回薪活の成果。だがこの程度の量では、あっという間に使い切ってしまう

というわけで、次回「チェンソーマンと同一人物!? “マキワリマン”登場!」の巻!に続く(かどうかはわからない)。

※メーカーの商品名など一般的には「チェンソー」と呼ばれるものの、講習会では「チェーンソー」とされていたので、本文には両表記が併存しています。

リアルチェンソーマン化する筆者

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